全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

日本語文法指導で教科書を読める子に!

  教科書を読めない子が増えている!

 先頃、国立情報学研究所の新井敬子教授チームが衝撃的なレポートを公表しました。 情報学研究所.jpg

それは、日本の中・高生たちが、教科書の内容がきちんと理解できていない、というものです。新井教授らは「RST(リーディングスキルテスト)」を開発して4万人の子どもたちに実施したところ、以下のような点で課題の残る生徒たちが沢山いたというのです。

①主語・述語や修飾・被修飾関係が読み取れない、

②「それ、これ」などの指示代名詞が読みとれない、③2つの文が同じ意味かどうか判断できない、

④持っている体験や常識を使って文の意味を推論できない、・・(以下省略、興味ある方は国立情報学研究所のHPから検索してください)

 

このレポートを読んでまず思ったことは、「きこえない子の現象と同じことが起こっているのではないか」ということです。上に述べられている①②③は、まさに日本語が文法的に正しく読めないということです。また、④は幼少期からの体験とその体験の言語化と知識化の問題ですがこれについては別の機会に取り上げます。

 

きこえない子は、教科書を読めているか?

さて、きこえない子が小学校に入学する時、どの程度の語彙力・文法力をもって入学してくるでしょうか? これに関しては、Jcossを開発した中川佳子氏の資料からみてみます。

Jcossは、その子が20の文法事項のうちいくつ通過しているかによってみますが、それによると、聴児の平均は小1年で10.9項目。つまり20の文法事項のうち半分ちょっとを1年生で通過しています。このことから、だいたい10項目より少し少ない程度の通過項目数の文法力が小1の教科書の学習の前提にあることも理解できます。 Jcoss中川データB校20.jpg

そして、学年が進行していくにしたがって少しずつ通過項目が増え、だいたい4年生で17項目に達した後、その後の学年も結果は変わらなくなります。言い換えると、17項目あたりが聴児高学年児童の文法力の平均的レベルと言えます。

では、聾学校の児童はどうでしょうか? 中川の資料によると(図の赤線)聾学校の小1で平均5.3項目通過、聴児の半分です。Jcossのこのレベルは、まだ文法を必要としない読みのレベルです。そして、小2で平均7.8項目、ようやく文法段階に達し、その後の伸びも緩やかで小6年で13.7項目で終わっています。聴児の小2に届いていません。もちろんこの文法力では、教科書は自分の力で読めません。

 

文法指導で教科書を読める子を育てる

では、もう聞こえない子の日本語力は伸ばすことができないのでしょうか? たぶん、これまでのように教科書を詳しく解説するだけでは自分で読めるようにはなりません。そこで10年前に注目したのが日本語文法指導です。帰国子女や外国人のための日本語教育で使われている方法を聾教育へ応用したのです。

その結果をJcossで示してみます。グラフの水色直線が平成20年度のB聾学校46名のJcossの平均通過項目 数です。中川氏のデータと大差ありません。これら児童のうちの小2~4年生の学年の児童に卒業までの2~4年間、文法指導をしたのです。 BH20の変化.jpg その結果、毎年1回行うJcossの通過項目数も徐々に伸び、小6年では、17.2項目まで通過することができました。つまり平均では聴児とほぼ同じになったわけです。もちろん、この中にはいろいろな子たちがいて、全員というわけではないのですが、26人中19人(73%)は17項目以上に達して小学部を卒業していきました。

 

その後の進路はどうなった?

さて、それから10年近く経ち、当時小3、小4年だった子たちは全員、聾学校を経てもう社会人や大学生となり、小2だった子たちも今、高3で受験シーズンの真っ最中です。

では、この子たち26名はどのような進路をたどったでしょうか? 調べてみたら、26人中16(62%)が大学に合格(予定も含む)したり海外に留学していました。一般の聴児よりも大学進学率自体は高いくらいなのです。これはどういうことでしょうか? 高卒後の進路.jpg 

それは、日本語文法指導によって、教科書を自分で読んで、内容が自分で理解できる力をつけたことが大きいと思います。自分で教科書が読む力がつけば、当然それは学力向上に繋がるでしょう。その結果なのだと思います。もし、この子たちに日本語文法指導をしなかったらはたしてどうだったでしょう? おそらく一般の聾学校の子どもたちと同じような経過をたどったのではないかと思います。そして、そのまま社会に出ていったと思います。読み書きの力が十分につかないままに。このような聾教育はもう終わりにしないといけない。 

そのためには、小学部低学年段階で、まず①動詞・形容詞の活用の指導と②助詞の指導をしっかりとやります。動詞と助詞がわかることが、文を読む上で基本的に大事なことです。助詞がわかれば、主語と目的語、述語の関係がわかるようになります。動詞がわかれば、文で言いたいことがどういうことなのか、動詞の活用に含まれている微妙なニュアンスを含めてわかるようになります。そして、修飾・被修飾関係の指導、受動文や使役文、比較表現や位置関係表現などの構文指導をやっていきます。このような指導を自立活動や国語の授業の中でやります。

また、同時に日記・作文指導を並行して行なうと、学んだことを文を作ることで行かせますし、文法的なことの定着だけでなく、生活や自分自身を見つめる目を育てることができます。

保護者の方々は「教科書を・・、学年並みに」と言われますが、急がば回れ、基本的な日本語を読んだり書いたりする力をまずつけることが、実は教科書を自分で読み、理解する力を育てるのです。基礎基本を抜きにして教科書だけを進めても決して本当の力にはなりません。そのようなかたちだけの教育・指導から抜け出すことが、いま、聾学校教師にも求められているのと思います。上に述べた子どもたちの検査結果や進路のデータからもそう言えるのではないでしょうか。