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手話から日本語へ~1~3歳代の手話と日本語の発達

手話か口話か? 手話も口話も?

手話からスタートした子どもたちはどのように日本語を獲得していくのでしょうか? ある医療機関では、「手話を使ったら声を出さなくなる」という理由で手話を禁止するのだそうです。また、ある中等度難聴児のママは「手話は必要ないから」と言われたそうです。本当に手話をすると子どもは声を出さなくなるのでしょうか?本当に難聴児には手話は必要ないのでしょうか?   

今回は、1歳から3歳頃までの手話からスタートした子どもたちが、どのように日本語を獲得していくのか、まずその発達の筋道を紹介し、最後に手話からスタートした難聴児と聾児の3歳時のママとの会話を紹介します。

手話から日本語へ①.jpgなおここでいう手話とは、日本語対応手話(=口話併用手話、手話付きスピーチ、手指日本語)のことです。日本語対応手話とは音声に手話をつけるやり方ですから日本語の範疇に入ります。もちろん、0~1歳の単語段階では対応手話か日本手話かという区別は必要ありません。しかし、1歳半ばあたりで2語文が表出される頃になると、文を使ったやりとりに日本語の文法を用いるのか(つまり日本語対応手話を使うのか)、手話の文法を用いるのか(日本手話の獲得の方向に向かうのか)という問題が生じてきます。ここが教育方法の大きな分かれ目になるところですが、公立聾学校には保護者からの両方のニーズがあり、必然的に手話も口話もという立場にたつことになります。では、それは双方からの要望に応えようとするための中途半端で消極的な方法なのでしょうか? いえ決してそうではなく、両方のメリットが活かされたbestとまでは言いませんがbetterな方法だと私はこれまでの経験から考えています。

*そのエビデンスはこのホームページの下記の項を参照して下さい。

TOP>論文・資料・教材>「9歳の壁」を越え始めたきこえない子どもたち。

nanchosien.com/papers/post_70.html

 

ここでは、筆者が行った保護者聞き取り調査(2017年都立ろう学校2校21名対象)の結果及び都立ろう学校乳幼児相談保護者育児記録(2003~2019年)より事例を紹介つつ、手話から日本語獲得への道筋を見ていきたいと思います。


 

1.比較的聴力の軽い子どもたち(概ね90dB未満)の日本語の発達


①音に気づく~0歳後半~

 

手話から日本語へ②.jpgこの時期はまだ指文字や文字といった視覚日本語の獲得は困難で、子どもは、補聴器を通して入ってくる音や声を、音楽やリズム、くすぐりあそびや手あそび、絵本でのオノマトペや繰り返しのあることばとして楽しんだりできます。このような活動を通してまず音への関心を育てるのが0歳後半から1歳代です。

 


手話から日本語へ③.jpgのサムネール画像

②音声模倣・音声初語・音声単語獲得~1歳代

 

手話から日本語へ④.jpg1歳以前より乳相に来談し手話を用いてきた子どもたちは、補聴器を装用し音声をきいてはいても聴力の如何によらず手話の初語のほうが先に(1歳前後)出ますが、比較的聴力の軽い子どもたち(概ね90dB未満・以下)は、やや遅れて音声の初語も出てきます。この子どもたち(最初の図の【聴覚活用タイプ】)は、音声の模倣を楽しんだり、音声初語の発語があったりなど手話も使いつつ音声言語の発達も同時に並行して進んでいき、音声での語彙も徐々に増えてきます。そのほとんどは、最初に手話として獲得しコミュニケーションの中で使われている語を日本語に置き換えたもの手話から日本語へ⑤.pptx.jpgのサムネール画像のサムネール画像で、手話を伴わない音声のみの単独で表出される語もあります。

 一方で90dB以上の聴力の重い子たちは音声初語が出る子は比較的少ないです。この子どもたちは2歳半頃に指文字で日本語語彙を獲得し始めるまでは手話中心の言語発達をしていきます。最初の図のいちばん下の【指文字タイプ】の子たちです。この子たちの日本語獲得はもう少し時間がかかります。ただ、手話での会話内容は、きこえる子が音声言語でやりとりするのと同じように内容豊かなものです。

 

手話から日本語へ⑥.jpg


③日本語対応手話へ~2歳代以降

手話から日本語へ⑦.jpg2歳になると、手話での会話は一語文(単語)から二語文に入っていきますが、ここで使われる手話は聴家庭では日本語対応手話がほとんどです。そして、日本語対応手話で表出される文には音声が伴っているので、子どもたちも文の中の一部の語を音声でイントネーションや口形を真似たり、自分で単語として表出したりするようになります(事例I~M)。

 


2.比較的聴力の重い子どもたち(概ね90dB以上)の日本語の発達


①手指喃語・手話初語・二語文・語彙爆発・・・0歳代後半~2歳

 

手話から日本語へ⑧.jpg2017調査対象児21名のうち90dB以上の幼児は8名いますが、そのうち6名は手話喃語を観察しています(2名は不明)。また、手話初語は8名全員が観察しています。その後、手話の語彙爆発も8名全員が観察しています。こうした事実から、聴力の重い子どもたちの言語獲得は、1歳代から2歳代にかけて手話中心に進んでいることがわかります。

 また話による語彙の爆発や二語文の獲得は1歳代の後半、ほぼ同じ頃にみられます。

 

②指文字の獲得・・・1歳半~3歳代

・手話の延長としての頭指文字や固有名詞の表現として使う

手話から日本語へ⑨.jpg「木〇先生」を表すときに「キ」+先生(手話)と表すことがあります。これを頭(かしら)指文字と言っています。また、例えばペットの名前などの固有名詞は手話ではなく、指文字でそのまま表すことも多いです。さらに、「ハム」「麩(ふ)」「プラレール」など手話で表現できない単語について大人が指文字を使ってみせるなどのこともあります。このように手話では表現できない時に指文字を使うことがあります。(日本手話の場合は、CLやNMSなどを駆使しますが、日本語対応手話を用いる家庭では指文字をそのまま使い、意味がわからない時には手話で説明したり絵や写真など非言語的手段を駆使して説明することになります)。

手話を日本語で知ってほしいとき使う

手話から日本語へ⑩.jpg話をしたあとに指文字で単語を押さえる方法(「猫だね(手話)」+「ネコ(指文字)」)で大人が指文字を表出し、それを子どもが見てまねるという方法で、指文字を通して日本語を教えます【事例P ~R)。

このように、比較的聴力が重く手話中心でこれまできた子どもたちは、2歳後半から3歳頃にかけて主に指文字を使って日本語を獲得し始めます。ただ聴力の軽い子どもたちが、日本語対応手話で音声も併用してリアルタイムに会話していくのに対して、聴力の重い子どもたちは、手話での会話にわざわざ自分から指文字を使って会話をすることは、手手話から日本語へ⑪.jpgのサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像のサムネール画像話で表せない語彙に使うくらいしかないでしょう。そのため日本語に触れる時間的な少なさという問題が生じます。それを補うためには、大人の側から日本語対応手話を使いながら、ターゲットとなる手話語彙を指文字で表現し、日本語を教えていくといった工夫が必要になります。また、以下の項のように文字を通して日本語を学ぶ機会を増やしていくことも必要です。


3.文字から日本語を~写真・絵カード、絵日記、オリジナルことば絵じてん、絵本など

 文字による日本語獲得についてはここでは省略します。それぞれの意義については該当の項を参照して下さい。

 

 

〇まとめ

手話から日本語へ⑫.pptx.jpg最後に二つの事例を紹介します。一つ目は65dBの難聴児の事例です。医師からは「手話は必要ないから」と言われる聴力の子どもです。右のファイルでは3歳5か月のとき、手話と日本語の二つの言語の違いに気づき、手話は一つでも日本語では「うれしい」「たのしい」という別々の意味があることを発見しています。二つの言語を頭の中で比べて比較しその違いを考えることができています。抽象的な思考とは目に見えない物事を頭の中で考えることのできる力です。この子は、3歳5カ月で、目には見ることのできない「うれしい」「たのしい」という感情を比べることができており、さらに手話というもう一つ別の言語ともその違いを比べることができています。また3歳6か月のとき、ママに言わせれば「屁理屈」かもしれませんが、理由付けをしておばあちゃんを説得する言い方を考えることができています。こうした思考ができるのは0歳の時から目に見える手話という言語を使い、「考える」力を育ててきたからだと思います。曖昧な音声のみで育った60dBの難聴児にこれだけの論理的な思考ができるかというとそうはいかないのではないでしょうか。

 

手話から日本語へ⑬.pptx.jpgまた、右の110dBの子どもは、冬から春になりつつあるときに、葉芽(ようが)と花芽(はなめ)の違いについてママと会話しています。身近な自然に触れ、変わりゆく季節の変化やその美しさに関心をもつだけの思考が育っている様子がうかがわれます。

 では、この二人に共通していることはなんでしょうか? それは単にSpeechができるかどうかという目先のことではなく、Languageという、思考をするための「言語」を育ててきたという点です。手話でスタートするという最大の利点は、100%見てわかる会話をすることで子どもの経験を深め、その経験をもとに言語(手話・日本語)を使って考え、豊かな想像力を膨らませ、そこで培われた力が書きことばの土台となって学力の形成や抽象的・論理的思考という学習言語の世界へと繋がっていくという点です。頭の中のLanguageを育てる、それが手話でスタートすることの大切な意味なのだと思います。

 

 さて、ここまでは主として乳幼児教育相談の年齢段階での手話と日本語の発達の過程でした。これより以降は、聾学校幼稚部に入学して言語の指導を継続するのがよいと思います。友達と互いにわかりあえる手話を通して関わることで自分の気持ちをコントロールする力、互いのぶつかり合いの中から自分たちで問題を解決する力、友達と役割を分担し互いに考えを出し合い、協力して遊びや生活をつくっていく力は、お互いに通じ合える共通の言語・コミュニケーション手段があってのことです。そうした集団の関わりの中でこそ社会性は育つものだと思います。そしてこのような生活の中で身につけた言語こそ、小学校以降の教科学習の土台になるものだと思います。

 

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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