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年長児が一人で読める絵本は?

 ある保護者の方から「年長の子どもが一人で読んで、このくらいなら読んで内容を理解できる絵本ってどんな絵本ですか?」という質問をいただきました。

これはとても難しい質問です。まず、絵本は基本的に子どもが一人で読むものではなく、大人が読み聞かせ、一緒に楽しむものなので、子どもが一人で読むという前提で書かれてはいません。とくに絵本が大事なのは、家庭でお母さんやお父さんに読んでもらい、また、家族で一緒に再現遊びなどして楽しむことで親子・家族の絆を築き、絵本の想像の世界を通して豊かなことばや心を身につけるところに大きな意味があると思います。

しかし、きこえない子の場合、やはり日本語力を高め、本を読める力を身につけてほしいという願いもあって、このくらいの絵本なら自分で読んで理解してほしいという親の願いもよくわかります。

 

○小1国語教科書に出てくる「絵本」

そこで、国語教科書にとりあげられている絵本の中から、小1年で扱われているものをとりあげ、そこで使われている日本語のレベルから、子どもに求められている読みの力を考えてみたいと思います。小1の教科書で取り上げられているということは、小1の子どもでも自分で読んでだいたい理解できるというレベルのものが採用されていると考えられるからです。

教科書でとりあげられている絵本の扱いには二とおりあって、教師が読みきかせる扱いになっているものと、時間をかけて子どもと一緒に読み進め、そこでの出来事や登場人物の心情などを考えさせていくものがありますが、ここで取り上げるのは後者の方です。 大きなかぶ0.jpg

 

まず、どの教科書にも必ずとりあげられているのが『大きなかぶ』です。これには内田莉莎子訳のものと西郷竹彦訳のものがあり、教科書の頁数は10頁くらいですが、文は少し違います。ここで引用するのは前者(出版社4社採用)です。冒頭の部分を取り出してみましょう。

 

①おじいさんが かぶを うえました。②「あまい、あまい、かぶに なれ。おおきな おおきな かぶに なれ。」 ③あまい、げんきのよい、とてつもなく おおきな かぶが できました。④おじいさんは、かぶを ぬこうと しました。⑤「うんとこしょ、どっこいしょ。」 ⑥ところが、かぶは ぬけません。

 

この文は小1の子どもにとって難しいものでしょうか? 福音館の「絵本の与え方」では「2~3歳の絵本」に分類されていますから、読み聞かせるだけであれば年少の子どもなら十分理解し楽しめる内容ということになりますが、自分で読むとなると小1で扱うレベルということになります。つまりここに出てくる語いや文法は、小1の子であればだいたい理解できるという前提で採用されていることになります。

では、獲得語彙数に課題のあるきこえない子が読むとしたらどうでしょうか? 仮に、10001500語くらいの日本語語彙数をもった子どもが読んだとしたらどうでしょうか? 上の文の下線が引いてある語は、『新・おやこ手話じてん』に掲載されていない語です。下線が引かれていない語は同書に掲載されている語です。この辞典には1200~1300語の日本語と手話が掲載されていますから、このくらいの日本語語彙数をもっている子であれば、下線部が理解できなくとも、ほぼ9割方は、初見でさし絵抜きで読んでも内容を理解できると思います。というのは下線部の意味がわからなかったとしても前後の語から類推しながら理解することができるからです。

スイミー0.jpg 

もう一つ、例をあげてみます。『スイミー』(谷川俊太郎訳)です。これは教科書では12頁使われています。東京書籍では小1下で、学校図書では小2上で取り上げられていますが、文は同一です。以下は冒頭の部分です。

 

①広い 海のどこかに、小さな 魚のきょうだいたちが、たのしく くらしていた

②みんな 赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりも まっ黒、でも およぐのは 

だれよりも はやかった。

 

これらの文では、上記じてんに掲載されていない語は3語です。1300語くらいの日本語語彙数をもっている子どもであれば、8~9割方初見で読んで理解できると思います。

 

○ほかにはどんな絵本があるか?

 

では、このレベルの日本語の文の絵本とは、ほかにどんなものがあるのでしょうか? 内容や使用語彙などから考えると、『ぐりとぐら』シリーズ(中川李枝子)、『てぶくろ』(内田莉莎子訳)、『3びきのくま』(トルストイ原作)、『はじめてのおつかい』『あさえとちいさいいもうと』(以上筒井頼子)などでしょうか。もちろんほかにもたくさんあります。『桃太郎』『一寸法師』など日本昔話なども。

 これらの絵本は、年長さんなら、手話を併用して読んでもらえば理解できる内容と思います。では一人で読んだらどうでしょうか? 何度か繰り返して読んでもらい、内容を熟知していて、日本語と手話との変換がある程度できれば、自分で文を読んでも理解できるでしょう。

 

○絵本が自分で読めるために必要な語彙数は?

新おやこ手話じてん.jpgのサムネール画像このように考えてみると、絵本が自分で読めるためには年長から小1くらいの年齢で1,0001,500語位の日本語の語彙数(=「おやこ手話じてん」掲載語彙)が必要だろうと思います。では、それだけの語彙数を身につけられるのか?ということになりますが、それは幼少期からの日常会話、絵日記、絵本の読み聞かせ、ことば絵じてん、筆談、言葉遊び、ワークなど様々な言語活動を通して、どれだけ日本語を身につけてきたかということになりますが、決して不可能な数字ではありません。そうした日常的な活動の結果として、上にあげたようなストーリーのある絵本が一人でも読めるようになっていくのだと思います。

 

【子どもの語彙数の簡単な調べ方】

右の『新」おやこ手話じてん」の手話掲載頁は約150頁で、各頁には8つの手話が掲載されています。つまり150×8=1,200語が収録手話数です。一つ一つ、指文字か文字で語を提示して子どもに手話で応えてもらえれば(あるいは逆に、手話を提示して指文字と音声で応えてもらう)、その子の獲得語彙数(手話と日本語が結びついている語の数)がわかりますが、1,200もやるのは大変。そこで簡単な方法として、各頁の最初の語だけを提示していきます。これなら150頁の各頁の冒頭の語だけですから150語の提示で終わります。そしてそのうち答えられた語の数を8倍しておよその語彙数を推定します。例えば150語中75語わかったとすれば、75×8=600語。その子どもの獲得語彙数は600語と推定します。もちろん辞典に掲載されていないけれど知っている語もあるでしょうからとりあえず600語以上ということになります。600語で自分で教科書が読めるか?といったらちょっと厳しい数。やはり最低1,000語は必要でしょう。日常会話にだいたい間に合う日本語の語彙数です。