きこえない子の言語発達の過程
手話の獲得過程については、このHPでも時々書いてきました。例えば、以下のような記事を参考にしていただければ、0歳~2歳頃の難聴児の言語発達の概要がわかります。
①
「新スク後の0歳児の認知・言語発達とその支援のために」
http://nanchosien.com/cat50/post_260.html
② 「1歳の言語獲得から2歳の言語獲得へ」
http://nanchosien.com/cat32/12_2.html
〇手話とは別の言語である日本語は、どのように獲得されるか?
さて、上記①②の記事の中で、1歳の言語獲得の特徴として、例えば「イヌ」と言えば自分の家にいる犬だけが「イヌ」と思っていることもあり、その意味で1歳の言語はまだ、一つ一つのものに名前をつけた「ラベリング」状態であると書きました。しかし、他のいろんな犬や猫と出会う中で、「イヌ」とは犬種のちがいを越えて全て「イヌ」であることがわかってくる、それが2歳の言語獲得だと書きました。つまり、いろいろな動物に出会う過程で、「同じー違う」という思考を駆使して、犬という「同じ種類のもの」を一つのグループ(カテゴリー)で括れるようになります。
やがてその「同じもの」という括りは、さらに大きな「同じ」種類、例えば「ペット」などという括りやさらに大きな「どうぶつ」という括りがあることに気づき、聴児であれば3歳ごろには犬や猫、牛、豚、象、きりんなどを含んだ「どうぶつ」という大きなカテゴリー(上位概念)で括れるようになります(但し、耳から「ききかじる」といった偶発的な学習が成立しない難聴児の場合は、意図的にそのカテゴリーに気づくようにすることが必要です)。
この、カテゴリーでくくっていく、仲間をつくっていくプロセスには当然、あるものと別のあるものという複数のものを「くらべる」という思考のプロセスが含まれており、くらべて「同じ」ものをくくっていくわけですから、

〇二言語を獲得するために必要な力~関係を考える力の発達
上に述べたような、なにかとなにかの関係性を考える力の発達は、次の段階である「大

小・長短・明暗といった「比較概念の発達」にもつながってきますし、手話と日本語という二つの異なった言語の獲得にもつながってくると考えられます。その具体的な様子を保護者の育児記録の中から拾ってみます。
右のファイルの事例は1歳児が壁に貼ってある指文字表に関心を示している様子です。この段階はまだ子どもは手話の獲得過程であり、一言語が獲得されている段階です。この時の子どもは、まだ手話と同じものとしてあるいは手話の延長として指文字をみていると推測されます。日本語の音韻が理解できているわけではありません。
〇聴覚活用タイプの子どもたちの日本語獲得

しかし、先ほど述べたように、2歳頃になって、包丁とまな板、コーヒーカップとお皿など複数のものを関係づけたり、手話で2語文が出たり、大小・長短といった比較の概念が育つなど、関係を考える力(認識する力)が育ってくると、人工内耳を含む比較的聴力のよい子は、音声で獲得され始めていた日本語が手話という言語と同時に入力される過程で、音声日本語と結びついてきます。もちろん、手話と音声が全てのことばにおいて結びついているわけではなく、手話だけの単語もあれば、口話だけの単語もあります(事例
J児・K児)。このように別々に獲得が始まった音声日本語が手話と併用されることで意味的に結びついてくるわけです。
またA児のように聴力70dB であっても、音声による音韻の100%の弁別

は難しく、文字や指文字によって音韻が視覚的に提示されることで、正確に理解することが可能となり、手話・口話を併用するメリットはここにあると言えます。また、このことから、日本語の音韻を100%区別できる文字や指文字がなければ、難聴児は音声だけで日本語を言語として習得することはできないことが理解できます(ソシュール、1916)。このことはきちんと理解しておく必要があるでしょう。


〇指文字・文字タイプの子どもたちの日本語獲得

次に、指文字・文字活用タイプの子の日本語獲得についてみてみます。
手話からスタートした子も、二つのものごとの関係について考えられるようになると、手話で表される単語が、もう一つ別の表し方(指文字や文字)でも表現できることがわかるようになってきます。つまり、「同じ意味をもつことば」が手話と日本語という言語的な違いを越えて括れるようになるわけです。

右の事例は、2歳3か月(90dB)の子どもです(右ファイル)。この子はすでに「うさぎ」の手話表現は獲得しています。ママは、この子に指文字で日本語を教えたいと思い、テレビ番組の中で興味を示したうさぎに手話だけでなく、「ウ・サ・ギ」と指文字で表示します。その段階では子どもに「うさぎ」の意味は理解されていません。しかしその後、絵本、あそび、うさぎの絵などに触れるたびに「ウ・サ・ギ」と手話と指文字での表現を繰り返し、
この子は、「うさぎ」が手話だけでなく、「ウ・サ・ギ」という3つの指文字(音韻)でも表されるということに気づきます。指文字を通して日本語という言語を発見するわけです。実は私たちはことばを子どもに教えることはできません。私たちに出来ることは、子どもが発見できるように、言語獲得の機会、環境条件を整えることだけです。この事例でも、何度かのチャンスを経て、子どもが「ウ・サ・ギ」という表現方法に自ら気づいたわけです。これが言語獲得です。「いないいないばあ」を見ていてウサギに興味を

示したことをきっかけに、ママはそれを日本語獲得のチャンスととらえ、指文字で「うさぎ」と表示します。その後、あらゆる機会をとらえて指文字で表現しているうちに「うさぎ」の指文字表現が、実物のうさぎと手話の「ウサギ」と同じなんだと子どもはある時気づいたわけです。このようにして手話からスタートした子も、定型発達の子どもであれば2~3歳の頃に日本語を獲得し始めます。
ここからは、私たち聴者が日本語を使って英語を身に付けたプロセスと似ています。す

でに概念として獲得している手話言語を使って、二つ目の言語としとの日本語を獲得していくわけです。
そして、そこにおいて大事なことは、一日のうちでどれだけ日本語に触れるチャンスがあるかという頻度です。その点、音声言語も同時に使っている軽中度難聴や人工内耳の子どもは、日本語に触れるときの情報量やチャンスが多くなるので(但し難聴児は、周囲の人のことばを「聞きかじる」ことは出来ないので配慮が必要ですが)、日本語獲得に関する音声併用のメリットはあります。
一方、聴力的に厳しい文字・指文字中心の難聴児は、大人との関わりの中で、日本語を「見せ」「使う」機会がどれだけもてるかがポイントになります。そうした周りの大人の努力が幼児期(幼稚部)の3年間、やはり必要になるのです。
〇ある聾学校幼児の日本語力の結果から
以下のグラフは、Jcoss(日本語理解テスト)という語彙・文法力を測定する検査を用いて、幼児・児童の日本語力を調べた結果です。20項目の語彙・文法力のうち何項目
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「通過」したかを年齢ごとの平均で出しています。一つ目のグラフは、縦軸に通過項目数、横軸に学齢をとり、①聴児(白点線、中川2010)、②聾学校(白直線、中川2010)、③B聾学校(橙色直線、木島2011~2016平均)、④その他聾学校(緑直線、木島2011~2016平均)の4つに分けて、学年別にそれぞれの平均値をとり線で結んだグラフです。それによると②と④の聾学校平均値はいずれも伸びが穏やかであり、就学時点で小学校の学習を行うのに必要なレベル(白直線・聴児平均10項目通過)に達していないことがわかります。しかし、発達早期から手話を導入しているB聾学校では年長(幼3)時点で8.3項目通過。聴児のレベルにかなり接近していることがわかります。また、小学校入学以降も順調に伸び、聴児平均にかなり近いところまで伸びています。このB聾学校は公立聾学校ですが大学進学率が直近7年間の平均でほぼ60%。その実績はこのグラフからも裏付けられているといえます。
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その下のグラフは、このB聾学校の子どもを聴力90dBを境にして、軽・中度群(24名)と重度群(18名)に分け、さらに人工内耳装用児(5名)を別にして、計3つの群に分けて、それぞれの群の学年別の平均通過項目数を調べたものです。それによると、①年少時(幼1)ではそれぞれの群とも聴児群よりも低い値であること、②年少時、軽中度群は重度群より有意に高い(有意差1%水準)ことがわかります。これは日本語獲得における聴覚活用併用の効果が出ていると思われます。③しかし、年長時(幼3)では、重度群の日本語力も伸び、3群とも小1教科書にほぼ対応できるレベルである7項目以上通過に達しています。④さらに小1年時には3群間の有意差は解消し、以降、どの群も順調に伸びていくことがわかります。
〇まとめ(年齢は目安。個人差あり)
・0~1歳頃に手話からスタートして、手話1語文の時期を経て、1歳半~2歳頃に始まる複数のものごとの関係を考える力の獲得を土台にして、2歳頃より2つ目の言語である日本語
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獲得の準備が整ってくる。
・2歳以降になると、すでに獲得している手話と音声とが、または手話と指文字(文字)とが結びつき、日本語の単語が獲得され始める。
・3~4歳以降、就学までの3年間は、子どもが一日の時間の中で、大人との会話、絵日記、絵本、ことば遊び等を通して、可能な限り日本語に触れる機会・時間をもつことが重要になる。
・とくに聴覚からの日本語入力が制限される重度難聴児は、文字・指文字による日本語入力が中心になるので、大人の側の意図的な配慮など日本語環境を整えることが欠かせない。
難聴児の日本語獲得を考える上で大事なことは、抽象的思考、論理的思考ができる学習言語レベルの書記日本語の力を身に付けることです。これまで難聴児は『9歳の壁』を越えられないと言われてきましたが、決してそうではないことが今回の記事から理解していただけるのではないでしょうか。
前回は、語彙・文法・読解という側面から日本語言語力についてアセスメントする方法を紹介しましたが、今回から、「生活言語」から「学習言語」へ至る過程での認知・言語発達をみる検査について紹介したいと思います。
〇幼児期から児童期にかけての認知・言語発達の特徴
まず、生活言語と学習言語という二つの言語の違いについてですが、この二つの言語について考える場合、日本語の語彙・文法・読解といった側面からではなく、認知発達の視点から考える必要があります。というのは、学習言語が、書記日本語の読み書き能力や教科学習に必要な抽象的・論理的・客観的思考のできる力に関連しているからです。
そこでで認知発達の代表的な理論であるピアジェの認知発達段階説に沿って幼児期から児童期に至る子どもの認知発達についてみてみます。
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図の左側に下から上方向に示されているのがピアジェの発達段階で、感覚運動期から形式的操作期まで順に5つの段階があります。
このうち、言語獲得以後の「前概念的思考期」と「直観的思考期」が幼児期に該当します(この2つをまとめて「前操作期」とも言います)。
ピアジェによれば幼児期の特徴は「自己中心性」(「中心化」)で、ものごとを自分中心という主観的な視点からみるのがその特徴です。
しかし、小学校以降の教科学習が可能となるためには、ものごとを客観的な視点からみることが必要ですから、"自分"という主観的な視点(「自己中心性」「中心化」)から、"自分以外"の別の見方(他者など自分以外の別の視点)が考慮できるようになることが必要で、これを「脱中心化」といっています。この「自己中心性から脱中心化へ」の発達が、「生活言語から学習言語へ」の発達の認知的側面であると言えます。

この点を含めて生活言語と学習言語を定義づけるとしたら、生活言語(=幼児期)とは「自分自身との関連でことばを理解している」段階であり、学習言語(=児童期・低学年)とは「自分の経験を離れて一般的・客観的にことばを理解できる」段階と定義づけることができます。(右図参照)
さらに児童期・高学年では、慣用句(「手に汗を握る」「頭をひねる」など)やことわざ(「論より証拠」「馬の耳に念仏」など)のような、比喩やたとえを使って的確に物事の本質を表現したり、「すみません、時計もっていますか?」と言われたとき、場と状況によってそれは時計の所持を尋ねられているのではなく、「今、時間は何時ですか?」と時刻を尋ねられているということの意味など、ことばは字義通りの意味だけでなく、さらに別の意味があることの理解ができるようになります。また、詩や短歌、俳句などのようにものごとの深い感動をあらわした文の意味をくみ取れるようになっていきます。このような段階を「ことばの本来の意味を越えてことばの意味が見出せるようになった段階」ということができます。学習言語の中でもレベルが高く、ピアジェの発達段階で言えば、「形式的操作期」(11,12歳~)に該当する段階です。
〇きこえない子はどこでつまずくか?~最初のハードルとアセスメント
「自己中心性から脱中心化へ」「生活言語から学習言語へ」というこの発達の節目は、「5歳の(だらだら)坂」(齋藤佐和,1986)と言われて、きこえない子どもたちは、ここを越えることに多くの時間がかかり、きこえない子にとっての大きなハードルとなっていました。この発達段階は、ピアジェの認知発達段階では、「直観的思考期」(4~7歳)から「具体的操作期」(7,8歳~)への移行の時期と重なっており、「脱中心化」がメインのテーマとなる発達の節目です。
しかし、発達の節目はここだけではなく、実はもう少し年齢の早い段階にもあります。それは、ピアジェの発達段階でいうと、「前概念的思考期」(2~4歳)と「直観的思考期」(4~7歳頃)の変わり目あたりです。以下、乳児期から幼児期前半頃のピアジェの認知発達段階に沿ってその頃の認知発達の様子からみてみます。
ア.感覚運動期(0~2歳頃)
7,8か月頃、赤ちゃんはものが隠れて見えなくなっても、それが存在していることを理解できるようになります(「対象の永続性」)。見たものや経験したことをイメージを

使って記憶ができるようになるので(イメージ=symbolの誕生)、まだことばがわからなくても、実物の代わり(=symbol)として、経験したことの「写真」を見て親子で気持ちを伝え合えるようになるわけです。そして、1歳頃の初語の表出を経て(難聴児では手話による初語表出は聴児の初語表出と時期的に変わりませんが、難聴児の音声言語初語の時期は半年から1年くらい遅くなります)、2歳頃に「ものの名前がわかる」ようになります。もの名前は、共通の性質をもった同じものの集まり(カテゴリー)につけられた名前ですから、この頃にものの概念やカテゴリーがわかるようになったとも言えます。ここまでは手話で言語獲得は大丈夫なのですが、難聴児の言語獲得の問題は、獲得したそのものの概念やイメージにどれだけの豊かさがあるかなのです。それは、2歳から4歳頃の「前概念的思考期」をどのように過ごすかに関わってきます。
イ.前概念的思考期(=象徴的思考期)(2~4歳)
言語を獲得し概念を形成し始めた2歳頃になると、子どもはもののイメージを頭のなかに

記憶・保存し、あとで取り出して使うことができるようになります。この年齢ではまだ頭の中で言葉や数字を使って高度な思考を行うことができないので、簡単なことば(symbol)やイメージ(symbol)を使い、イメージを頭の中で動かしてママやパパになってままごと遊びをしたり、ヒーローやヒロインになったつもりになってなりきり遊びなどに没頭します。いわゆる象徴あそびが盛んになる時期です。右のファイルの事例はそのような例です。2歳から3歳代にかけてのこの

時期に、目の前にないものを思い浮かべて(イメージを浮かべて)象徴あそびをたくさんした子、買物や料理、洗濯や洗濯物干し、掃除やごみ捨て、外出や外あそびなどを親と一緒にやった子、絵本をたくさん読み再現あそびをした子たちは、実物にもたくさん触れていますし(直接経験と生活概念の獲得)、その実物についての概念を大人との会話を通して獲得していますし(概念の拡充や記憶)、絵本や絵日記、描画といったシンボル媒体(間接経験)を通じて想像の世界とも結び付けることができていますが、生活の用を足すだけの通り一遍の会話(いわゆる日常会話)だけで終わると、きこえない子たちの概念形成とシンボル形成はうまくいきません。

きこえる子はどこかでだれかの話を「聞きかじる」「耳にする」経験をしていて情報を補うことができるのでそれほど概念形成に関して難聴児ほどの心配は要らないのですが(全く不要という意味ではありません)、きこえない子は「今、ここ」で向き合っているときのやりとりだけが概念やシンボルを拡げる場になるので、この時期に実物に触れる経験やその経験をことばやイメージで膨らませていく関わりが不足すると、頭の中にイメージが作れなかったり、そのモノの概念に広が

りがなかったり、りんご、みかん、バナナといった目で"見える"モノの名前は習得できても、「果物」といった目で"見えない"カテゴリー(上位概念)につけられた名前を習得することができません。ことばがカテゴリーごとにまとめて整理され頭の中に保存されていないので、新しいモノに出会ってもそれが何かを推論できず、結果的にことばが広がらないということになりますし、ことばがバラバラになっているので記憶もしにくいということになります。
そこで、こうした関わりがうまくいっているかどうかをチェックすることが必要ですが、その時期として、「前概念的思考期」と「直観的思考期」の発達の節目である4歳頃に、2~3歳代のシンボル機能の発達と概念カテゴリーについてチェックを一度行うわけです。
〇太田ステージ~stageⅢ-2後期・・目の前になくても頭の中にイメージが浮かぶ?

目の前にないものをイメージできるかどうかをみるのが、太田ステージⅢ-2の「物の大きさの比較」です。記憶表象(symbol)が未発達で実物しか思考の対象にできない段階(Ⅲ-2前期)か、頭の中にしっかりと記憶表象がもてている(Ⅲー2後期)かをみます。
*難聴児は、言語獲得をしたのち、ものの名前や概念をそれなりに身につけていきますが(いわゆる「基礎語」の獲得は可能)、獲得している概念の豊かさに欠ける傾向がありま

す。日々の生活の中で用を足せば終りの会話だけでは十分にものごとの概念が十分に身に付いておらず、また、イメージも豊かにもてていないことが多いので、4歳頃に一度チェックをして、ここで躓いているようであれば、もう一度、概念を豊かに獲得するための丁寧な会話を、家庭で心がけていただくようにします。右に添付した事例は参考になると思います。


〇質問応答関係検査「類概念」・・ことばがカテゴリー化(構造化)されてる?

難聴児は、ことばの獲得(モノの名前がわかる)は可能ですが、目の前に見えるモノの名前はわかっても、さらに抽象性の高い上位概念を知らないことが多いです。例えば、「犬、ねこ、牛、馬」(基礎語)は知っていても、それらの共通性からまとめたことば(上位概念)である「動物」ということばを知らないことがあります。「動物」は抽象概念であり、「動物」というものがいるわけではありませんから、「見えない」ことばで

す。見えなくても、どこかで「聞いて」知っていくのが聴児ですが、きこえない子はそれができないので、このような「見えない」ことばは教えるしかありません。そこができているかどうかを問うのがこの検査です。
事例は、ものごとの概念をどう深めるか、事例Bは絵本とも結び付けながら「すいか」という実物との出会いをどう体験し、イメージ豊かにすいかの概念を学ばせたか、事例CはC「服が汚れちゃった」「洗濯機に入れと

きなさい」で終わりがちな日常会話から、さらに一歩深めて実際に一緒に「洗濯」を体験した事例です。このもう一歩深める会話こそ、難聴児の概念を豊かに身につけさせられるために大事な会話。こうしたやりとりを2~4歳の「前概念的思考」の時期にしっかりやることが、次の「5歳の坂」というさらに大きなハードルを越えるための貴重な糧になるわけですね。

以上、「太田ステージ」と「質問応答関係検査」についての詳細は、以下の項目もぜひ参考にしてください。
HP・TOP>乳幼児期・学童期>豊かなイメージをもったことばの獲得を!~幼児期3歳のシンボルの発達
http://nanchosien.com/nyuyou/post_237.html
HP・TOP>発達の診断と評価>難聴幼児の認知発達をとらえるものさし~太田ステージ
http://nanchosien.com/10_1/post_226.html
以上が、幼児期の認知発達段階である「前概念的思考期」(=「象徴的思考期」2~4歳)から次の段階である「直観的思考期」(4~7歳)の移行期にある最初のハードルとそのチェック方法です。ここを上手に乗り切ると、次のハードルである「直観的思考期」から「具体的操作期」(7,8歳頃)の間にある「5歳の坂」が乗り越えられます。発達は順番にしか進みません。年齢に関係なく、躓きをみつけたらその地点に戻ってやり直すことが結局は早道なのです。「急がば回れ!」
昨今はSNSが発達し、前者はInstagramやFacebook、YouTube等を活用して積極的に発信し、自分たちの存在をアピールしたりもしています。読者の方もそのような情報に一度は接しておられるのではないでしょうか? もちろん、一方では、聾の立場からも手話を使って積極的に発信している人たちもいます。そしてその人たちのほとんどは、デフファミリーで育った人、聾学校に通った人、聴者家庭でも手話をも使って育ってきたという人たちで、自分がきこえない人間であることを認め、「手話があってよかった」という人たちです。彼らは、どちらにせよ自分が自由に駆使できる言語をひとつ持つことができた人たちです。
私たちは、社会の中で積極的に人と関わり、対話し、自らをアピールしていくためには日本語にせよ手話にせよ、言語が必要です。では、その言語がどのようにその人の中で形成されていったのか、と考えると、そこにはいろいろな問題が見えてきます。
聴覚障害教育の立場には、大きく分けて、①手話を排除する口話法の立場と②口話併用の立場も含めて手話を認める大きな意味での手話法の立場があります。後者の②の立場は、手話という言語を一つ持てるという点でよいのですが、もう一つの言語である日本語に関してはまちまちです。そこに課題があることは確かです。ただ、自分が自由に意思を表明し他者を理解する言語があるという意味で、人とつながり、世界を認識していくことが可能ですから、言語が無いことから生ずるリスクは回避できます。
その一方で、「口話で育ってよかった」という人たちは、手話を排除した方法で育った

人たちです。口話というのはきこえる人にとっては自然獲得できる言語ですが、きこえない人にとっては自然獲得できる言語ではありません。意図的に学習することで身につけた言語です(「学習言語」の意味とは違います)。高度難聴で人工内耳をしてあとは保育園に入れて聴児と同じようにふつうに生活していれば自然に身に付くといったそんなに簡単なものではないからです。右の事例は、SNSに投稿されたある人の記事で、そう簡単にはいかないということがよくわかります。
SNSで発信している「口話が育ってよかった」という人たちは、間違いなく、障害が発見されて以来、親御さんの献身的なかかわりの中で育った人たちです。その結果として、口話を身につけ、読み書きの力を身につけ、学力を身につけ、大学まで進んだのです(例えば〇〇サポのMさんはそういう一人)。ですから、私たちは、その結果としての「今」の彼らの姿だけを見て「口話で普通に育てればいいんだ」と軽く判断してはならないのです。
彼らの今の姿があるのは、間違いなく、しっかりとした家庭の中で、親御さんが熱心に関わり、絵カードや絵日記といった言語習得のための教材を自作し、時間と労力を費やして、日々、言語を身につけるかかわりをした結果であるからです。
ところがその一方で、そうではなかった人たちもいるのも確かです。いや、数の上では、思ったほどに、日本語力とか思考力という点で成果が上がらなかったという人たちのほうが多いのが現実です。いわゆる「9歳の壁」の前で歩みが止まった人たちです。それでも手話と

いう言語を一つ持つことができれば、その言語で人と関わることができますから、人間関係から疎外され孤独の中で人生を送ることは避けられる。問題は、手話を排除した口話法という方法によって日本語が身に付かなかった場合、どうなるのかということです。口話法でうまくいかなかった結果、小学生や中学生ときに高校生から聾学校に来る子どもたちがいますが、それでも手話が獲得できるチャンスはあります。しかし、そのチャンスさえなかった人たちはどうなるのでしょうか? 右のファイルは、最近いただいた、ある聴覚障害者の相談支援を担当しておられる方からのメールです。読んでいると暗澹とした気持ちになるのではないでしょうか?
口話法教育というきこえない子にとってのハードルの高い教育の中で、結果として言語を身につけられなかった人たちの人生を思うと、口話法がセーフティーネットをもたない、いかにリスクの大きい教育方法であるかということが見えてきます。
つまり、"手話を使わない"口話法教育は、自由に駆使できる言語を一つも持てないかもしれないという大きなリスクを伴う教育方法であり、もし仮に日本語習得がうまくいかなかった場合、「言語のない状態」に陥るという危険性をはらんでいるということです。
「言語のない状態」というのは、言語を持っている私たちにはなかなか想像しがたいことですが、こうした事例から、言語がないことから、ものごとを深く認識するために必要な思考力(書記言語・学習言語)も育たず、人とつながるために必要な言語(コミ言語・生活言語)もないために人間関係からも疎外され、孤立し、結果として心理的な不適応に陥り、その果てに生きる意味すら失い、人生を自分で終わらせる人が決して少なくない、という現実です(このファイルでは敢えてそこまで触れませんでしたが、生きる意味を失い自死を遂げる人たちは決して少なくありません。個人情報ですから表に出ないというだけのことです)。
町のにぎやかな居酒屋で自由に言いたい放題言い、相手の冗談に大笑いできる言語、それが本来の母語であり第一言語です。それを日本語でも手話でも持てなかった人たちが確かにいて、彼らは馬鹿な冗談を言い合えるような友達もなく日々孤独に過ごし、言語がないためにしっかりとした自分の考えも育たず、結果としてだれにもどこにも相談することができず(相談するということすらわからない)、自分のことを自分で決めるということも難しい。そしてその多くは、幼い時から聴者の親の庇護にひたすら頼って生きてきたという現実。しかしその親たちもすでに高齢で、親亡き後をどうするのかという問題に直面しているわけです。
最近、聴覚障害児にも「切れ目のない支援を」ということが言われ、早期支援の分野での支援の充実が叫ばれていますが、成人した聴覚障害者にも「切れ目のない支援」が必要だと思うと同時に、発達早期から、だれでも日々使いさえすれば獲得できる手話という、セーフティーネットの役割をも果たす言語をもつことの大切さを感じます。冒頭に述べたような「口話がいい」という聴覚障害者たちが子どもの頃親に膨大な時間を費やして育てられたその結果なのだということを考えると、人工内耳等により、装用聴力の軽い子たちが増え、両親就労する家庭が増加し、結果としてインテグレーションが増加していくこれからの時代、手話も日本語も十分でないダブルリミテッド、セミリンガルの人たちが増えていく可能性は否定できません。きこえない子どもへの家庭での両親の関わりの時間的少なさをどのように補い、時間的少なさを補える関わりの質の高さをどうやって親御さんたちにもってもらえるのか、これからのきこえない子の子育て・教育は難しい時代になったなあと感じる今日この頃です。
〇手話か口話か? 手話も口話も?
手話からスタートした子どもたちはどのように日本語を獲得していくのでしょうか? ある医療機関では、「手話を使ったら声を出さなくなる」という理由で手話を禁止するのだそうです。また、ある中等度難聴児のママは「手話は必要ないから」と言われたそうです。本当に手話をすると子どもは声を出さなくなるのでしょうか?本当に難聴児には手話は必要ないのでしょうか?
今回は、1歳から3歳頃までの手話からスタートした子どもたちが、どのように日本語を獲得していくのか、まずその発達の筋道を紹介し、最後に手話からスタートした難聴児と聾児の3歳時のママとの会話を紹介します。

*そのエビデンスはこのホームページの下記の項を参照して下さい。
TOP>論文・資料・教材>「9歳の壁」を越え始めたきこえない子どもたち。
nanchosien.com/papers/post_70.html
ここでは、筆者が行った保護者聞き取り調査(2017年都立ろう学校2校21名対象)の結果及び都立ろう学校乳幼児相談保護者育児記録(2003~2019年)より事例を紹介つつ、手話から日本語獲得への道筋を見ていきたいと思います。
1.比較的聴力の軽い子どもたち(概ね90dB未満)の日本語の発達
①音に気づく~0歳後半~


②音声模倣・音声初語・音声単語獲得~1歳代


一方で90dB以上の聴力の重い子たちは音声初語が出る子は比較的少ないです。この子どもたちは2歳半頃に指文字で日本語語彙を獲得し始めるまでは手話中心の言語発達をしていきます。最初の図のいちばん下の【指文字タイプ】の子たちです。この子たちの日本語獲得はもう少し時間がかかります。ただ、手話での会話内容は、きこえる子が音声言語でやりとりするのと同じように内容豊かなものです。

③日本語対応手話へ~2歳代以降

2.比較的聴力の重い子どもたち(概ね90dB以上)の日本語の発達
①手指喃語・手話初語・二語文・語彙爆発・・・0歳代後半~2歳

また話による語彙の爆発や二語文の獲得は1歳代の後半、ほぼ同じ頃にみられます。
②指文字の獲得・・・1歳半~3歳代
・手話の延長としての頭指文字や固有名詞の表現として使う


このように、比較的聴力が重く手話中心でこれまできた子どもたちは、2歳後半から3歳頃にかけて主に指文字を使って日本語を獲得し始めます。ただ聴力の軽い子どもたちが、日本語対応手話で音声も併用してリアルタイムに会話していくのに対して、聴力の重い子どもたちは、手話での会話にわざわざ自分から指文字を使って会話をすることは、手話で表せない語彙に使うくらいしかないでしょう。そのため日本語に触れる時間的な少なさという問題が生じます。それを補うためには、大人の側から日本語対応手話を使いながら、ターゲットとなる手話語彙を指文字で表現し、日本語を教えていくといった工夫が必要になります。また、以下の項のように文字を通して日本語を学ぶ機会を増やしていくことも必要です。
3.文字から日本語を!~写真・絵カード、絵日記、オリジナルことば絵じてん、絵本など
文字による日本語獲得についてはここでは省略します。それぞれの意義については該当の項を参照して下さい。
〇まとめ


では、この二人に共通していることはなんでしょうか? それは単にSpeechができるかどうかという目先のことではなく、Languageという、思考をするための「言語」を育ててきたという点です。手話でスタートするという最大の利点は、100%見てわかる会話をすることで子どもの経験を深め、その経験をもとに言語(手話・日本語)を使って考え、豊かな想像力を膨らませ、そこで培われた力が書きことばの土台となって学力の形成や抽象的・論理的思考という学習言語の世界へと繋がっていくという点です。頭の中のLanguageを育てる、それが手話でスタートすることの大切な意味なのだと思います。
さて、ここまでは主として乳幼児教育相談の年齢段階での手話と日本語の発達の過程でした。これより以降は、聾学校幼稚部に入学して言語の指導を継続するのがよいと思います。友達と互いにわかりあえる手話を通して関わることで自分の気持ちをコントロールする力、互いのぶつかり合いの中から自分たちで問題を解決する力、友達と役割を分担し互いに考えを出し合い、協力して遊びや生活をつくっていく力は、お互いに通じ合える共通の言語・コミュニケーション手段があってのことです。そうした集団の関わりの中でこそ社会性は育つものだと思います。そしてこのような生活の中で身につけた言語こそ、小学校以降の教科学習の土台になるものだと思います。
前回(3/29)、一語文から二語文への手話での言語発達について書きました。子どもは2歳頃になると、記憶する力も伸び、楽しかった過去の経験が語れるようになってきます。そして頭の中にある楽しかった思い出をありったけの単語を羅列して語るようになります。しかし、経験したことを伝えきるにはまだ語彙数が十分とは言えません。「今、ここ」でのことなら実物や身振り、表情、指さしなどの手掛かかり(非言語情報)も使えますが、「あの時、あのこと」を語るためには、名詞の羅列だけでは伝えきれません。叙述表現には文の述部を構成する動詞や形容詞が必要になるからです。
しかし、「ものには名前がある」ことがわかるようになった子どもたちは、外界への関心をさらに高め、「語彙の爆発期」を通して次第に語彙力と文で伝える力を獲得していきます。それが2歳から3歳の頃です。ちょうどこの頃、子どもは「自我の芽生え」の時期を迎えます。そこで今回は、2歳から3歳代にかけての心の面での発達について書いてみたいと思います。
〇自我の芽生える頃

子どもは1歳を過ぎると写真や鏡に映っている自分やパパ、ママなどがわかるようになってきて、他人と違う「自分」という存在に気づき始めます。また、自分のしたいことや嫌なことがはっきりしてきて、ほしいものを要求し嫌なことは拒否しますが、まだ自分の欲求や衝動を抑える脳の機能も育っていないので我慢することができません。
2歳になるとその傾向はますます強くなってきます。そのために大人の側もついイライラすることが生じがちですが、でもこれは裏を返せば「自分でやり通したい、がんばりたい」という子どもの積極性・意欲のあらわれでもあるので、この気持ちを大事にしてあげることが大事です。しかし、やりたい気持ちとは裏腹に、まだまだ運動機能も不十分であったり、やりたいけど自信がないという心の揺れを感じたりするために、自分でやり通せず、癇癪を起したり泣いたりなど感情が揺れ動きます。その子どもの心理を読み取り、子どもの自我をはぐくむ大切なチャンスととらえ、子どもの気持ちにまず寄り添い、「~をしたかったんだよね」「大丈夫。だんだんとできるようになるよ」と上手に受けとめて自信をもたせていくことが必要な年齢です。
〇どのような対応が必要か?~肯定先行
とは言っても朝の時間がない時に「イヤイヤ」が始まるとついついイラっとして「時間がないから早くして!」「今日はママがやるから、もうっ!」と叱りたくなったりしますが、それはかえってドツボにはまりかねません。そこで一工夫。これから行くところの写真カードを見せて「この前のこの遊び、楽しかったねえ。またやりに行く?」とかスマホを取り出して「あっ、〇〇先生が早くおいで~ってメールくれたよ」などと演技をするのもありかもしれません。ともかくいちばん大事なことは、まず子どもの気持ちを受けとめること。頭から指示・命令・禁止・叱責ではなく、「〇〇ちゃんは自分でやりたいんだね」、嫌がるときは「いやなんだね。じゃあ、やりたくなったら言ってね」などと本人の意思を尊重することで、子どもは自分が認められているとが実感できます。まず何より肯定先行が大事です。
〇比べる力の育ちを手掛かりに~対概念
また、2歳は、「同じ・違う」「良い・悪い」「上・下」「出来る・できない」「大きい・小さい」「長い・短い」「たくさん・少し」といった対比的な概念が育ってくる時期です。このような概念が育ってくると、「大きくなった自分」「良い子の自分」というイメージを子どもの内面に育てることができるようになってきます。うまくできた時に「大きくなったね」「お兄ちゃん(お姉ちゃん)になったね」「良い子の〇〇ちゃんになったね」と「成長した自分」というイメージを子どもの中に育てていくようにします。そうすると癇癪を起して泣きわめいているときなどに「良い子の〇〇ちゃんはどこに行っちゃったのかな?」「おーい、お兄ちゃんの〇〇ちゃーん」などと子どもに「成長した自分」に気づかせていくこともできるようになってきます。
このような繰り返しの中で、3歳を過ぎると「少し待ってみようかな。がまんしようかな」と徐々に自分の気持ちをコントロールできるようにもなってきます。
〇きこえない子たちの心の育ち~心の発達を支えるには言語が大事!

事例A~Dは、2歳前後の「自分」を主張し始めた頃の子どもの事例です。やりたがる子どもの気持ちを尊重し、最後まで見守り、できたことをほめることで上手に子どもに満足感を与え自信をつけさせています。「肯定先行」の大切さがわかります。そして伝えあえる言語の大切さも。

事例Fは、子どものやりたい気持ちを優先するなかで、母親が率先して地域の人たちにあいさつしているのをみて、子どもも自分から挨拶するようになっています。2歳後半~3歳頃になると、大人の使っていることばを

事例Gは、家庭の中でのそれぞれの役割を「仕事」という概念で理解し、率先して自分の仕事=身の回りのことを自分ですることと考え、家族の中での自分を位置付けており、心の成長を感じさせる事例です。
〇語彙獲得の便利な仕組み~即時マッピングと語彙の爆発


では、なぜこのような急激な語彙の獲得が可能になるのでしょうか? それは、未知のもの(図の例では「オカピ―」)に遭遇したとき、私たちの頭の中では、すでに知っているもの(例:動物、犬、猫、キリン、シマウマなど)を手掛かりにしてそれらと、未知のもの(オカピ―)とのあいだに類似性を見出し(その類似点・相違点は見た瞬間に判断しています)、そこから新しいものがどのようなものであるかを推論し(「あれ、キリンみ

〇手話は発達早期から認知発達を促進できる言語
では、きこえない子の場合、このような言語獲得システムは有効に機能するのでしょうか?これまでの経験からは、一般的にきこえない子の音声言語では獲得語彙数が50~100語程度まで増えてくる2歳代以降になることが多いですが(補聴器や人工内耳をしても音韻の弁別ができるまでに時間がかかる)、手話では1歳代でこの現象がみられます(*21名の保護者聞き取り調査では12名の子どもにこの「語彙の爆発」期がみられ、その平均開始時期19.4か月でした)。
このことは、獲得した語(手話)を使って発達早期から親とやりとりし、自分の思いを伝えたり、さまざまな体験とそのことに関わるやりとりを通してさまざまな物事の概念を身につけ、認知的な発達を促すことができるということです。これが手話からスタートすることの大きなメリットの一つです。
〇一語文から二語文への発達過程~述部になる動詞・形容詞の獲得
1歳半から2歳半頃、獲得している手話を使って子どもはず両親や家族などと「今、ここ」でのことについて簡単なやりとりができるようになります。そして親子・家族の中での楽しい経験とわかるコミュニケーションによって、子どもは自ら心を動かしたことについて、身につけた手話を使って積極的に伝えるようになってきます。

また、事例Bでは、姉や自分の洋服について気づいたことを、お互いに手話で自由に語り合っています。この家庭では姉も含めて家族皆で手話を学んでおり、きこえない妹は手話のわかる健聴の姉に自分の思ったことを伝え会話を楽しんでいます。そしてこの子が表出している「ある」「同じ」「見る」などの状態や動作をあらわす語は文の述部になっていて、語順のある二語文になっています。
〇二語文が出るための発達的な要件とは?
1歳半頃にはきこえない子が表出する手話の語彙は50~100語に達しますが、同じころ、二つのことが同時に処理できる力も育ってきます。例えば、ままごと遊びは以下のように発達します。
①1歳頃「りんごのおもちゃを口に入れる真似をする」(ふり遊び)→
②1歳半~2歳頃「切るもの(おもちゃの包丁)と切られるもの(りんご)との関係を
理解して、おもちゃの包丁で切る真似をする」→
③2歳頃「切ったりんごを皿に入れて出す」(見立て遊び)
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例えば、右の【事例C】と【事例D】はちょうど2歳頃の「見立て遊び」の例ですが、このような、二つのことを関連付けて遊べる力や事柄を順番通りに実行できる力が、二つの単語を並べて一つの文にまとめた二語文の生成を可能にしているわけです。
〇きこえない子の特徴的な手話の使い方~要求表現「ほしい・~たい」
子どもは1歳代に手話の単語を獲得していきますが、モノの名称をあらわす名詞だけを二つ並べても文にはなりません。状態や動作を表す動詞や形容詞の獲得が二語文を生成するために必要ですが、きこえない子の場合、動詞・形容詞を獲得する前に「ほしい・~たい」の手話の使用がしばしば用いられます。その使い方の特徴は、初めは動詞の代用としての使い方が多いようです。
(例)「/指さし(あっち)/+ほしい」→「(あっちへ)行きたい」(P児・1歳3か月)
「ねこ+ほしい」→「ねこと遊びたい」(Q児・1歳4か月)
「番組名+ほしい」→「テレビ番組名が見たい」(R児・1歳8か月)
その後、動詞が獲得されると、本来の動詞意向形(~たい)や形容詞(ほしい)として使われ、動詞の代用としての使い方は少なくなっていきます。
(例)「開ける+ほしい」→「開けたいor開けてほしい」(P児・1歳7か月)
「飲む+ほしい」→「飲みたい」(R児・1歳7か月)
〇「自分の・自分で・自分も」(助詞の使用)
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〇二語文がなかなか出ないとき、どうすればよいか?
きこえない子の中には、単語は出ているけれどなかなか二語文が出ないという子どもたちがいます。この子たちはどこに課題があるのでしょうか?
①まず一つ目は、子どもがいちばん自分の話をきいてほしいのはやはりママやパパなので、子どもの気持ちを受けとめて、子どもに合わせて共感しながら応答しているか見直してみましょう。会話のコツは、子どもがいちばん言いたいこと・気持ちを言語化してあげることです(「~なんだね。~と思ったんだね」等)。このような応答的な関係を大事にすると子どもは自分の思いをたくさん語ってくれるようになります。

②二つ目は、単語だけで済む会話をしていないか見直してみることです。日本語の会話

③三つ目は、二つのことを同時に処理する力とか物事を手順通りに進める力を伸ばすことです。
例えば「パパに新聞を持って行って、コップをもらってきて」「靴を履いて帽子をかぶってね」(二つのことを記憶して実行する)とか、衣服の着脱や食事の準備の手伝いなど生活習慣の繰り返しの中で操作手順をマスターする力をつけます。

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前回(3.6記事)、ヘレン・ケラーを例に、「モノには名前があることがわかること」が言語の獲得だと書きました。ヘレン・ケラーは、庭のポンプからくみ上げた冷たい水を掌に受けたときの体験から、庭のポンプからほとばしる水も、コップで飲む水も、「水(w-a-t-e-r)」という名前なのだということを発見しました。そしてれが言語獲得だということも書きました。
言語を獲得するということは、言い方を変えると、「同じ」という観点で世界を「類」に切り分け(分類・カテゴリー化)、それらを集めて括ったまとまり(=カテゴリー)に対して名前をつけるということです。
さて、実は、私たち人間は、この方法を使って外界の事物を分類・整理し、世界を捉えています。ですから、「モノには名前があること」がわかったということは、世界を認識するための大事な方法を手に入れたということを意味します。
例えば、私たちの日常生活では、調理道具、食器、洋服類、洗面用具、大工道具、勉強道具など、それぞれのモノはそれぞれ収納する場所が決まっています。もしこれらの道具類が全てごちゃまぜに一つの大きな箱に詰め込まれていたら、どこに何があったのかもわからず(記憶すること自体が困難)、必要な時に必要な物を取り出すことができなくて、生活は大混乱に陥るでしょう(と書きつつ、今の自分の生活はそんな状態で、探し物にいつも貴重な時間を使っているなあ・・と反省)。
〇カテゴリーと概念を豊かにすることが抽象的な思考には不可欠
このような、ものごとの共通性・類似性を抽出して分類する枠組みを「カテゴリー」と言い、そのカテゴリーに存在するものの共通性・類似性をまとめたものを「概念」と言いますが、私たちは常にこのようなカテゴリー化と概念化によって思考を整理しています(殆ど無意識的にかつ自然に)。そして、カテゴリーとして整理することで二つのメリットが得られます。一つは遭遇するすべてのものをひとつひとつ別々に記憶する必要がなくなります(記憶の経済性)。もう一つは新しく出会うさまざまなものに対して、カテゴリー化された既有知識を使って新しいものがどのようなものであるのか予測・推論(帰納的推論)することができます。

〇『9歳の壁』を越えるためには基礎概念からの積み上げが必要
抽象的思考とは、平たく言えば実体のないものや目には見えないことを理解したり、頭の中でイメージできる力です。同じ5年生の学習で算数では「百分率」を学習しますが、「百分率」というものを実際に目で見ることは不可能です。しかし例えば100円の商品を購入するとき消費税率が10%であればその商品は100円+0.1×100円であることは、頭の中でイメージできるでしょう。あるいは、A>B,B>Cの時、A>Cであるということが頭の中で記号を操作して理解できるでしょう。


〇しかし、「ものに名前があることがわかる」ことはスタートでしかない

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最後に、実際に「ことば絵じてん」づくりに取り組んで、大きく「絵画語彙検査」の結



★ 音声喃語(例)
【A児・50dB,9カ月】 これまでは、ア、ウ、エ、ンだけだったが、『バババ』『パパパ』など濁音や半濁音がついた声を出すようになった。
【B児・80dB,1歳0か月】 『マンマンマ~』『バババ~』などの声を出す。

【C児・100dB,10か月】
「手をパチパチ叩いたり、頬杖をつくようにほっぺを両手で触ったり、『無い』のように手を返してみたり、意味はなさそうだがいろいろな手の動きがみられるようになった」
【D児・110dB】 手をにぎにぎする動作を繰り返す」(9か月) 「頭をパーの形でトントンしている」(11か月)
そして、最初から手話を使っている場合、1歳前後には手話による初語が出てきます。これは聴力に関係なく初語は手話が圧倒的に多いです。(本HP>TOP>発達の診断と評価>前言語期を参照)

では、初語が出ればあとは次々とことば(含手話)が出てくるのでしょうか? いいえ、言語が本当に獲得されたといわれるまでにはもう少し時間がかかります。そこで今回は、初語が出てから、ことばが本当に獲得されたと言えるまでの発達の過程について書いてみたいと思います。
〇ヘレン・ケラーはどうやって「モノには名前がある!」ことに気づいたか?
盲ろうの才女ヘレン・ケラーのことは皆さんもご存じの方が多いと思います。日本にも戦前に2度、戦後は1948年に来日し、「身体障害者福祉法」の成立に大きな影響を与えました。また彼女は、全国の盲・聾学校をまわって講演し、多くの人々を勇気づけ、当時の

ヘレン・ケラーは1歳7か月の時に高熱の影響で視力・聴力を失いますが、6歳9か月のとき家庭教師アニー・サリバンと出会い、徹底した個人指導によって言語を獲得し、19歳の時にハーバード大学ラドクリフカレッジに入学します。映画『奇跡の人』は1960年代に公開されましたが、この映画は、アニー・サリバンとの出会いから、「モノには全て名前がある」ということに気づくまでの約1か月間の経過を感動的に描いています。この映画のクライマックスシーンは、サリバンと庭を散歩している時、井戸水をくみ上げる手押しポンプからほとばしる水を掌に受けたヘレンが、もう一方の掌に「w-a-t-e-r」とサリバンに文字で綴られた場面で、このときはじめて「すべてのモノには名前がある」ことに気づきます。その時の感動をヘレンは自伝の中で次のように書いています。
「突然、まるで忘れていたことをぼんやりと思い出したかのような感覚に襲われ・・この時初めて、w-a-t-e-rが、私の手の上の流れ落ちる、このすてきな冷たいもののことだとわかったのだ。」(『ヘレン・ケラー自伝』,新潮文庫,34頁)
つまり、モノには名前があるということをこの時に初めてヘレンは理解したわけです(正確に言うと2歳前に失聴して失われていた感覚が5年たってよみがえった)。では、その前はヘレンはモノに名前があるということはわからなかったのでしょうか? 記録によると、ヘレン・ケラーはいくつかの特定のモノに対して、例えば人形に対して「d-o-l-l」と指文字(ヘレンはサリバンに触指文字を教えられその記号を習得していました)で綴ることはありました。しかし彼女は、別の人形に対しては「d-o-l-l」と綴ることはしなかったのです。もしモノに名前があることがわかり、名前とは似たもの同士のモノに付けられた記号だということが知っていたら、多少の違いはあってもどの人形にも「d-o-l-l」と綴ったでしょう。それをしなかったのは、彼女は特定のモノに対応してある種の記号(ここでは「d-o-l-l」)を対応させるということはわかっていた(これも、あるものが別のもので表されるという意味で「象徴機能」の一種です)けれど、だれにも通ずる一般化された「言語」としてはまだ習得されていなかったということです。言い換えるとモノの名前はある類似性をもったものの集まり(カテゴリー)につけられた名前だということを「w-a-t-e-r」の体験をするまでは気づかなかったということです(これに気づくことが誰にも通じる象徴機能である‟言語獲得")。
〇それから、「語彙の爆発」が始まった
そしてこの体験をした直後、その日のうちに30くらいのことばを一気に覚えたとサリバンは書いています(『ヘレン・ケラーはどう教育されたか』)。以後、ヘレンは、沢山のモノの名前を知りたがり、周りの人に自分の知っていることばを教えたがるようになります。いわゆる「語彙の爆発」が始まっていったのです。
〇聴児や先天性難聴児の場合は?
ヘレン・ケラーの場合は、1歳7か月で失聴・失明ということもあって、非常に劇的に6歳10か月の時に、モノには名前があるということが思い出されたのだろうと思います。では、きこえる子ども(聴児)の場合はどうでしょうか? きこえる子の多くは1歳前後に初語が出て(もちろん個人差も大きい)、その後の数か月間は、例えば「わんわん」を犬だけでなく猫などにも対応づけてしまうなどのことがよくあります(「過剰般化」)。カテゴリーの基準がまだよくわかっていないからです。以下の例は、難聴児の手話での過剰般化の例です。
【事例G・1歳10か月】
Gはモノが落ちた時、手話で「しまった」の表現をよく使う。哺乳ビンが落ちて「しまった」、本が落ちて「しまった」と、「落ちる=しまった」と思っているらしい。今日、パパが作ったうさぎの折り紙(上から落とすと耳をパタパタさせながら回転して落ちてくる)が上からパタパタと落ちてきたとき、やはり「しまった!」とやっていた。
しかし、2歳くらいになるとこのような間違った対応づけも少なくなり、モノの名前とは似たモノ同士のモノ(カテゴリー)につけられた名前であるということがわかってきます。
ではこの発達の過程は、きこえない子(難聴児)の場合ではどうでしょうか? 一般的に難聴児の「音声言語」での初語は2歳前後と聴児とは1年くらいの差が生じます(補聴器や人工内耳をしても感音性難聴ゆえに音声は歪んだ音の塊としてしか入力されませんから、音声言語の音韻が認識されるまでにはそれなりに学習の時間が必要です。例えば「イヌ・いす・行く」の区別は単に単語だけきいても、いくら音量をあげても明確には区別できません)。
しかし、手話は、その子が「見えてさえ」いれば、手の形や動き(=手話の音韻)の弁別は100%可能ですから言語として認識され発達していきます(2017年保護者対象の調査と保護者育児記録からきこえる子の音声言語の発達過程と難聴児の手話の獲得過程は基本的には同じというがわかっています)。
〇「モノには名前がある」ことがわかるようになるまでに必要なこと



①まねっこ遊び(同時模倣)をする→【事例I】
②写真や絵カードを使う→【事例J】
③ごっこあそび・再現あそび→【事例K】
④色や形の名称→【事例L,M】
⑤同じ・違うなどのマッチングや分類→【事例N,O】

⑦絵本の読み聞かせ【事例R】
⑧描画
など、いろいろなものを他のいろいろなものに見立ててあそぶという象徴機能を高める活動をたくさんするとよいでしょう。



〇「語彙の爆発」へ
このような経験の積み重ねの中で、子どもはやがて自分で、ことばは特定の場面・状況と切り離して使えるとか、似たモノの集まりにつけられた記号がことばなのだといったことを発見していきます。そしてこの段階に達すると、今度は発見した規則性や仕組みを使って新しいことばの意味を推論し急激に言葉の数を増



〇誕生から生後半年頃まで(0歳前半の頃)
新生児聴覚スクリーニング(以下、新スク)が普及し、生後半年頃には相談機関を訪れる保護者が増えてきました。「せっかく早く発見できたのだから、早く教育を開始してほしい」というのが親の願いでもあるのですが、この時期は聴覚器官の発達もまだまだ未熟で、誕生時から生後半年くらいまでは、視覚・触覚などあらゆる感覚を含めて赤ちゃんは、自分の感覚器官をフル回転させて人を含めた環境と関わっていく時期(感覚運動期)ですので、早く補聴器を装用すれば早く聴覚が発達してきこえる子に追いつくということではありません。
〇聴覚・発声機能の発達
きこえる赤ちゃんは、すでに出生前よりお母さんのおなかの中で母語のリズムやイントネーションのパターンをききわけ、記憶していくと言われます。そして、誕生直後の0か月ですでに母語と他言語を聞き分けると言われています。通常、誕生後の聴覚・音声の発達過程は、以下のような過程を経ていきます。
・1か月頃・・・クーイング「アー」「クー」という声を出す。
・2か月頃・・・過渡期の喃語「アーアー」が出る。(子音の要素はまだない)
・4か月頃・・・母音【あ、い、う、え、お】の音素カテゴリーが形成される。
・6か月頃・・・子音【k、s、t、n、h、m、y】の音素カテゴリーが形成される。
このころ、日本語を母語とする赤ちゃんは「l」と「r」の区別ができなくなる(日本語の「ラリルレロ」ではこの「l」と「r」の子音の区別はしないので、日本語を母語とする赤ちゃんはこの区別ができなくなっていきます)。
・8カ月頃・・・規準喃語(バババ、パパパなど子音が含まれた喃語)が出る。この喃語がやがて音声日本語のことばの発語(初語)につながる。
〇きこえない子の聴覚・音声機能の発達
きこえない子の場合は、きこえる子と同様に過渡期の喃語までは出ますが、子音の音素カテゴリーは形成されないと言われています。きこえない赤ちゃんの場合は、「アーアー、
ウーウー」と言っていた「過渡期の喃語」はきこえる赤ちゃんと同じに出るのですが、生後7~8カ月頃の子音を伴った「規準喃語」には発展せず、その代わり手をひらひらさせたりする「手指喃語」に発展すると言われています。(武居渡1997)
ただ、この言い方は正確ではありません。生後、5、6カ月より補聴器を装用したきこえない赤ちゃんのうち、比較的聴力の軽い赤ちゃん(ほぼ聴力90dB以下)は音声の喃語も観察されること
があるからです(木島2017)。木島が保護者21名から聞き取った調査では、聴力90dB以下の赤ちゃんには音声の喃語が出ていたと報告するお母さんがみられました。ただ、手話も併用しているので、この音声喃語は音声初語につながるよりも前に、どの赤ちゃんも聴力にかかわらず、手話の初語のほうが先に出現していました。音声言語より手話のほうが早く獲得されることは、きこえない子には一般的に観察される事実ですし、きこえる赤ちゃんでも音声言語の初語が出る前にベビーサインを使って会話するとよいと言われることからも理解できます。また、手話の初語が出る時期は、ほぼ1歳前後で、きこえる子の音声言語初語の出現時期とだいたい同じでした。
〇初語獲得前(前言語期・0歳後半期)にみられる発達は?
では、初語つまり言語が獲得されるためには、どのような発達の高まりや伸びが必要なのでしょうか? ここでは、その発達的前提について考えてみたいと思います。
〇言語獲得のための二つの大切な発達
★認知発達的基盤(象徴機能)
生後、5か月くらいになると、記憶する力が発達してきて、自分が経験したことを覚えているようになります。さらに8~9か月頃になると、時間・場所・人などを含めて過去の出来事をちゃんと記憶していて(エピソード記憶)、知らない人や初めての場所では不安になったりします。いわゆる「人見知り・モノ見知り」です。ことばの発達にとって大事な記憶とかイメージがもてるなどの認知的な基盤が整ってきます。これを別のことばでいえば「象徴機能の発達」といいます。この頃「写真カード」などがコミュニケーションの道具として使えるようになってきます。
ことばはものごとの意味を、なんらかの記号であらわしたものです。例えば日本語での「し・ん・か・ん・せ・ん」という6つの音のつながりは、新幹線の実物とは本来なんの関係もありませんが、実物の電車を表すという約束ごとです。しかし、手話の「新幹線」は新幹線の先頭部分を象徴的に表したシンボル性(=写像性)をある程度もっています。そういう点でも手話はきこえない子にとっては獲得しやすい言語だといえるかもしれません。「食べる」「飲む」「歩く」などはそうです。ただ、「ありがとう」「ごめんなさい」など写像性のあまりない手話ももちろんあります。
また、誕生以来続いてきてお母さんとの心地よい関係もますます強固になっていくと、大好きなお母さんがすることに関心を赤ちゃんも関心を示すようになり、お母さんが指さしたものの見るとか、子どもが何かを指さしてお母さんに知らせるといったいわゆる「共同注意」とか「三項関係」といわれる関係が築かれていきます。言語は人と人が何かを共有し伝え合うためのものなので、この共有関係が成立しているかどうかは、ことばの出現にとっては非常に大切なことです。
木島が2017年にやった保護者アンケート調査でも、手話の初語がみられた21名全員に、初語出現(平均11.4カ月)の前に「共同注意」が観察されています。
また、音声言語の初語は、90dB以下の子の62%にみられ、その平均月齢は13.4カ月で、手話初語の出現からやや遅れる傾向がみられました。なお90dB以上の子では、音声初語の出現は38%の子に観察されました。

①感覚運動機能の発達・・・周囲のものへの興味や関心、またモノを扱う操作性が育っているかをみます。
②社会的相互関係の発達・・・日常生活場面での人との関わりややりとりを楽しめる力が育っているかをみ
ます。
③記憶・認知・象徴機能の発達・・・自分の経験を頭の中にイメージ(表象)して再現できる力が育っているかをみます。
④伝達・表出機能の発達・・・身振りや動作、あるいは写真カードなどを使って相手に自分の思いを使えようとしたり、手話・音声言語などを使って伝えようとする力の育ちをみます。
このような観点からみることで、今まだ、ことばが出ていない子どもであっても、どのような段階まで成長しているのかがわかります。