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絵本の読み聞かせ

〇「タータン」はきこえない子?

 きこえない子が出てくる絵本ってあるんですか?それがあるんですね。 ノンタンいもうといいな.jpgのサムネール画像 ノンタンいもうといいな2.JPGのサムネール画像

 ノンタンの妹タータンがどうもきこえない子のようなのです。そう思って絵本をみると、確かに『ノンタン、いもうといいな』に初登場のタータンは、絵本の中でひと言もしゃべっていませんし、『ノンタン・タータンあそび図鑑』の中には、タータンが手話を教えてくれるページがあるのです。そんなことが根拠になってタータンはどうもきこえない子らしい、ということが言われるようになったのですが、ただ、 ノンタン・タータン遊び図鑑.jpg著者のきよのさちこさんは、そうはっきりと言っているわけではないし、もう故人なので今となっては読む側の推測にしかすぎません。それでも、きこえない子がふつうに人気絵本に登場するのはとてもうれしいことです。 ノンタン・タータン遊び図鑑3.jpg

 

〇『しゅわしゅわむら』シリーズ(くせさなえ著、偕成社)

『しゅわしゅわむらのどうぶつたち』と『おいしいもの、どれ?』の2冊が出ています。 しゅわしゅわむらのどうぶつたち.JPG

 動物の名前の手話や動詞の手話も出てきます。この絵本に登場する人や動物たちも手話をしています。これから手話を覚えようという人にはぴったりの絵本です。 しゅわしゅわむらの動物たち拡大版.jpg

 

『手であそぼう』シリーズ(田中ひろし文・せべまさゆき絵、ほるぷ出版)

ぜ んぶで5冊出ています。大きな絵で手話のイラストが分かりやすいです。絵本の巻末には出てくる手話の解説なども書かれています。

まねっこてんき.jpg

まねっこ動物園.jpg まねっこ赤青黄色.jpgのサムネール画像

上の3冊のほかに『まねっこ・まちのひと』『てですき・きらい』が出ています。

き こえない赤ちゃんも1歳近くなると、写真や絵を見て自分の経験を思い出すことができるようになります(象徴機能の発達)。また、この頃、ママ(大人)が指さしたものを見たり、自分が見つけたもの・関心のあるものをママに知らせたりなど、指さしを通して自分とものとママ(大人)で、経験を共有することができるようになります(共同注意・三項関係の成立)。このような時期が来ると、きこえない子も絵本を一緒に楽しむことができるようになります。

そこで、今日は、沢山ある赤ちゃん絵本の中から、0歳後半から楽しめる絵本で昔から定評のある絵本やきこえない子をもった親御さんが楽しく読み聞かせている絵本を、何回かに分けてとりあげて紹介してみたいと思います。ただ、これはとても大事なことなのですが、0歳からとか1歳からというのはひとつの目安であって、その年齢を過ぎると楽しめないとか読むべきじゃないなどということではありません。本当は絵本に年齢は関係ありません。

1歳で楽しめる絵本は、5歳になっても楽しめる絵本が多いです。絵本は使い方次第。絵本の世界をぜひ十分に楽しんでいただきたいと思います。

 

『いないいないばあ』(松谷みよ子、童心社)

 まず、最初に紹介するのは『いないいないばあ』赤ちゃんは「いないいないばあ」が大好きです。この本は、次々といろんな動物たちが登場して「いないいないばあ」をします。き いないいないばあ.jpgこえない子も、手話で「だ~れ?」とやりながら、「いないいない」「ばあ」「ちゅうちゅう、ねずみさんだ」など手話をしながら楽しむことができます。ぬいぐるみなどを持ってきて絵本の後ろから少し出しながら、「だれ?」とやりながら、いないいないばあをすると子どもも大いに楽しめます。

また、この種の絵本はほかにもあります。講談社の『いないいないばあ』(いもとようこ)シリーズ三部作などもあります。こちらも楽しい絵本です。

 

『あっぷっぷ』(中川ひろたか、ひかりのくに)

 「いないいないばあ」と同様、赤ちゃんは「にらめっこしましょ、あっぷっぷ」などの"顔あそび"も大好きです。17か月のきこえない子の事例を紹介します。 あっぷっぷ.jpg

 

17か月児】

あっぷっぷ絵本が大好きでとても喜んでページをめくり見ています。「あっぷっぷ」といえるようになり、みんなで「あっぷっぷ」遊びをしています。車のおもちゃ等を手で持ち「ブーブー」と言えるよう、「かいえなかった色々声を出すようになり、少しびっくりしています。「いないいないばあ」の「ばあ」も言えます

 

『じゃあじゃあびりびり』(松井のり子、偕成社)

この絵本は、犬、水、紙など身の回りのものとそこで使われる擬音語や擬声語を合わせて表現する楽しい絵本です。破いてもよいチラシなどを持ってきて一緒にビリビリするのもよいでしょう。 じゃあじゃあびりびり.jpg

 

『がたんごとん』(安西水丸、福音館)

 この絵本は真っ黒の汽車がやってきて、哺乳瓶やら果物やらを次々と載せていきます。

 7か月のきこえない赤ちゃんに、声と同時に身体を揺すり、リズムが伝わるよう拍子をとったり、声の抑揚も伝わりやすいようにしたりと考えています。繰り返し読んであげるなかで赤ちゃんもだんだん笑顔を見せてくれるようになっています。

 

07か月児】

夜のミルク時、絵本を読むのですが、その際ことばに合わせて膝で拍子をとるようにしてみました。「じゃあじゃあびりびり」「いない いないばあ あそび」「しましまぐるぐる」「がたんごとん」「もこもこもこなどリズムがある文章なので楽しそうで、よく笑顔を見せてくれるようになりました。声の抑揚もわざと大きくなるように心がけています。

 

『ぎゅうぎゅうぎゅう』(おおなり由子・文、はたこうしろう絵、講談社) ぎゅうぎゅうぎゅう.jpg

子どもが色々なものをぎゅっと抱きしめます。大好きなおかあさんと「ぎゅう」、ポカポカのふとんを「ぎゅう」など、赤ちゃんの身近なものがたくさん出てきます。子どもの好きなぬいぐるみ、おもちゃなどを持ってきて「ぎゅう」とするのも楽しいと思います。

 

 

 

『ノンタンおはよう』きよのさちこ、偕成社)

ノンタンのシリーズは、いくつかありますが、これは赤ちゃんシリーズの中の1冊です。

「おはよう」から「おやすみ」まで一日の流れに沿っていろんな友達との出会いがあって楽しい。ぶたさんとごっつんこするところも赤ちゃんが喜ぶ場面です。 のんたんおはよう.jpg

 以下に、10か月児の例を紹介します。ペープサートを作って、より楽しめる工夫をしています。

 

0歳10か月児】

ノンタンの絵本のペープサートを夫が作ってくれたので、今日はそれを使って絵本を読んでみた。ぶたさんとノンタンが「ごっつんこをしていたたた」のシーンがお気に入りで、何度が繰り返すとよく見て笑ってくれた。目で見てわかりやすい方法って大事だなと思った。

 

 絵本そのものを楽しむだけでなく、身の回りのものを上手に使って、赤ちゃんのイメージがさらに広がるように工夫している事例も紹介しました。絵本はきこえない赤ちゃんのみる力、人やものとかかわる力、想像する力、手話も日本語も含めてことばの力を伸ばします。ぜひ、絵本の読み聞かせを、生活の中に習慣化されることをおすすめします。

 

 今日は、きこえない子にとっての絵本の読み聞かせについて考えてみたいと思います。
 昔から絵本と絵日記は、きこえない子のことばを育てる重要な教材と考えられ、聾学校や療育機関では、絵日記を書くことと絵本を読みきかせることが、親の"宿題"として課されてきました。絵日記のほうは、書いた翌日などに先生にみてもらい、子どもがその内容について話さねばならないという課題があるのでなかなかサボるわけにいきません。
 しかし、絵本の読み聞かせは家庭でやることであり、学校で「発表」するという課題もないので、ついついおろそかになってしまっている家庭も少なくありません。
 確かに、きこえない子に絵本を読むときの難しさに、そのまま絵本の文を読んでも、ことば(日本語)がわからないので子どもに内容が伝わらないという難しさがあるのは確かです。
 また、本を読むという習慣が親ごさん自身にないとか、自分が小さい頃にも読んでもらった経験がなく、絵本の楽しさがわからないという人もいます。
 さらに、最近ではテレビやビデオだけでなく、外出時などにスマホやタブレットを子どもに持たせて、動画を見せている親御さんも少なくありません。こうした機器が一概にダメとは言えませんが、スマホやタブレットの映像は親子で共に楽しむというよりも、色彩も動きも子どもには強烈な刺激なので、子どもはそれにひきつけられて「一人で」黙々と見入っていることが多く、それを「見せて」いる間に、親は別の用事をしたりメールをしている、といった姿もよく見かけるようになりました。 勿論、絵本もただ絵本を持たせて子どもに絵を「見せて」おくことや字が読めるようになった子に文字を自分で「読ませて」おくこともできるでしょう。しかし、これではせっかくの絵本も十分にその意味が活かされているとは言えないように思います。

 では、絵本とは何でしょうか? 絵本は、大人が子どもに読んであげるものだと思います。それを私たちは絵本の読み聞かせと言っていますが、絵本の読み聞かせとはただ文字づらを読むことではなく、大人自身がそこに語られている物語の内容を読み取り、理解し、それを自分の「ことば」(=音声・手話・指文字・身振りなど)で伝えることだと思います。大人が自分で絵本の中身を読み取り、その楽しさやよさを実感すれば、絵本のことばは本当に生き生きとした「ことば」となり、温かい、豊かなイメージをもった「ことば」として子どもの心に伝えることができます。
 
 こうした「ことば」の伝わり方や気持ちの伝わり方は、子どもが一人で読んでいるだけでは決して味わうことができません。大人が自分の「ことば」で心をこめて読んであげたときにこそ伝わることであり、そのためには、大人自身がその絵本の中身を深く理解し、作品に共感できることが大切ですし、それを子どもに伝えることができたときに、子どもはその絵本の中へ深く入ることができ、その体験が子どもの心を成長させる糧になるのだと思います。
 それが絵本を読み聞かせる大切な意味です。決してきこえない子の日本語の読み書きのことば向上のために読むのではありません。絵本は大人と子どもが絵本という作品を通して心と心を通い合わせる場です。その場をぜひ、日々、作ってあげて欲しいと思います。1日1回の読み聞かせの時間を作るというのが理想ですが、それが難しい家庭は1日おきでも3日に1回でもよいと思います。継続は力なり。親子で触れ合うその経験こそが、子どもの人生の豊かさにつながる、それが絵本の読み聞かせの本当の意味なのだと思います。

 きこえるきこえないにかかわらず、生後8~9か月頃になると、お母さんと自分、モノと自分といった「二者関係」から、お母さんと自分とモノの「三者関係」が理解できるようになり、自分が興味をもったものを指差して大人に知らせようとしたり、大人が指さしたものを自分も見たりするようになってきます。この頃から、赤ちゃんと大人とで一緒に絵本を楽し 指さしと三項関係の成立.jpgむことができるようになってきます。

 

ただ、きこえる子ときこえない子の絵本の楽しみ方の大きな違いは、きこえる子は絵を見ながら同時に大人の話すことを聞くことができるのに対して(「ながら」ができる)、きこえない子は、絵と大人の語り(手話・口話)を交互にみながら絵本を楽しむという点です。そのために大切なことが3つあります。

 

1.子どもが、絵本も大人も同時に見れる位置どりをとって座る。

絵と大人の顔(表情・口形)と手話が同時に見れる位置どりが大切。また、絵本との距離、話す大人の後ろに目障りな物がないか、子どもの目に強い光が当たっていないかなど、絵本を読むための環境への配慮がまず必要。

 

2.子どもが絵を見る時間をたっぷり確保する。

  子どもが絵を見ているときは、大人は邪魔をしないで待ち(子どもが何に関心を示しているのか観察する)、大人に顔を向けるタイミングを待つ。

 

3.子どもが顔を上げた時、子どもの見ていた絵について話す。

  子どもが興味関心を向け、じっと見ていたものや指差しをして同意を求めたりした時、それについて共感したことばを投げかける。「大きいぞうさんだね!」「コロコロコロって行っちゃったね」など。

 

以上のような基本的なことを理解した上で、読み聞かせをしていくのですが、大人は、絵本に書かれている文をたんたんと読んでしまう傾向があります。絵本の作者メッセージを忠実に伝えるよりも、まずは子どもの興味関心を大切にし、絵本を介して子どもと楽しくコミュニケーションすることを大切にすることです。そのための工夫をいくつか紹介します。

 

1.文章にしばられないで、本の中身をふくらませる

子どもが関心を示したところをふくらませる。読みながら、子どもと話し合ったり問いかけたりする。子どもの経験と結びつけるなど。話の筋からそれてもそれはそれでよい。

 

2.絵本を動かしたり、手(手話)を動かしたりする

例えば次のページで誰かがやってくる場面では、登場人物がやってくる方向から絵本を動かしながら子どもの前に持ってくるとか、「鳥がとんできました」などで手話を空中でひらひらさせながら舞わせて絵本の上までもってくるなど。

 

3.次の場面を予想させる

 「次は誰が来るかな?」「どうなるのかなあ?」など問いかけながら、ページをめくる。

 

4.読みながら身振りで演じたり、声色や表情を変えたりする。

  とくに手話がわからないときはジェスチャーをしたり絵を指すなど。わからなかった手話はあとできけばよい。

 

5.子どもに催促されたらできる限り何度でも読む。

子どもは楽しかったことはまたやりたがる。繰り返すことで、子どもはことば(手話・日本語)も確かなものにしていく。

 

 6.読み終わったら、劇遊びをする。

 適当に道具を工夫したり、何かに見立てて劇遊びをする(再現あそび)。子どもは絵本のストーリーを再現することで、表現力や想像力を豊かにする。また、子どもが自分で考えてストーリーを発展させていくこともできる。

 

 以上のようなきこえない子への読み聞かせ方の基本を理解して読み聞かせをしましょう。

絵本を好きになった子は必ず読み書きや考える力も伸びます。そのことは、このカテゴリーで紹介した内田伸子らの研究の結果からも言えることです。親子でいや家族で絵本の読み聞かせを楽しんでください。

以下に保護者育児記録から拾った絵本の読み聞かせの事例をいくつか紹介します。

 

事例1 010か月「バナナ」

いつもは絵本のバナナの絵と実物を見せて「バナナ」の手話をしてからバナナを食べる。しかし、今日は何もないところから手話だけで「バナナ」をしてみたら、じーっとかたまって何やら考えている。そこで実物のバナナを冷蔵庫から出すと少しニヤリ。M「じゃじゃーん、これだよ!」と実物を見せると大喜び。触ったり、皮ごとかんでいる。食べる前に絵本と実物を何度も見比べる。そして「甘いね」「黄色いね」「バナナだよ」などと話しかけながら一緒に食べた。

 

事例2 010か月「ペープサート」

ノンタンの絵本のペープサートを夫が作ってくれたので、今日はそれを使って絵本を読んでみた。ぶたさんとノンタンが「ごっつんこをして、いたたた」のシーンがお気に入りで、何度が繰り返すとよく見て笑ってくれた。目で見てわかりやすい方法って大事だなと思った。

 

事例3

 010か月「どっちがいい?」

寝る前に絵本を読む習慣もだいぶ定着してきた。今日はCにどちらがいいか選ばせてみた。「ゆめにこにこ」と「じゃあじゃあびりびり」と並べてM[どっちがいい?」ときくと、「じゃあじゃあ・・」を選んだ。この絵本には踏切が出てくるのだが、M「踏切だ~。赤ピカピカだね~」などと言って「踏切」の写真カードを見せるとにやりと笑う。

「じゃあじゃあ・・」と「いないいないばあ」を並べてM[どっちがいい?」と聞くと「いないいないばあ」を選ぶ。犬、猫、怪獣・・と続き、最後のお母さんの場面では絵本がお面になるのだが、お面の中の私の目を見つけると笑う。この絵本のよいところは、Cの目の動きがよくわかること。絵の隅々の絵をよ~く見ている。これからも寝る前のゴールデンタイムを大切にしたい。

 

事例4(2歳6か月)「絵本読み聞かせ」

今日の絵本は0~2歳児の絵本『だれかしら』。本を読む前にベッドで、動物指人形でうさぎさんねんね、ぞうさんねんね...などやっていました。本もちょうど動物がいろんな物陰から隠れてからだの一部を覗かせて何の動物だろうと考える繰り返し。表紙から始まります。「C、これ誰?」ときくと、んー~と考えているのか、考えていないのか。そこで、動物指人形を本の後ろに隠し、うさぎさんの耳、象さんの鼻、しまうまの大きな鼻などを本から覗かせ、「C、これ誰?」ときくと「うさぎ」「しまうま」と体全体で答えてくれました。最後は...ママ、ママが本で顔を隠し「C、私はだれ?」ときくと、ケタケタ笑い出しました。これでようやく面白さがわかったようで、1頁ずつ丁寧に、「これ何だろう?」「うさぎさんかな?」とか、「わにさんだね~」「これはうさぎじゃないね」と楽しく読むことができました。

 

内田伸子氏(お茶の水女子大名誉教授)の研究に、親の子どもへの関わり方が、幼児期や小学校になってからの語彙力や学力にどう関係しているのかを調査した一連の研究があります。その研究の中で、内田らは家庭での親子の関わり方(「しつけスタイル」)の違いによって、小学生になってからの語彙力や読解力に差が出るということを明らかにしてます。その関わり方の違いとは、一言でいえば 内田伸子1.jpg「共有型しつけ」と「強制型しつけ」で、前者の関わり方は、子どもと一緒にいることを楽しみ、子どもと一緒に生活し、遊び、本を読み、子どもに「これこれこうしなさい!」ではなく「どうすればいいと思う?」と考えさせ、「ほらごらん、だからお母さんが言ったでしょ!」と子どもを脅迫せず、子どもに任せ、見守るという関わり方ができるという関わり方で、後者の関わり方とは、がみがみとつい叱ることが多く、子どもに命令したり禁止することが多く、子どもは自信なく、いつも親の顔色をうかがい、自己肯定感が育たない関わり方ということになると思います。 ただ、実際にはそのどちらとも言い切れない家庭のほうが多いのかもしれませんが、ここから言えることは、子どもにとって楽し 内田伸子2.jpgのサムネール画像 い家庭のほうが、子どもも学ぼうとする意欲も あり、結果的に語彙力や読解力も伸びるということだろうと思います。そして、内田らはこの結果から、「子どもを伸ばす10か条」を提案しています。「50の文字を教えるより、100の『なんだろう?』を育てよう、というのは確かにそうだと思いますし、実際に小さい時から手話を使ってコミュニケーションをし、子どもにこのような何かを意欲的に追及したり、ものごとを深く見つめる力が育っている子どもが多いことも実感しています。

 

〇絵本の読み聞かせスタイルの違いから

さて、内田らの一連の研究の中に絵本を母親に読んでもらい、その読み聞かせ方の違いがどう子どもの語彙力などに反映していくのでしょうか? (『しつけスタイルは学力基盤力の形成に影響するか』2012,浜野隆、内田伸子) キツネのお客様1.jpg

 

 ここでは、その具体的な事例について紹介します。取り上げられた絵本は『きつねのおきゃくさま』(あまんきみこ)。これは小2国語(教育出版)でも取り上げられています。あらすじは、お腹をすかせて歩いていた一匹のきつねが、痩せたひよこに出会います。きつねはそのひよこをすぐに食べるのではなく、「ふとらせてからたべよう」と決め、家に連れて帰ります。しかし、ひよこの「きつねおにいちゃん」という呼びかけに対して、きつねの心は揺らぎ、ひよこを大切に育てます。同じ様にきつねは、あひるとうさぎも育てることになります。ひよこ、あひる、うさぎが順調に「ふとってきた」頃、くろくも山からおおかみがやってきます。きつねは3匹を守ろうと勇敢に戦い、おおかみを追い払います。しかし、その夜、きつねは恥ずかしそうに笑って死んでいきます。この話をそれぞれタイプの異なるお母さんに、わが子に読み聞かせてもらいます。

まず最初のタイプのお母さんの読み聞かせは以下のようです。Mは母、Cは子どもです。

 

M 読み聞かせ終了後:分かった?(Cを見る)

M きつねさん,ほんとはどうしたかったんだっけ?(Cを見る)

C 食べたかった(Mを見て,小さな声で)

Mだけど,その前に戦って(ページに戻す)死んじゃったんだって。ほら。(Cを見る)

C なんで戦って?(Mを見て,小さな声で)

Mんとね(その前のページに戻す),おおかみって,きつねより全然大きいでしょ。

C うん(絵を見ている)

Mだから強いの。見て(おおかみを指さして),だって,こんな牙だってすごいんだよ,爪だって。

C ちょっと生えてる(きつねの爪を指さす)

Mえ,でも、だってこんなにすごいんだよ(おおかみの爪を指さしてCを見る)

C (黙る)

 

もう一つのタイプのお母さんの例は、以下のようです。

 

M きつねさん、死んじゃった(Cを見る)

C (Mと目を見合わせて悲しそうな顔をする)

M みんなを守るためにね...ゆうきりんりんで戦ったから

C (ページを戻して3ページ前からもう一度見ていく)

Mどうしてどうして? きつねさん、こんなぼろぼろになって死んじゃった

C (Mと一緒にページを持ってめくる)

 

二つのタイプの違うお母さんの読み聞かせですが、研究報告の中でこう解説されています。

「最初の例は、物語の余韻にひたる間もなく、母親がお話に対する理解を問うような質問を投げかける場面である。そして、子どもからの質問に対しては、説得的に説明している様子が見られる。子どもの「ちょっと生えている」というささやかな反論も、母親は自分の考えを押して、子どもを黙らせてしまう様子が見られる。」

 

これに対して二番目の例ではこう解説されています。

「この事例は、子どもが、主人公のきつねが死んでしまうという、予想もしていなかった出来事に直面した場面のものである。母親が、子どもの驚きや悲しみの気持ちを受け止め、共感していることが窺える。そして、答えを明示してしまうのではなく、子どもが納得して次へ進むまで、十分に考える時間を与え、共感的に待つ様子が見られる。」

 

さて、これら二つのタイプですが、最初のタイプのお母さんと後のタイプとでは、子どもの内面に育つものは違ってくるということでしょう。親が自分に共感してくれ、理解してくれるとき、子どもは自由に考え、頭も働かせます。そして、その結果として知識を広げ思考する力も高めます。このようなよい循環をつくることが結果的に語彙力や学力を高めることにつながると考えてよいのではないかと思います。