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J.coss

Jcoss(ジェイコス・日本語理解検査)の中に「比較表現」という文法項目があります。例えば「犬は ねこより 小さい」「えんぴつは ものさしより ながい」といった同様なパターンの問題文が4つあり、その4つとも正解のとき、 教科書の中での比較表現の指導.jpg「比較問題」は「通過」という評価をします。子どもが「通過」する割合(通過率)を聴児と聴覚障害児で比べると、聴児の場合は低学年(1・2年生)で70%の子が通過しますが、聴覚障害児では10%程度に過ぎません。このような何かと何かを比べる、何かと何かの関係を考えるといった思考は、聴覚障害児が最も苦手とするところで、「受動文」(する、される)とか「授受文」(あげる・もらう・くれる)なども苦手なもののひとつです。とは言ってもやはり教科書の中には、このような文は出てきます。(右図「スイミー」光村図書より) 

 

 子どもの回答パターンで非常に多いのは、例えば「犬は 猫より 小さい」であれば、 江副文法におる比較文の指導.jpg「小さい」に近いほうの単語すなわち「猫」が「小さい」と結びつけて理解するパターンです。このような子どもは、まだ 助詞がわからない子たちなので、「犬 猫 小さい」と単語だけで頭の中にイメージを描き、「猫 小さい」と理解してしまうのです。

 では、この比較表現をどう指導すればよいでしょうか?

 

「より」は、国文法では格助詞に分類され、一つは「正門より入る」といった起点「~から」と同じ意味があります。もう一つは、比較するときに使います。

 右図にある例文「犬は猫より大きい」は、述部が形容詞で終わる「形容詞文」です。『日本語チャレンジ!』(51頁)にもあるように、文の最後が形容詞で終わる「形容詞文」には、基本の文型は2つあり、「Bが大きい」「太郎が正しい」「水が冷たい」などのいわゆる「主語+述部(形容詞)」の第1文型と、もう一つは「太郎はパソコンに詳しい」「次郎はゲームに熱心だ」「花子は地理に疎い」など「~に」を必要とする「主語+~に+述部」の第3文型の二つです(「太郎は詳しい」だけでは何に詳しいのかがわからないので「詳しい」という形容詞には、「~に」にあたる情報がもう一つ必要です)。

 

さて例文「犬は 猫より 小さい」の基本文型は、「犬は 小さい」でほかに情報を必要とせずこれだけで意味的に成り立つので第1文型(主語+形容詞)です(「犬は ~に 小さい」とはなりません)。つまり、この例文で最も言いたいことは「犬は小さい」ということであり、「猫」は、あくまで「犬は小さい」ということを言いたいがために、その比較の対象として持ち出された文を詳しくする「情報」と考えればよいわけです。

そこで、この比較表現を扱う前に、まずこの形容詞文をしっかりと練習することです。

「お湯は 熱い」「水は 冷たい」「りんごは 赤い」「馬は 速い」「熊は 強い」等々。そのうえで、「犬は 小さい」に「~より」という情報を加えます。

この基本がわかれば難しい構文ではありません。

 

因みに江副文法では、「より」を『時数詞構成語』とよんでいます。時数詞とは、期間や範囲をあらわす名詞で、「明日」「来年」「3時」「春」「夕方」などがあり、これらは「明日、行きます」「夕方、雨が降った」のように助詞を省略した使い方が可能です。

時数詞構成語.jpg『時数詞構成語』とは、時数詞と同様な性質をもったことばで「~より」(3時より開始)、「~だけ」(一つだけちょうだい)、「~から」「~まで」(朝から晩まで)、「~くらい」(3分くらいしたら開けて)、「~ずつ」(一つずつ配る)、「~ながら」(食べながら飲む)、「~ばかり」(5分ばかり行くと)、「~きり」(一つきりしかない)などがあり(ほかにもあるが省略)、これらの「時数詞構成語」は、「時数詞」と同様に期間・期限・数量・範囲などをあらわします。

また、「時数詞構成語」のカードの空欄に入る語は、名詞だけでなく、動詞も可能です。例えば「食べるより 飲む方が いい」など。またついでですが、例文「およぐの」は、『名詞構成語』で、動詞に「の」がつくと一つの名詞として扱うことができます。

 

この検査は、日本語版は上記の検査名ですが、元は英国で開発された検査の日本語版で、Japanese  test  for  comprehension  of  syntax  and  semantics  これを略してJcoss(ジェイコス)と言っています。

 

この検査では、日本語の語彙と文法の力を調べることができますが、日本語版を作成するにあたって、3歳の幼児から小学生まで390名の幼児・児童を使って標準化されており、このテストも3歳から小学校高学年(ほぼ4年生)までの日本語語彙・文法の理解力を調べることができます。

ということは、その範囲の日本語理解力を測定できるということですから、それ以下やそれ以上の日本語語彙・文法力は調べることができないということにもなります。

しかし、3歳から小学校高学年の語彙・文法力の範囲であれば、聴覚障害の幼児・児童はもちろん、その範囲にある中学・高校生、成人でも調べることができます(聴覚障害だけではなく、発達障害児・者、失語症成人などについても適用されています)。

 

さて、聴覚障害児の日本語語彙・文法力はこれまでどのように測定されてきたのでしょうか? 語彙については「絵画語彙検査」「抽象語理解力検査」、文法力に関しては「失語症構文検査」(1990年代~)など標準化された検査がありますしそれなりの効用はあります。

ただ、1970年代からあった検査は「読書力検査」(Reading Test)だけで、語彙力、文法力、読解力なども含めてある程度総合的に、また集団で実施できる検査として聾学校では「読書力検査」が用いられてきており、その検査(低・中・高学年用)の中に含まれている文法事項によって文法力を調べてきました。しかしこの検査は、小学校以上の各学年で学ぶ文法事項から作成されており、幼児から小学生まで一貫した同じ検査項目を用いて測る検査ではありません。そうした点で、幼児から小学校高学年まで共通した項目によって、短時間に効率よく測定できる検査(小学生では集団で実施可能)として、最近はよく聾学校でもJCOSSが用いられるようになりました。 Jcoss説明.jpg

そして、毎年1回同じ時期に実施することによって、その子どもの日本語語彙・文法力とその伸び具合が把握できます。また、個々の検査結果を分析し、その結果を保護者に返すことで、日本語語彙・文法の習得の課題が明確になり、保護者にとっても取り組みの励みになることが多いです。

 

〇Jcoss検査の構成と評価法 

そのJCOSSの検査の内容ですが、まず、語彙・文法項目が「名詞」「形容詞」「動詞」「2語結合文」・・・と全部で20の項目にわかれていて、それぞれの項目には4つの問題が配置されています。各問題は、一つの問題文があり、その問題文を読んで、それに当てはまる絵を4 Jcoss説明2.jpgつの絵の中から選ぶ4択方式になっています。そして、1つの項目に配置されている4つの問題が4つとも全部正解のとき「通過」とみなします。3つだけ正解では「通過」となりません。ここがこの検査の最大の特徴で、4択によって「たまたま当たる」確率から生じる誤差をできるだけ排除する方法がとられているわけです。ですから、一定の信頼性がもてる検査だと思います。実際にこの検査を長年やってデータを蓄積していくと、幼稚部年長修了あたりのJcossの結果から、その子どもの小学生以降の日本語語彙・文法力の伸びや、WISC言語性の結果とも合わせて国語学力検査の結果の予測がほぼできるようになります。

その結果から言えることですが、年長修了段階で20項目中7項目以上通過(「第3水準」以上に到達)していれば、小学生になったどこかの学年の時に、80~90%の確率でJcossで18項目以上通過(「第6水準」)できます。このことから、日本語の語彙力・文法力という面では、幼稚部修了時に7項目以上通過を幼稚部修了段階での一応の到達目標として、また、18項目以上通過を小学部段階での到達目標として考えることができると思います。そしてそれは、いわゆる聴覚のみの定型発達の子どもであれば、決して無理な目標ではありません(聴児ではほぼ4年生前半には半数以上がこの段階に達します)。但し、このJ.cossの通過項目数はあくまでひとつの目安です。

 

〇Jcoss検査のメリット~その子の苦手なところが発見できる

さて、Jcossのもう一つのよさは、それぞれの項目についてのでき方・間違い方を分析することで、その子ども特有の「文の理解の仕方」が発見できたり、何が苦手なのかを発見し、その対策がとれるところにあります。Jcossの中には、聴覚障害の子どもたちが共通して苦手な項目がいくつかあります。例えば、「受動文」「位置詞」「比較表現」「複文」などです。「太郎が花子を叩いた」「花子が太郎に叩かれた」という能動文・受動文、「机の上にある」のか「上の机にある」のかといった位置表現、「ABよりはやい」はどっちがはやいのかといった比較表現。こうしたきこえない子の苦手とする文法項目を取り出して指導していくことで、その苦手さを克服していくことが可能です。

ただ、Jcossには「使役文」「授受文」「敬語」「自動詞・他動詞」といった聴覚障害児が苦手とする文法項目はありませんから、それらは別のテストを作成して調べる必要があります。このような「弱点」はありますが、熟練を要する検査でもなく、誰でも短時間に、大さっぱではあるけれど効率的に聴覚障害幼児・児童の語彙力・文法力や苦手なところを把握できるという点で、使い勝手のよい検査だと思います。