全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

子どもを伸ばす絵本の読み聞かせ方は?

内田伸子氏(お茶の水女子大名誉教授)の研究に、親の子どもへの関わり方が、幼児期や小学校になってからの語彙力や学力にどう関係しているのかを調査した一連の研究があります。その研究の中で、内田らは家庭での親子の関わり方(「しつけスタイル」)の違いによって、小学生になってからの語彙力や読解力に差が出るということを明らかにしてます。その関わり方の違いとは、一言でいえば 内田伸子1.jpg「共有型しつけ」と「強制型しつけ」で、前者の関わり方は、子どもと一緒にいることを楽しみ、子どもと一緒に生活し、遊び、本を読み、子どもに「これこれこうしなさい!」ではなく「どうすればいいと思う?」と考えさせ、「ほらごらん、だからお母さんが言ったでしょ!」と子どもを脅迫せず、子どもに任せ、見守るという関わり方ができるという関わり方で、後者の関わり方とは、がみがみとつい叱ることが多く、子どもに命令したり禁止することが多く、子どもは自信なく、いつも親の顔色をうかがい、自己肯定感が育たない関わり方ということになると思います。 ただ、実際にはそのどちらとも言い切れない家庭のほうが多いのかもしれませんが、ここから言えることは、子どもにとって楽し 内田伸子2.jpgのサムネール画像 い家庭のほうが、子どもも学ぼうとする意欲も あり、結果的に語彙力や読解力も伸びるということだろうと思います。そして、内田らはこの結果から、「子どもを伸ばす10か条」を提案しています。「50の文字を教えるより、100の『なんだろう?』を育てよう、というのは確かにそうだと思いますし、実際に小さい時から手話を使ってコミュニケーションをし、子どもにこのような何かを意欲的に追及したり、ものごとを深く見つめる力が育っている子どもが多いことも実感しています。

 

〇絵本の読み聞かせスタイルの違いから

さて、内田らの一連の研究の中に絵本を母親に読んでもらい、その読み聞かせ方の違いがどう子どもの語彙力などに反映していくのでしょうか? (『しつけスタイルは学力基盤力の形成に影響するか』2012,浜野隆、内田伸子) キツネのお客様1.jpg

 

 ここでは、その具体的な事例について紹介します。取り上げられた絵本は『きつねのおきゃくさま』(あまんきみこ)。これは小2国語(教育出版)でも取り上げられています。あらすじは、お腹をすかせて歩いていた一匹のきつねが、痩せたひよこに出会います。きつねはそのひよこをすぐに食べるのではなく、「ふとらせてからたべよう」と決め、家に連れて帰ります。しかし、ひよこの「きつねおにいちゃん」という呼びかけに対して、きつねの心は揺らぎ、ひよこを大切に育てます。同じ様にきつねは、あひるとうさぎも育てることになります。ひよこ、あひる、うさぎが順調に「ふとってきた」頃、くろくも山からおおかみがやってきます。きつねは3匹を守ろうと勇敢に戦い、おおかみを追い払います。しかし、その夜、きつねは恥ずかしそうに笑って死んでいきます。この話をそれぞれタイプの異なるお母さんに、わが子に読み聞かせてもらいます。

まず最初のタイプのお母さんの読み聞かせは以下のようです。Mは母、Cは子どもです。

 

M 読み聞かせ終了後:分かった?(Cを見る)

M きつねさん,ほんとはどうしたかったんだっけ?(Cを見る)

C 食べたかった(Mを見て,小さな声で)

Mだけど,その前に戦って(ページに戻す)死んじゃったんだって。ほら。(Cを見る)

C なんで戦って?(Mを見て,小さな声で)

Mんとね(その前のページに戻す),おおかみって,きつねより全然大きいでしょ。

C うん(絵を見ている)

Mだから強いの。見て(おおかみを指さして),だって,こんな牙だってすごいんだよ,爪だって。

C ちょっと生えてる(きつねの爪を指さす)

Mえ,でも、だってこんなにすごいんだよ(おおかみの爪を指さしてCを見る)

C (黙る)

 

もう一つのタイプのお母さんの例は、以下のようです。

 

M きつねさん、死んじゃった(Cを見る)

C (Mと目を見合わせて悲しそうな顔をする)

M みんなを守るためにね...ゆうきりんりんで戦ったから

C (ページを戻して3ページ前からもう一度見ていく)

Mどうしてどうして? きつねさん、こんなぼろぼろになって死んじゃった

C (Mと一緒にページを持ってめくる)

 

二つのタイプの違うお母さんの読み聞かせですが、研究報告の中でこう解説されています。

「最初の例は、物語の余韻にひたる間もなく、母親がお話に対する理解を問うような質問を投げかける場面である。そして、子どもからの質問に対しては、説得的に説明している様子が見られる。子どもの「ちょっと生えている」というささやかな反論も、母親は自分の考えを押して、子どもを黙らせてしまう様子が見られる。」

 

これに対して二番目の例ではこう解説されています。

「この事例は、子どもが、主人公のきつねが死んでしまうという、予想もしていなかった出来事に直面した場面のものである。母親が、子どもの驚きや悲しみの気持ちを受け止め、共感していることが窺える。そして、答えを明示してしまうのではなく、子どもが納得して次へ進むまで、十分に考える時間を与え、共感的に待つ様子が見られる。」

 

さて、これら二つのタイプですが、最初のタイプのお母さんと後のタイプとでは、子どもの内面に育つものは違ってくるということでしょう。親が自分に共感してくれ、理解してくれるとき、子どもは自由に考え、頭も働かせます。そして、その結果として知識を広げ思考する力も高めます。このようなよい循環をつくることが結果的に語彙力や学力を高めることにつながると考えてよいのではないかと思います。