絵本の読み聞かせ
〇「きんぎょがにげた」(右ファイル参照)
以下の文章は、1歳半になった難聴のお子さんのお母さんの育児記録から引用したもので

す。絵本になかなか興味を持ってくれないお子さんにどうやったら絵本が好きになってくれるのか、一生懸命考えておられる気持ちが伝わってきます。
「先日、本屋さんで『きんぎょがにげた』という本を買ったので、それをAと一緒に読んでみると、いつもよりくいつきがよく感じた。今まではあまりにも絵本に興味を持たなかったので、うれしかった。もしかしたら、絵本の選び方があまり良くなかったのかと思い、これから少しやり方を変えていこうかと思う。今までの本は、
①
図鑑のような本(ストーリー性がない、ページの関連性がない)
②
文章がAの歳には長すぎる本(すぐあきる、意味をつかみにくい)
③
私の好みの本(Aの感性には合わせていない)ばかりだった。
これからはこの点を改善して、ページの関連性があり、なおかつ短い文章で、わかりやすい内容、シンプルな絵のものを中心に選んでいこうと思う。」
「絵本に興味を持たない困ったAちゃん」ではなく、こちらの絵本の与え方に理由があるのではないか、どうやったら興味を引き出せるのか? と考えておられるところがAちゃんのお母さんのとてもいいところです。以下、お母さんの「反省」について一緒に考えてみたいと思います。
①
ストーリー性のない図鑑的な絵
これは、決して悪くはありません。どの年齢の子どもにとっても、ストーリー性のある絵本と併せて与えてあげてほしい絵本です。例えば、0,1,2歳児が楽しめる動物や乗り物、食べ物が載っているだけの絵本は、子ども達がよく目にする、身近で親しみやすいものが絵や写真で取り上げられています。1歳~2歳の子ども達にとっては、とにかく「同じ!」「おんなじね!」とマッチングすることが楽しい時期。こうした絵本を見ながら、テーブルにあるバナナを持ってきて「同じ!おもちゃ箱の電車のおもちゃを持ってきて、「同じ!」。子どもにとってこれほど楽しいことはありません。読み聞かせてもらうための絵本というよりは、親子でこうした同じもの探しをしながら遊べる、おもちゃとしての役割を果たしてくれるのではないでしょうか。
また、3歳以上の幼児にとっては、虫図鑑、海の生き物図鑑といったものを通して見たことのない生き物を絵で確認しながら、未知の世界を想像し、文字を通して名前を覚えたり、説明書きを一緒に読んだりしながら知識を広げていくことでしょう。例えば、「虫の名前を30個覚えましょう」という指導を耳にしますが、子どもの興味関心とそれたところでいくらやっても子どもの能動的な学習は望めません。子どもが好きであれば、自分でこうした図鑑を利用して自然と覚えて行くのですから、親は、子どもが好きなことにとことんつきあい、一緒に絵本を楽しみながら、知識を広げる手助けをしてほしいと思います。
②
文章がAの年齢では長すぎる
これは、話の内容理解がAちゃんに難しすぎる、ということでしょう。子どもが興味を持ったり、最後まで楽しんだりすることを妨げる要因になっていたようです。1歳なりに、3歳なりに...と年齢や子どもの発達で、楽しんだり、理解しやすかったりする内容は、当然変わってきます。とはいっても、2歳だから2歳向けの本を与えても、必ずしもそれが当たるというわけでもないところが難しいところです。わが子が絵本に食いついてくる様子や、最後まで目を離さずに見ている姿をよく観察しながら、適切な絵本選びをすることが大事です。特に、これから絵本に親しませていきたい時期の子どもには、繰り返しがあり、背景が複雑でなく、絵がシンプルでわかりやすく、短いお話を選んであげるとよいでしょう。極端にいえば、絵だけ見ていれば展開がわかる...そんな絵本が望ましいと言えるでしょう。
③
私の好みの本(Aの感性には合わせていない)
お母さんはこれはまずかったのではと感じていらっしゃいますが、年齢や発達に合った絵本の中で、是非お母さんの好みの本も与えてあげればいいのではないかと思います。絵本を買ったり、借りたりして与えるのは親です。わが子に親しんでほしい絵本をママの好みで選ぶという観点も是非大事にしてほしいと思います。
それから、絵本を読み聞かせる時には、親子で絵本をはさんで、対面して見ることを配慮して下さい。絵本を置く台(ブックエンドもいいですね)が、絵本を読む大人の顔と同じくらいの高さになるようにして、子どもが絵とお母さんの顔や口形、手話が見比べしながら楽しめるように用意してあげるといいでしょう。きこえない子の場合は、絵本の絵を見ている子どもの頭の上から、読み聞かせの大人の声がふってくるような状況では、お話や絵の理解が難しいことを知っておいてほしいと思います。
〇「でんしゃで いこう」(右ファイル参照)
B君のママは、2ヶ月間も毎日繰り返し同じ絵本を読み続けてきたようでした。きっ

と、B君にとって、寝る前にこのお話を聞いて安心して眠れる~そんな安定剤の様な役割になっていたのではないでしょうか。ある日突然B君が自分から、『トンネルを行くと~』と話し始めた姿には、繰り返し、同じようにお母さんが絵本を読み聞かせてきたことの成果が表れています。この前読んでもらったように、またお母さんが同じように読んでくれることを期待しているようです。毎回違ったことばや、読み方をするよりは、この場面ではこのことばを使って同じように読む、その読み聞かせ方が子ども達の期待に添うようです。期待どおりに読んであげた満足感は、子ども達の表情からわかるでしょう。期待に添った読み方をしてあげることで、子ども達は絵本を「また読んで!」と持ってくるようになります。
そして、0~2歳児の頃の絵本の読み聞かせでは、絵本の文字を追いかけていく内に、子どもが逃げてしまった~ということのないように、必ずしも絵本通りの文を読まなくても、お母さんがわが子に伝わるようなことばで、読んであげればいいと思います。とはいっても、大人の手話力に合わせた簡便化された読み聞かせでなく、B君のママが言うように大人が手話力を磨いて、子どもの理解力に合わせて手話を使って読んであげられたらいいと思います。ただ、絵本に添えられている文字は、実は非常に吟味されて作られた文です。幼児期には、できるだけ絵本に添えられた文の通りに読んであげることも少しずつ大切にしていってください。きちんと絵本の文を読んでみると、子ども達がおそらく日常で触れる事がないような日本語がたくさん使われていることにも気付かされると思います。きこえる子ども達も、その一つ一つのことばがわかって聞いているわけではなく、繰り返し読み聞かせてもらっている内に、絵や文脈を手がかりにしながら、文の言い回しや新しい語彙を理解していきます。きこえない子ども達にとっては、耳からだけで理解していくことは難しいので、手話で表現するだけでなくキーワードは指文字で表すといった配慮をしながら読み聞かせることも大切にしていってほしいです。そのようにして普段使われない言い回しや語彙の意味を、文字を通してつかんでいってもらいたいと思います。そのためにも、まずは読み聞かせで内容を楽しむことをたっぷり経験し、自分でもう一度読んでみたいなあ~そんな絵本を読む意欲につなげていきたいものです。
〇 「おつきさま こんばんは」(右ファイル参照)
おつきさまこんばんは」の絵本はとても絵がわかりやすく、シンプルながら展開があり、

月の表情が子ども達をひきつけます。そんな絵本で親しんだ月が見える所までCちゃんを連れ出すパパの温かい気持ちと行動力に感動です。絵本を読んでから、このように絵本に出てくる絵と実物を結び付ける関わりはとてもいいと思います。小さい時期には、こうした実物に限らず、絵本に出てくる絵と同じ模型やおもちゃなど見せてあげると、楽しみが倍増します。小さい子ども達の絵本の読み聞かせで、是非参考にしていただきたいと思います。
〇絵本が大好きになったD君
「いつの間にか寝る前には本を読むことが習慣となりました。お風呂から上がってパジャマを着ると「絵本、絵本」と手話をして本棚に行って「今日は何にしようかなー」と少し悩んでいます。でも大体選べなくて、大量の本を抱えています。ママには「お休みー、バイバイ」とし、パパと手をつないで寝室へ!」
どれにしようかなと迷いながら、選びきれず大量の絵本を抱えているD君。ほほえましいですね。D君の生活の中に、寝る前にはママやパパに絵本を読んでもらう、そして電気が消されておやすみなさいのルールができました。これは、自然にできてきたのではなく、大人がこうした生活習慣を作ったということです。是非、寝る前の読み聞かせの習慣を、三度食事をとるのと同じように生活の中に組み入れていっていただきたいと思います。絵本は、ことばの力をつけるだけでなく、親子で一冊の絵本をはさんで、親子の心の交流を図り、子どもの感性を揺さぶり、想像力を高め、情緒の安定を図る...そんな心の栄養剤として大切なものなのです。子どもは、ママやパパに読んでもらった本を、ず~っ大人になっても覚えているものです。 (SS記)
ある保護者の方から「年長の子どもが一人で読んで、このくらいなら読んで内容を理解できる絵本ってどんな絵本ですか?」という質問をいただきました。
これはとても難しい質問です。まず、絵本は基本的に子どもが一人で読むものではなく、大人が読み聞かせ、一緒に楽しむものなので、子どもが一人で読むという前提で書かれてはいません。とくに絵本が大事なのは、家庭でお母さんやお父さんに読んでもらい、また、家族で一緒に再現遊びなどして楽しむことで親子・家族の絆を築き、絵本の想像の世界を通して豊かなことばや心を身につけるところに大きな意味があると思います。
しかし、きこえない子の場合、やはり日本語力を高め、本を読める力を身につけてほしいという願いもあって、このくらいの絵本なら自分で読んで理解してほしいという親の願いもよくわかります。
○小1国語教科書に出てくる「絵本」
そこで、国語教科書にとりあげられている絵本の中から、小1年で扱われているものをとりあげ、そこで使われている日本語のレベルから、子どもに求められている読みの力を考えてみたいと思います。小1の教科書で取り上げられているということは、小1の子どもでも自分で読んでだいたい理解できるというレベルのものが採用されていると考えられるからです。
教科書でとりあげられている絵本の扱いには二とおりあって、教師が読みきかせる扱いになっているものと、時間をかけて子どもと一緒に読み進め、そこでの出来事や登場人物の心情などを考えさせていくものがありますが、ここで取り上げるのは後者の方です。
まず、どの教科書にも必ずとりあげられているのが『大きなかぶ』です。これには内田莉莎子訳のものと西郷竹彦訳のものがあり、教科書の頁数は10頁くらいですが、文は少し違います。ここで引用するのは前者(出版社4社採用)です。冒頭の部分を取り出してみましょう。
①おじいさんが かぶを うえました。②「あまい、あまい、かぶに なれ。おおきな おおきな かぶに なれ。」 ③あまい、げんきのよい、とてつもなく おおきな かぶが できました。④おじいさんは、かぶを ぬこうと しました。⑤「うんとこしょ、どっこいしょ。」 ⑥ところが、かぶは ぬけません。
この文は小1の子どもにとって難しいものでしょうか? 福音館の「絵本の与え方」では「2~3歳の絵本」に分類されていますから、読み聞かせるだけであれば年少の子どもなら十分理解し楽しめる内容ということになりますが、自分で読むとなると小1で扱うレベルということになります。つまりここに出てくる語いや文法は、小1の子であればだいたい理解できるという前提で採用されていることになります。
では、獲得語彙数に課題のあるきこえない子が読むとしたらどうでしょうか? 仮に、1000~1500語くらいの日本語語彙数をもった子どもが読んだとしたらどうでしょうか? 上の文の下線が引いてある語は、『新・おやこ手話じてん』に掲載されていない語です。下線が引かれていない語は同書に掲載されている語です。この辞典には1200~1300語の日本語と手話が掲載されていますから、このくらいの日本語語彙数をもっている子であれば、下線部が理解できなくとも、ほぼ9割方は、初見でさし絵抜きで読んでも内容を理解できると思います。というのは下線部の意味がわからなかったとしても前後の語から類推しながら理解することができるからです。
もう一つ、例をあげてみます。『スイミー』(谷川俊太郎訳)です。これは教科書では12頁使われています。東京書籍では小1下で、学校図書では小2上で取り上げられていますが、文は同一です。以下は冒頭の部分です。
①広い 海のどこかに、小さな 魚のきょうだいたちが、たのしく くらしていた。
②みんな 赤いのに、一ぴきだけは、からす貝よりも まっ黒、でも およぐのは
だれよりも はやかった。
これらの文では、上記じてんに掲載されていない語は3語です。1300語くらいの日本語語彙数をもっている子どもであれば、8~9割方初見で読んで理解できると思います。
○ほかにはどんな絵本があるか?
では、このレベルの日本語の文の絵本とは、ほかにどんなものがあるのでしょうか? 内容や使用語彙などから考えると、『ぐりとぐら』シリーズ(中川李枝子)、『てぶくろ』(内田莉莎子訳)、『3びきのくま』(トルストイ原作)、『はじめてのおつかい』『あさえとちいさいいもうと』(以上筒井頼子)などでしょうか。もちろんほかにもたくさんあります。『桃太郎』『一寸法師』など日本昔話なども。
これらの絵本は、年長さんなら、手話を併用して読んでもらえば理解できる内容と思います。では一人で読んだらどうでしょうか? 何度か繰り返して読んでもらい、内容を熟知していて、日本語と手話との変換がある程度できれば、自分で文を読んでも理解できるでしょう。
○絵本が自分で読めるために必要な語彙数は?
【子どもの語彙数の簡単な調べ方】 右の『新」おやこ手話じてん」の手話掲載頁は約150頁で、各頁には8つの手話が掲載されています。つまり150×8=1,200語が収録手話数です。一つ一つ、指文字か文字で語を提示して子どもに手話で応えてもらえれば(あるいは逆に、手話を提示して指文字と音声で応えてもらう)、その子の獲得語彙数(手話と日本語が結びついている語の数)がわかりますが、1,200もやるのは大変。そこで簡単な方法として、各頁の最初の語だけを提示していきます。これなら150頁の各頁の冒頭の語だけですから150語の提示で終わります。そしてそのうち答えられた語の数を8倍しておよその語彙数を推定します。例えば150語中75語わかったとすれば、75×8=600語。その子どもの獲得語彙数は600語と推定します。もちろん辞典に掲載されていないけれど知っている語もあるでしょうからとりあえず600語以上ということになります。600語で自分で教科書が読めるか?といったらちょっと厳しい数。やはり最低1,000語は必要でしょう。日常会話にだいたい間に合う日本語の語彙数です。 このように考えてみると、絵本が自分で読めるためには年長から小1くらいの年齢で1,000~1,500語位の日本語の語彙数(=「おやこ手話じてん」掲載語彙)が必要だろうと思います。では、それだけの語彙数を身につけられるのか?ということになりますが、それは幼少期からの日常会話、絵日記、絵本の読み聞かせ、ことば絵じてん、筆談、言葉遊び、ワークなど様々な言語活動を通して、どれだけ日本語を身につけてきたかということになりますが、決して不可能な数字ではありません。そうした日常的な活動の結果として、上にあげたようなストーリーのある絵本が一人でも読めるようになっていくのだと思います。
〇「タータン」はきこえない子?
きこえない子が出てくる絵本ってあるんですか?それがあるんですね。
ノンタンの妹タータンがどうもきこえない子のようなのです。そう思って絵本をみると、確かに『ノンタン、いもうといいな』に初登場のタータンは、絵本の中でひと言もしゃべっていませんし、『ノンタン・タータンあそび図鑑』の中には、タータンが手話を教えてくれるページがあるのです。そんなことが根拠になってタータンはどうもきこえない子らしい、ということが言われるようになったのですが、ただ、
著者のきよのさちこさんは、そうはっきりと言っているわけではないし、もう故人なので今となっては読む側の推測にしかすぎません。それでも、きこえない子がふつうに人気絵本に登場するのはとてもうれしいことです。
〇『しゅわしゅわむら』シリーズ(くせさなえ著、偕成社)
『しゅわしゅわむらのどうぶつたち』と『おいしいもの、どれ?』の2冊が出ています。
動物の名前の手話や動詞の手話も出てきます。この絵本に登場する人や動物たちも手話をしています。これから手話を覚えようという人にはぴったりの絵本です。
『手であそぼう』シリーズ(田中ひろし文・せべまさゆき絵、ほるぷ出版)
ぜ んぶで5冊出ています。大きな絵で手話のイラストが分かりやすいです。絵本の巻末には出てくる手話の解説なども書かれています。



き こえない赤ちゃんも1歳近くなると、写真や絵を見て自分の経験を思い出すことができるようになります(象徴機能の発達)。また、この頃、ママ(大人)が指さしたものを見たり、自分が見つけたもの・関心のあるものをママに知らせたりなど、指さしを通して自分とものとママ(大人)で、経験を共有することができるようになります(共同注意・三項関係の成立)。このような時期が来ると、きこえない子も絵本を一緒に楽しむことができるようになります。
そこで、今日は、沢山ある赤ちゃん絵本の中から、0歳後半から楽しめる絵本で昔から定評のある絵本やきこえない子をもった親御さんが楽しく読み聞かせている絵本を、何回かに分けてとりあげて紹介してみたいと思います。ただ、これはとても大事なことなのですが、0歳からとか1歳からというのはひとつの目安であって、その年齢を過ぎると楽しめないとか読むべきじゃないなどということではありません。本当は絵本に年齢は関係ありません。
1歳で楽しめる絵本は、5歳になっても楽しめる絵本が多いです。絵本は使い方次第。絵本の世界をぜひ十分に楽しんでいただきたいと思います。
『いないいないばあ』(松谷みよ子、童心社)
まず、最初に紹介するのは『いないいないばあ』赤ちゃんは「いないいないばあ」が大好きです。この本は、次々といろんな動物たちが登場して「いないいないばあ」をします。き
こえない子も、手話で「だ~れ?」とやりながら、「いないいない」「ばあ」「ちゅうちゅう、ねずみさんだ」など手話をしながら楽しむことができます。ぬいぐるみなどを持ってきて絵本の後ろから少し出しながら、「だれ?」とやりながら、いないいないばあをすると子どもも大いに楽しめます。
また、この種の絵本はほかにもあります。講談社の『いないいないばあ』(いもとようこ)シリーズ三部作などもあります。こちらも楽しい絵本です。
『あっぷっぷ』(中川ひろたか、ひかりのくに)
「いないいないばあ」と同様、赤ちゃんは「にらめっこしましょ、あっぷっぷ」などの"顔あそび"も大好きです。1歳7か月のきこえない子の事例を紹介します。
【1歳7か月児】
『あっぷっぷ』の絵本が大好きでとても喜んでページをめくり、見ています。「あっぷっぷ」といえるようになり、みんなで「あっぷっぷ」遊びをしています。車のおもちゃ等を手で持ち「ブーブー」と言えるようで、「あっ」しかいえなかった子が色々声を出すようになり、少しびっくりしています。「いないいないばあ」の「ばあ」も言えます。
『じゃあじゃあびりびり』(松井のり子、偕成社)
『がたんごとん』(安西水丸、福音館)
この絵本は真っ黒の汽車がやってきて、哺乳瓶やら果物やらを次々と載せていきます。
7か月のきこえない赤ちゃんに、声と同時に身体を揺すり、リズムが伝わるよう拍子をとったり、声の抑揚も伝わりやすいようにしたりと考えています。繰り返し読んであげるなかで赤ちゃんもだんだん笑顔を見せてくれるようになっています。
【0歳7か月児】
夜のミルクの時、絵本を読むのですが、その際ことばに合わせて膝で拍子をとるようにしてみました。「じゃあじゃあびりびり」「いない いないばあ あそび」「しましまぐるぐる」「がたんごとん」「もこもこもこ」などはリズムがある文章なので楽しそうで、よく笑顔を見せてくれるようになりました。声の抑揚もわざと大きくなるように心がけています。
子どもが色々なものをぎゅっと抱きしめます。大好きなおかあさんと「ぎゅう」、ポカポカのふとんを「ぎゅう」など、赤ちゃんの身近なものがたくさん出てきます。子どもの好きなぬいぐるみ、おもちゃなどを持ってきて「ぎゅう」とするのも楽しいと思います。
ノンタンのシリーズは、いくつかありますが、これは赤ちゃんシリーズの中の1冊です。
「おはよう」から「おやすみ」まで一日の流れに沿っていろんな友達との出会いがあって楽しい。ぶたさんとごっつんこするところも赤ちゃんが喜ぶ場面です。
以下に、10か月児の例を紹介します。ペープサートを作って、より楽しめる工夫をしています。
ノンタンの絵本のペープサートを夫が作ってくれたので、今日はそれを使って絵本を読んでみた。ぶたさんとノンタンが「ごっつんこをしていたたた」のシーンがお気に入りで、何度が繰り返すとよく見て笑ってくれた。目で見てわかりやすい方法って大事だなと思った。
絵本そのものを楽しむだけでなく、身の回りのものを上手に使って、赤ちゃんのイメージがさらに広がるように工夫している事例も紹介しました。絵本はきこえない赤ちゃんのみる力、人やものとかかわる力、想像する力、手話も日本語も含めてことばの力を伸ばします。ぜひ、絵本の読み聞かせを、生活の中に習慣化されることをおすすめします。
昔から絵本と絵日記は、きこえない子のことばを育てる重要な教材と考えられ、聾学校や療育機関では、絵日記を書くことと絵本を読みきかせることが、親の"宿題"として課されてきました。絵日記のほうは、書いた翌日などに先生にみてもらい、子どもがその内容について話さねばならないという課題があるのでなかなかサボるわけにいきません。
しかし、絵本の読み聞かせは家庭でやることであり、学校で「発表」するという課題もないので、ついついおろそかになってしまっている家庭も少なくありません。
確かに、きこえない子に絵本を読むときの難しさに、そのまま絵本の文を読んでも、ことば(日本語)がわからないので子どもに内容が伝わらないという難しさがあるのは確かです。
また、本を読むという習慣が親ごさん自身にないとか、自分が小さい頃にも読んでもらった経験がなく、絵本の楽しさがわからないという人もいます。
さらに、最近ではテレビやビデオだけでなく、外出時などにスマホやタブレットを子どもに持たせて、動画を見せている親御さんも少なくありません。こうした機器が一概にダメとは言えませんが、スマホやタブレットの映像は親子で共に楽しむというよりも、色彩も動きも子どもには強烈な刺激なので、子どもはそれにひきつけられて「一人で」黙々と見入っていることが多く、それを「見せて」いる間に、親は別の用事をしたりメールをしている、といった姿もよく見かけるようになりました。 勿論、絵本もただ絵本を持たせて子どもに絵を「見せて」おくことや字が読めるようになった子に文字を自分で「読ませて」おくこともできるでしょう。しかし、これではせっかくの絵本も十分にその意味が活かされているとは言えないように思います。
では、絵本とは何でしょうか? 絵本は、大人が子どもに読んであげるものだと思います。それを私たちは絵本の読み聞かせと言っていますが、絵本の読み聞かせとはただ文字づらを読むことではなく、大人自身がそこに語られている物語の内容を読み取り、理解し、それを自分の「ことば」(=音声・手話・指文字・身振りなど)で伝えることだと思います。大人が自分で絵本の中身を読み取り、その楽しさやよさを実感すれば、絵本のことばは本当に生き生きとした「ことば」となり、温かい、豊かなイメージをもった「ことば」として子どもの心に伝えることができます。
こうした「ことば」の伝わり方や気持ちの伝わり方は、子どもが一人で読んでいるだけでは決して味わうことができません。大人が自分の「ことば」で心をこめて読んであげたときにこそ伝わることであり、そのためには、大人自身がその絵本の中身を深く理解し、作品に共感できることが大切ですし、それを子どもに伝えることができたときに、子どもはその絵本の中へ深く入ることができ、その体験が子どもの心を成長させる糧になるのだと思います。
それが絵本を読み聞かせる大切な意味です。決してきこえない子の日本語の読み書きのことば向上のために読むのではありません。絵本は大人と子どもが絵本という作品を通して心と心を通い合わせる場です。その場をぜひ、日々、作ってあげて欲しいと思います。1日1回の読み聞かせの時間を作るというのが理想ですが、それが難しい家庭は1日おきでも3日に1回でもよいと思います。継続は力なり。親子で触れ合うその経験こそが、子どもの人生の豊かさにつながる、それが絵本の読み聞かせの本当の意味なのだと思います。
きこえるきこえないにかかわらず、生後8~9か月頃になると、お母さんと自分、モノと自分といった「二者関係」から、お母さんと自分とモノの「三者関係」が理解できるようになり、自分が興味をもったものを指差して大人に知らせようとしたり、大人が指さしたものを自分も見たりするようになってきます。この頃から、赤ちゃんと大人とで一緒に絵本を楽し
むことができるようになってきます。
ただ、きこえる子ときこえない子の絵本の楽しみ方の大きな違いは、きこえる子は絵を見ながら同時に大人の話すことを聞くことができるのに対して(「ながら」ができる)、きこえない子は、絵と大人の語り(手話・口話)を交互にみながら絵本を楽しむという点です。そのために大切なことが3つあります。
1.子どもが、絵本も大人も同時に見れる位置どりをとって座る。
絵と大人の顔(表情・口形)と手話が同時に見れる位置どりが大切。また、絵本との距離、話す大人の後ろに目障りな物がないか、子どもの目に強い光が当たっていないかなど、絵本を読むための環境への配慮がまず必要。
2.子どもが絵を見る時間をたっぷり確保する。
子どもが絵を見ているときは、大人は邪魔をしないで待ち(子どもが何に関心を示しているのか観察する)、大人に顔を向けるタイミングを待つ。
3.子どもが顔を上げた時、子どもの見ていた絵について話す。
子どもが興味関心を向け、じっと見ていたものや指差しをして同意を求めたりした時、それについて共感したことばを投げかける。「大きいぞうさんだね!」「コロコロコロって行っちゃったね」など。
以上のような基本的なことを理解した上で、読み聞かせをしていくのですが、大人は、絵本に書かれている文をたんたんと読んでしまう傾向があります。絵本の作者メッセージを忠実に伝えるよりも、まずは子どもの興味関心を大切にし、絵本を介して子どもと楽しくコミュニケーションすることを大切にすることです。そのための工夫をいくつか紹介します。
1.文章にしばられないで、本の中身をふくらませる
子どもが関心を示したところをふくらませる。読みながら、子どもと話し合ったり問いかけたりする。子どもの経験と結びつけるなど。話の筋からそれてもそれはそれでよい。
2.絵本を動かしたり、手(手話)を動かしたりする
例えば次のページで誰かがやってくる場面では、登場人物がやってくる方向から絵本を動かしながら子どもの前に持ってくるとか、「鳥がとんできました」などで手話を空中でひらひらさせながら舞わせて絵本の上までもってくるなど。
3.次の場面を予想させる
「次は誰が来るかな?」「どうなるのかなあ?」など問いかけながら、ページをめくる。
4.読みながら身振りで演じたり、声色や表情を変えたりする。
とくに手話がわからないときはジェスチャーをしたり絵を指すなど。わからなかった手話はあとできけばよい。
5.子どもに催促されたらできる限り何度でも読む。
子どもは楽しかったことはまたやりたがる。繰り返すことで、子どもはことば(手話・日本語)も確かなものにしていく。
6.読み終わったら、劇遊びをする。
適当に道具を工夫したり、何かに見立てて劇遊びをする(再現あそび)。子どもは絵本のストーリーを再現することで、表現力や想像力を豊かにする。また、子どもが自分で考えてストーリーを発展させていくこともできる。
以上のようなきこえない子への読み聞かせ方の基本を理解して読み聞かせをしましょう。
絵本を好きになった子は必ず読み書きや考える力も伸びます。そのことは、このカテゴリーで紹介した内田伸子らの研究の結果からも言えることです。親子でいや家族で絵本の読み聞かせを楽しんでください。
以下に保護者育児記録から拾った絵本の読み聞かせの事例をいくつか紹介します。
事例1 0歳10か月「バナナ」
いつもは絵本のバナナの絵と実物を見せて「バナナ」の手話をしてからバナナを食べる。しかし、今日は何もないところから手話だけで「バナナ」をしてみたら、じーっとかたまって何やら考えている。そこで実物のバナナを冷蔵庫から出すと少しニヤリ。M「じゃじゃーん、これだよ!」と実物を見せると大喜び。触ったり、皮ごとかんでいる。食べる前に絵本と実物を何度も見比べる。そして「甘いね」「黄色いね」「バナナだよ」などと話しかけながら一緒に食べた。
事例2 0歳10か月「ペープサート」
ノンタンの絵本のペープサートを夫が作ってくれたので、今日はそれを使って絵本を読んでみた。ぶたさんとノンタンが「ごっつんこをして、いたたた」のシーンがお気に入りで、何度が繰り返すとよく見て笑ってくれた。目で見てわかりやすい方法って大事だなと思った。
事例3
0歳10か月「どっちがいい?」
寝る前に絵本を読む習慣もだいぶ定着してきた。今日はCにどちらがいいか選ばせてみた。「ゆめにこにこ」と「じゃあじゃあびりびり」と並べてM[どっちがいい?」ときくと、「じゃあじゃあ・・」を選んだ。この絵本には踏切が出てくるのだが、M「踏切だ~。赤ピカピカだね~」などと言って「踏切」の写真カードを見せるとにやりと笑う。
「じゃあじゃあ・・」と「いないいないばあ」を並べてM[どっちがいい?」と聞くと「いないいないばあ」を選ぶ。犬、猫、怪獣・・と続き、最後のお母さんの場面では絵本がお面になるのだが、お面の中の私の目を見つけると笑う。この絵本のよいところは、Cの目の動きがよくわかること。絵の隅々の絵をよ~く見ている。これからも寝る前のゴールデンタイムを大切にしたい。
事例4(2歳6か月)「絵本読み聞かせ」
今日の絵本は0~2歳児の絵本『だれかしら』。本を読む前にベッドで、動物指人形でうさぎさんねんね、ぞうさんねんね...などやっていました。本もちょうど動物がいろんな物陰から隠れてからだの一部を覗かせて何の動物だろうと考える繰り返し。表紙から始まります。「C、これ誰?」ときくと、んー~と考えているのか、考えていないのか。そこで、動物指人形を本の後ろに隠し、うさぎさんの耳、象さんの鼻、しまうまの大きな鼻などを本から覗かせ、「C、これ誰?」ときくと「うさぎ」「しまうま」と体全体で答えてくれました。最後は...ママ、ママが本で顔を隠し「C、私はだれ?」ときくと、ケタケタ笑い出しました。これでようやく面白さがわかったようで、1頁ずつ丁寧に、「これ何だろう?」「うさぎさんかな?」とか、「わにさんだね~」「これはうさぎじゃないね」と楽しく読むことができました。
内田伸子氏(お茶の水女子大名誉教授)の研究に、親の子どもへの関わり方が、幼児期や小学校になってからの語彙力や学力にどう関係しているのかを調査した一連の研究があります。その研究の中で、内田らは家庭での親子の関わり方(「しつけスタイル」)の違いによって、小学生になってからの語彙力や読解力に差が出るということを明らかにしてます。その関わり方の違いとは、一言でいえば
「共有型しつけ」と「強制型しつけ」で、前者の関わり方は、子どもと一緒にいることを楽しみ、子どもと一緒に生活し、遊び、本を読み、子どもに「これこれこうしなさい!」ではなく「どうすればいいと思う?」と考えさせ、「ほらごらん、だからお母さんが言ったでしょ!」と子どもを脅迫せず、子どもに任せ、見守るという関わり方ができるという関わり方で、後者の関わり方とは、がみがみとつい叱ることが多く、子どもに命令したり禁止することが多く、子どもは自信なく、いつも親の顔色をうかがい、自己肯定感が育たない関わり方ということになると思います。
ただ、実際にはそのどちらとも言い切れない家庭のほうが多いのかもしれませんが、ここから言えることは、子どもにとって楽し
い家庭のほうが、子どもも学ぼうとする意欲も
あり、結果的に語彙力や読解力も伸びるということだろうと思います。そして、内田らはこの結果から、「子どもを伸ばす10か条」を提案しています。「50の文字を教えるより、100の『なんだろう?』を育てよう、というのは確かにそうだと思いますし、実際に小さい時から手話を使ってコミュニケーションをし、子どもにこのような何かを意欲的に追及したり、ものごとを深く見つめる力が育っている子どもが多いことも実感しています。
〇絵本の読み聞かせスタイルの違いから
さて、内田らの一連の研究の中に絵本を母親に読んでもらい、その読み聞かせ方の違いがどう子どもの語彙力などに反映していくのでしょうか? (『しつけスタイルは学力基盤力の形成に影響するか』2012,浜野隆、内田伸子)
ここでは、その具体的な事例について紹介します。取り上げられた絵本は『きつねのおきゃくさま』(あまんきみこ)。これは小2国語(教育出版)でも取り上げられています。あらすじは、お腹をすかせて歩いていた一匹のきつねが、痩せたひよこに出会います。きつねはそのひよこをすぐに食べるのではなく、「ふとらせてからたべよう」と決め、家に連れて帰ります。しかし、ひよこの「きつねおにいちゃん」という呼びかけに対して、きつねの心は揺らぎ、ひよこを大切に育てます。同じ様にきつねは、あひるとうさぎも育てることになります。ひよこ、あひる、うさぎが順調に「ふとってきた」頃、くろくも山からおおかみがやってきます。きつねは3匹を守ろうと勇敢に戦い、おおかみを追い払います。しかし、その夜、きつねは恥ずかしそうに笑って死んでいきます。
まず最初のタイプのお母さんの読み聞かせは以下のようです。Mは母、Cは子どもです。
M 読み聞かせ終了後:分かった?(Cを見る)
M きつねさん,ほんとはどうしたかったんだっけ?(Cを見る)
C 食べたかった(Mを見て,小さな声で)
Mだけど,その前に戦って(ページに戻す)死んじゃったんだって。ほら。(Cを見る)
C なんで戦って?(Mを見て,小さな声で)
Mんとね(その前のページに戻す),おおかみって,きつねより全然大きいでしょ。
C うん(絵を見ている)
Mだから強いの。見て(おおかみを指さして),だって,こんな牙だってすごいんだよ,爪だって。
C ちょっと生えてる(きつねの爪を指さす)
Mえ,でも、だってこんなにすごいんだよ(おおかみの爪を指さしてCを見る)
C (黙る)
もう一つのタイプのお母さんの例は、以下のようです。
M きつねさん、死んじゃった(Cを見る)
C (Mと目を見合わせて悲しそうな顔をする)
M みんなを守るためにね...ゆうきりんりんで戦ったから
C (ページを戻して3ページ前からもう一度見ていく)
Mどうしてどうして? きつねさん、こんなぼろぼろになって死んじゃった
C (Mと一緒にページを持ってめくる)
「最初の例は、物語の余韻にひたる間もなく、母親がお話に対する理解を問うような質問を投げかける場面である。そして、子どもからの質問に対しては、説得的に説明している様子が見られる。子どもの「ちょっと生えている」というささやかな反論も、母親は自分の考えを押して、子どもを黙らせてしまう様子が見られる。」
これに対して二番目の例ではこう解説されています。
「この事例は、子どもが、主人公のきつねが死んでしまうという、予想もしていなかった出来事に直面した場面のものである。母親が、子どもの驚きや悲しみの気持ちを受け止め、共感していることが窺える。そして、答えを明示してしまうのではなく、子どもが納得して次へ進むまで、十分に考える時間を与え、共感的に待つ様子が見られる。」
さて、これら二つのタイプですが、最初のタイプのお母さんと後のタイプとでは、子どもの内面に育つものは違ってくるということでしょう。親が自分に共感してくれ、理解してくれるとき、子どもは自由に考え、頭も働かせます。そして、その結果として知識を広げ思考する力も高めます。このようなよい循環をつくることが結果的に語彙力や学力を高めることにつながると考えてよいのではないかと思います。