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手話を使う幼児の言語発達の豊かさ

 手話を使う子どもたちの会話はどのようなものでしょうか? 手話は使わないほうがいい、と思っている専門家や親御さんたちは少なくありませんが、使ってみないと手話のよさも限界もわかりません。使わない方がいいと言う人たちは本当は使ったことがないのだろうと思います。

 

 さて、手話を発達早期から使うと、平均的には1歳前後で手話が獲得できます。そして、その手話を使って周りの人とコミュニケーションし、そこから子どもはいろいろなことを知っていきます。手話は視覚言語です。視覚言語ということは(視覚障害がなければ)100%確実に「見える」ということなので、グーの形でほほを叩く「アンパンマン」とグーの形でおでこを叩く「病気」の違いは、形と意味が確実に区別されます。それゆえに手話は語として記憶されていきます。そして1歳半前後になると、手話の単語が急激に増えていく「語彙爆発」という現象が起こります(もちろん手話をしっかり使っていけば、ですが)。 言語発達の過程.jpg

この「語彙爆発」という現象は、きこえる子が音声言語を獲得していく1歳半から2歳代にも見られます。しかし、きこえない子が音声言語を獲得していく過程では、この時期にはまだ「語彙爆発」は観察されません(少なくとも私の知る範囲ではそうです)。それは、きこえない子にとっての音声言語は、まだ「きこえ」の状態が曖昧なので、意味と結びついた語の音韻系列の違いが確実に弁別できず、記憶できないからだろうと思います(「かしちょうだい」「なしちょうだい」「はしちょうだい」の違いをきいても100%区別できなければ(いずれのきこえも「アイオーダイ」くらいであれば)モノの名前を区別して記憶することは難しいでしょう)。語彙として蓄積されなければ(弁別できる語が50語程度を越えなければ)

「語彙爆発」も起きません。音声言語のみで行く場合、この言語的空白の期間は2歳頃まで続きます。

 

 一方で手話では確実に語が蓄積されていきます。それにつれて、交わされる会話も知っていく知識も豊富になっていきます。以下は、1歳9か月の子どもの記録から。

 

Fおばあちゃんが一ヶ月ぶりに上京。空港で「ふ」の指文字(=Fおばあちゃん)をしながら大喜び。飛行機を見て、手話で「あれが、ひこうき」とやったら一回で覚えた。本物の力はすごい!!本物といえば、お寿司屋の大きな水槽に魚が泳いでいたので、そこで魚の手話をした。別の時、ヨーカ堂の鮮魚コーナーでサバを買ったら、「魚、魚」と手話をした。切り身なのに、よくわかったなあと、びっくりした。」(1歳9か月)

 

 新しい語に出会って1回ですぐに覚えることを「即時マッピング」と言いますが、この即時マッピングができるから、次々とことばを覚える「語彙爆発」も生じます。どんどん知らない言葉を覚えていくわけです。手話にはそのメカニズムがあることがわかります。「見てわかる」言語だから起こり得ることです。以下は、2歳1カ月児の例です。

 

「学校に通い始めて約2ヶ月が過ぎて、先生方やお友だち、ママの顔も覚え始めたようです。学校に通う電車の中では、学校、先生、お友だちの写真カードを何度も何度もめくって見ては、指さししながらアッアッと声を出したりしています。降りる駅に近づくと、「おんりする」と言いながら手話をしていました。最初はわからない様子でしたが、最近では、自分から「おんり?」と手話できいてきたりするようになりました。「うん、次、おんりするよ。」と言い、手話で表現すると、帽子をかぶり、絵本をしまい、降りる準備をして、近くにいる人たちに「バイバイ」をするようになりました。」(2歳1カ月)

 

一語文ですが、手話という「ことば」を使って、電車の乗り降りのことがママと会話できています。以下も同じく2歳1カ月児です。

 

「補聴器屋さんの帰りにランチをして、おもちゃをもらいました。すぐに壊れてしまいました。家に帰ってきて、ランチでもらったおもちゃを見て、手話で「壊れてる」「無理」と表現したのでビックリしました。」(2歳1カ月)

 

このお子さんは、手話が二語の連鎖で出始めています。このように、「ことば」があれば、玩具が壊れて残念に思う自分の気持ちも表現できます。ことばがあるとないとでは、物事への認識や感情、思考の深まりが違うのです。以前に「ことばが認識を育てる」ことについて書きましたが、1歳から2歳のあいだを、ことばをもって過ごすかそうでないかということは、その後の子どもの成長発達に大きな影響を及ぼします。以下は、2歳9か月児の記録です。

 

 「ままごとをした。『ママはデザートに果物がいいな。果物はどこにあるのかな?』というと、A『本ある』とことば絵じてんを持ってきた。M『あったあった、これだね?』とスパゲッティーの絵を指すと、A『違うよ!』M『あ、間違った。これだ』とステーキを指さすと、『違うよ!』M『え~っ、わからない』と言うと、A『いちご、りんご、ばなな、ぶどう』と自分で選んで指さした。」(2歳9か月)

 

 「果物」という上位概念が2歳代で理解されており、ママとの楽しいやりとりができています。ことばを取り出して、そのことばでクイズを楽しむという、生活言語からレベルアップした高次の言語活動が、手話でのやりとりの中で確実に育ってきていることがわかります。ここまでくると、学習言語の土台づくりの時期に入ってきていると言えます。手話を使わないで音声言語だけでは、とても3歳前にここまで到達するのは難しいと思います。