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外国人子弟の日本語教育に文法指導は効果ある?

〇はじめに 

 日本には今、沢山の外国人が住んでいます。そして日本の学校に通っている外国人の子弟の数は、小学生だけでも9万人と言われています(H2年度文科省調査)。この数は小学校や聾学校で学んでいる難聴児のおよそ10倍。多くの外国人の子どもたちが学んでいますが、日本語の力というと本当にまちまちです。

 一般的に、生活言語を母国語で身につけ、その後小学校5,6年で日本に来た子どもたちは、最初は日本語に戸惑っても、母国語で抽象的思考の力をつけているので、教科学習にも十分ついていける子どもが多いと言われていますが、幼児期に日本に来て日本の保育園等に入り、母国語でも日本語でもしっかりと生活言語を身につけられなかった子どもは、土台となる言語の力も思考力も弱いために、なかなか抽象的思考を必要とする学習言語レベルの教科学習にのっていけない子どもが多いと言われています。以下に紹介するAさんもまさにそのような子どもの一人です。


〇Aさん(5年生)について

 Aさんは幼児期に来日。なるべく早く日本語を身につけさせたいと考え、家庭でも母国語ではなく日本語を使うようにしていましたが、両親は、日本語で簡単な会話は出来ても母国語なみに自由に使えるほどの言語のレベルではなかったため、日本語を使って深くやりとりすることが十分にできないままに育って学校に入りました。つまり母国語も日本語も不十分ないわゆる"double limited"(=セミリンガル)の状態で、そのまま小学校に入り5年生になったわけです。ですから、5年生の教科書を自分で読む力はなく、5年生の9月になってようやく日本語教育の担当の先生(T先生)に、個別に抜き出して指導をしてもらうことになりました。「助詞が全く身に付いていないので、助詞の指導をしてほしい」という学級担任からの要望です。 T先生はたまたま筆者の教材を購入されていた方で、T先生は個人的に筆者(木島)に相談してこられ、それで日本語指導とくに助詞の指導についてお手伝いをすることになりました。


*アセスメント

 子どもに日本語の指導をするうえで、その子どもが日本語に関してどのくらいの力をもっているかを知ることがまず重要です。

★助詞テスト

そこで日本語指導担当のT先生には、筆者が作成した『助詞テスト』(HP・TOP>発達の診断と評価>助詞テスト参照)やってもらいました。得点は30点以下。助詞は全く理解できていないレベルです。つまり、Aさんは、自分が知っている単語と単語からどんなことを言っているのかなあと想像して文を理解しているレベル。しかし、「太郎 椅子 座る」は単語だけで想像できても、「太郎 花子 叩く」は、これらの単語だけわかってもどっちがどっちを叩いたのかわかりません。日本語は助詞が理解できていないと単語と単語の関係がわかりません。そこで、ひとつひとつ助詞をとりあげて、その意味と使い方を教えることが必要と思われました。

 そこで、週1時間という授業時間の中で、要望として出されている「助詞」を中心に指導する計画を立ててもらいました。以下がその順番です。

 *Aさんの助詞の指導の順番(当面)

 ①助詞「が」の指導

 ②助詞「が、を」の指導

 ③助詞「で」→「に」→「を」の指導

 ④助詞「に、で、を」(場所)の指導

 ★Jcoss(ジェイコス)  (HP・TOP>発達の診断と評価>Jcoss)

 

Jcossについて①.pptx.jpg

二つ目のテストとしてJcoss(日本語理解テスト)をやってもらいました。結果は6項目通過(年中レベル)でした。日本語は、語彙の量も限られており文法の習得はまだまだこれからです。Jcossからは、①語彙の不足(とくに動詞)、②動詞の活用の理解、③助詞「が、を」の理解、大きくいってこの3つが課題であることがわかりました。母語でも生活言語レベルを抜け出ていないようなので、日常生活の中で使える基礎的な日

Jcossについて②.pptx.jpg

本語を身につけることが当面の課題と思われました。

 


*T先生と筆者のやりとり

 ①助詞「が」の指導

 ②助詞「が」と「を」の指導

 (省略)上記の経過については以下を参照して下さい。

 *本HP・TO>論文・資料・教材>幼児の日本語指導教材と実践>助詞をどうやって教えてる?
http://nanchosien.com/papers/04-4/post_223.html

 

 ③助詞「で」の指導について

 〇月×日 授業記録より(日本語担当授業者T先生より

a.「が、を」の作文 10分

 教えていただいたように動作化をしてクイズを出しました。品詞カードとホワイトボード、マーカーペンを使って作文しました。「先生がお茶を飲む」「先生が筆箱を開ける」を正解すると、「ぼくも!」と言って自分の動作化クイズを出すために動作をしました。「Aくんが筆箱を投げる」の動作をしましたが、私がわざと「Aくんが筆箱を落とす」と書くと、「落とすはこうだよ」と言って机の上から筆箱が落ちるようにして見せてくれました。

また、私か動作化した「先生がカーテンをしめる」や「先生が手を挙げる」など、漢字を正しく使って書けました。A君の問題は、「Aくんが教室を歩く」「Aくんが本を読む」などでした。「読む」のとき、「見るでしょう」とも話していました。

b.練習問題 10分

 先生が送ってくださった「~を~が」の文づくりのプリント(10級・練習10)と、「~が~を」「~を~が」の文づくりのプリント(10級・練習10)を行いました。どちらも全問正解でした!

C.来週の授業

助詞「で」の指導.jpg

助詞「で」の授業では、ホームページ(難聴児支援教材研究会HPYouTube)のテキストを使わせていただきたいと考えています。その中で、理由の「で」の教え方が難しいなと悩んでいます。もしアドバイスをいただけたらありがたいです。

 

〇月×日 返信メール(筆者⇒T先生

助詞「で」の「理由」についてですが、学校での子どもとの会話の中で、「なぜ、~
したの?」「どうして、~しなかったの?」など、質問する機会が実際にあると思います。

そのときに、①「〇〇だから~です」、②「〇〇なので、~です」、③「~、〇〇しました」など理由をつけて応えるときがあるので、そのときの答え方として、上記3つの使い方を、教えるとよいでしょう。

「風邪、休んだ」「「熱があった。だから病院に行った」 「お腹がいっぱいなので、食べなかった」など。また、紙に絵入りで、質問と答え方をまとめるとなおよいでしょう。 さらにそれに合わせた問題も作るとよいと思います。

 

〇月××日(授業者T先生⇒筆者)

 「で」の「場所」では、「~が~で~」を動作化しながら、お互いクイズにして練習をしました。「カービーが、星います」と間違えることがあったものの、他は正しく作文できました。例えば、「Aくんが、教室でねます」などです。プリントも全問正解でした。

 手段の「で」は、コンテンツを使って学習した後に、プリントで練習をしました。

→「星います」は、惜しいまちがいですね。「いい所に気づいたね」とほめましょう。場所(存在)に関わる「に」はまだこれからですが、わかるようになると思います。「いる」と「ある」は「~に」を使います。

 

〇月△日(授業者T先生⇒筆者)

助詞「で」の「場所」と「手段」、形容詞活用すごろくなどを行いました。先生に送っていただいたプリントは、大活躍でした!読んで作文をしたり、書き込んだりしました。品詞カードとホワイトボードを使って作文した後に行いましたら、品詞カードと色や形が同じなので、取り組みやすい様子でした。また、時々下のヒントを見て、安心して答えられたようです。おかげで、忘れた宿題も、すぐに終えました() 

次は、助詞「で」の「範囲」と「理由」を授業してみたいと思います。

 

〇月△△日(授業者T先生⇒筆者)

先週もアドバイスや資料をありがとうございました。おかげさまで、助詞「で」の授業を楽しくできました。練習プリントでも正解できるようになり、「で」の学習が終わりました。

 

〇ここまでのまとめ

 このように、外国人子弟への日本語指導として助詞を順番にとりあげ、視覚教材や動作化・ゲーム化などの工夫をしながら指導が可能です。日本語の読み書きに全く自信がもてなかったAさんも少しずつ自信をつけ、週1回の日本語の授業を待ち望むようになってきています。子どもの課題を的確にとらえ、その課題に対して、楽しい教材を工夫していくことで子どもも変わっていくことがわかります。難聴児向けに作られた視覚教材ですが外国人の日本語教育にも十分使えると感じています。

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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