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WISC

聾学校小学部の高学年のWISC知能検査をやっていて、この子たちの幼稚部年長の頃のWISCはどうだったかなあと比べてみると、非言語性の「知覚推理」(非言語的な情報を基に推論する力や新しい情報に基づく課題処理能力を測定)や「処理速度」(単純な視覚情報を素早く正確に順序良く処理したり識別する能力を測定)、「ワーキングメモリー」(聴覚もしくは視覚情報を一時的に記憶にとどめ、その情報を操作する能力を測定)といったところはそれほど大きな違いはありませんが、「言語理解」(言葉の概念をとらえ、言葉を使って推論する力を測定)では伸びている子どもが多いことに気づかされます。言語理解は経験によって左右されるといわれる尺度ですから特段驚くこともないのですが、どこが伸びているのかというと、とりわけ大きいのは「単語」(提示された語の意味や概念を説明できる力を測定)です。この尺度はどの子も年長の時は最も苦手な尺度の一つだったのですが(この項の下の記事をご覧ください。TOP>発達と診断の評価>WISC>豊かな語彙と・・・)、こうしてみると、年長の時にWISCをやって、そこから出てきた課題を保護者に返し、意識して取り組んでもらったことがよかったのかなと思います。では、その頃どんなことに取り組んでもらったのか、いくつか紹介してみたいと思います。

知らないことばを使おう.jpg
 一つは語彙の拡充です。日常生活で使う言葉は限られています。ですから意識的に子どもが知らない言葉を使うことです。例えば、コップにもいろいろな種類があります。「コップ」だけでなく、グラス、湯呑、ジョッキ、カップ、ワイングラス、コップにもいろいろあることを教えたいものです。

 二つ目は拡充模倣。日常生活は単語だけのやりとりでも成り立ちます。「水!」「ごはん!」だけではなく、きちんとした文で話すことが子どもの構文力を育てます。単語だけで話す子どもはま

二語文を引き出そう.jpgのサムネール画像ずは二語文で話すことから始め、だんだん長く話せるように、また、助詞を正しく入れて話せるようにしてしましょう。

見たものを説明しよう.jpg
 三つ目は、子どもが目を向けているものの様子をしく話すことです。もちろん一方的にではなく子どもとやりとりしながら。ものごとを観察したり描写する力が育ちます。

絵本をたくさん読もう.jpgのサムネール画像四つ目は絵本をたくさん読むこと。絵本にはたくさんのしらないことばが出てきます。でも、そこで出てきたことばは初めてのことばも多いです。頭の中で知ることだけでなく、再現あそびをしたり、そのことばを生活の中で実際に使ってみることです。ことばの意味や概念や使い方を学ぶことができます。再現あそびでは登場人物になりきって演じることでいろいろな立場での気持ちなども知ることができます。

 五つ目は、日常生活の中でのいつもやっていることなどを「なぜ、やるの?」とか「どうすればいい?」とあえて質問してみます。ものごとをしっかりと深くみて、論理的に話す力が育ちます。

考える子どもに育てよう.jpg 

 六つ目、七つ目は、ことばで説明する習慣をつけましょう。出来事をちゃんと説明できるようにしましょう。こうした言語経験の積み重ねを家庭で意識して取り組んでもらったことが、5,6年後の今、小学部高学年のWSCの「言語理解」の伸びにつながったのだろうと思います。

出来事を説明できるようにしよう.pptx.jpgことばで説明する習慣をつけよう.jpg

WISC(ウィスク)第4版』という知能検査があります。この検査は、5歳以上の子どもに適用できる検査で、検査の中身が大きく2つ(「言語による反応が必要な検査と必要でない検査」に分かれていて、さらにそれらの中には7~8の「下位検査」が配置されています(下図参照)。 WISCⅣの構成(動作性).jpg WISCⅣの構成(言語性).jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この検査は、上図からわかるように非言語的な推論・思考能力(知覚推理)、記憶に関する能力(ワーキングメモリー)、視覚的な課題を処理する能力(処理速度)、言語的な推論・思考能力などをみる検査ですが、ここでは、聴覚障害児が苦手と言われる「言語理解」を取り上げ、そこからどんな力の育ちがわかるのかということと、その力を伸ばすためにどのような言語活動が大切なのかということについて書きたいと思います。

 「言語理解」の中には「単語」「類似」「理解」「知識」「語の推理(なぞなぞ)」という5つの下位検査があります(最後の2つは補助検査)。これら5つのうち「語の推理」を除く4つの下位検査は『WISC第3版』(少し古い版)にもあります。

 

〇なぜ、年長児にWISCをするか?

さて、ある聾学校(P校)では、幼稚部の年長児(単一障害幼児のみ。重複児はK式発達検査実 言語発達段階.jpg施)全員に平成21~24年度までは『第3版』を使用していましたが、平成25年度以降は『第4版』を使用しています。年長児にこの『WISC』という検査をやるのは、「言語理解」においては、これらの5つの下位検査をやることで、幼児期後半期の言語発達の特徴である、手話をも含めた「言語を使った思考の力」の伸びをみることができるからです(右図参照)。

さらに具体的に言うと、年長の夏休み前にこの検査をやり、「ことばを使った思考力」の面でのその子の課題を把握し、就学までの残り半年の間に課題克服の取り組みを集中してやることで、教科を学ぶために必要な「ことば(とくに日本語)を使ってことばで考え、ことばをことばで説明できる力」をつけることが期待できるからです。

このような観点から、数年前よりP校ではJCOSS(ジェイコス)という日本語語彙・文法力をみる検査(年少より実施)と合わせて子どものことばの力を測定し、個々の子どもに還元していっています。

WISC・VIQの伸び.jpgまた、それと同時に、幼稚部全体としても、きこえない子の弱点を把握し、幼稚部での日々の取り組みの中に活かしてきています。そして、その結果として、WISC第3版を使っていた時よりも、今のほうが言語的思考力という点で子どもたちは全体的に伸びてきているという結果が出ています(右図)。グラフではWISC第3版を使っていた頃の年長児33名(4年間合計)と第4版を使うようになった最近の年長児34名(4年間合計)との比較で、「類似」の伸びが最も大きく、次に「理解」の伸びが大きいということがわかります(1%水準で有意差あり)。因みに評価点10はIQでいうと100になります。評価点で1の差はIQで5~7位の差になります。

 

〇「類似」がなぜ、伸びたか?

これらの下位検査と「知識」は最近4年間の平均はいずれも評価点9以上なので、ほぼ聴児の平均の範囲で、「類似」に関しては聴児平均よりも高いということがわかります。これは、「ことばのネットワークづくり」や「ことば絵じてんづくり」の取り組み、さらに学校での各学級における概念カテゴリーを意識した取り組み(下図参照)が功を奏したものと思います。つまり、意図的な取り組みによって子どもは伸びるということです。 ことば絵じてんの取り組み.jpg カテゴリーを意識した取り組み.jpg

 

*「ことばのネットワークづくり」は、4-1のカテゴリー参照

 

 

 

 

 

 

〇「単語」を伸ばすために

ただ、課題もあります。これら下位検査の中で、「単語」の伸びが今ひとつだということです。「単語」の問題とは、例えば「コップとはどんなものですか?」という質問にことば ワークで整理.jpgで説明できるということです(平均評価点は8.4ですからIQ換算で90をやや下回る位)。例えば「水とかジュースとか牛乳を飲むときに使う」とか「水を飲むときに使うもの(入れ物)」といったそのモノを定義づけるような説明ができればよいわけです。しかし、きこえない子にとって、これはけっこう難しい課題です。コップはたいていの子が知っていますからコップを頭の中に浮かべることはできます。しかし、どうことば(日本語)で説明すればよいかわからない。「水」とか「牛乳」とか「飲む」とか関連する単語は出てきてもなかなか文に出来ないのです。日常会話の中では、「コップって何?」という会話を家庭ですることはまずないでしょう。検査の場であえてことばで尋ねるということは、日常場面での具体的な会話から離 説明する力を伸ばす.jpgれて、ことばだけでのやりとりが具体物(コップ)が目の前になくてもできるということです。しかも辞書的な定義を求められている。しかし、この力が小学校以降の教科学習に必要な力なのです(「三角形とは・・、清掃工場の仕事は・・等々」)。では、この力をつけるにはどうすればよいのでしょうか? 「なぞなぞ」などの言葉遊びをたくさんするのも一つです。例えばなぞなぞ。「水やジュースを飲むときに使うものな~んだ?」→答「コップ」。質問文がちゃんとコップの定義的説明になっていますね。また、上図のような「連想ゲーム」も楽しいです。こうしたことば遊びのやり方は、『どうすればことばが育つか?』(全国早期支援研究協議会編)にもたくさん紹介されていますし、このサイトからも購入可能です。

 

〇拡充模倣でことばで説明する力を伸ばす

それから日常会話の中での伝統的な技法である「拡充模倣」をすることも大事です。例えば次のような会話のやり方です。

子「コップ」

親「コップをとってちょうだいって言うんだよね」

子「コップをとってちょうだい」

親「どうしてコップがほしかったの?」

子「水が飲みたいから」

親「じゃあ、水が飲みたいからコップをとってちょうだい、だね」

子「水が飲みたいからコップをとってちょうだい」

単語→2語文→3語文→・・・と、子どもの構文力に合わせて文が長く言えるようにする練習です。手話を使うことが多い昨今、こうした技法を改めて見直してみる必要があるでしょう。日本語は英語と違って単語だけで成立する言語的特徴もそれに輪をかけているかなとも思います。忙しい日々の会話の中でなかなかやる余裕がないかもしれませんが、単語だけで会話する習慣がつくとなかなか構文力・作文力・表現力が伸びないのも事実です。ちょっと意識してがんばって取り組みたいものですね。

 

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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