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教科書を理解するために必要な手立て

  小学校6年生くらいになると、教科書に書かれている文が長くなり、文の構造も複雑になってきます。また、抽象語彙がいくつも出てきます。右の単元は、 イースター島にはなぜ森林がないのか.jpg東京書籍の6年生の国語「イースター島には、なぜ森林がないのか」に出てくる説明文ですが、文の読みの力だけでなく、社会科的な知識や理科的な知識もないと、内容を深く理解することができません。 以下、一部を引用してみます。(漢字使用、丸数字は筆者)

 

「①今から約千六百年前、ポリネシア人たちが、それまでだれも上陸したことのなかったイースター島に上陸した。②その時、島はヤシ類の森林におおわれていた。③いずれの大陸からも遠く離れたこの島には、哺乳動物は生息せず、空を自由に飛ぶことのできる鳥類が多くすみ着いていた。・・・」

 

〇幅広い常識や知識の必要性

1600年前?、ポリネシア人?、イースター島?、ヤシ類?、大陸?、哺乳動物?・・・歴 難解語句の指導2.jpg史、地理の知識がないと、いくら文章をテキストベースで正しく理解できても、その奥にある本当の意味はわかりません。読解には文法的な力だけでなく、常識的な知識や人間の心理など幅広い知識(スキーマ)が必要で、さまざまな情報や知識、他者との関わりを小さい時から広く経験し蓄えていく必要があります。そして、そこで大事なことは、日常的に、きこえない子に情報がどう届いているのかということで 難解語句の指導.jpgす。きこえない子は、音声だけではいくらも情報は入りません(あえてその子に話しかけないと)。きこえる子は、周りの会話やテレビの音声などからもそれなりに何かを「聞きかじ」って知らぬ間に覚えているといったことが沢山ありますが、きこえない子にはこれができません。会話も音声だけでは集団の中では限界があります。「話せているから手話は要らない」などという医師や親御さんもいますが、どれだけ多くの情報がその子の耳に届かず、知り得たはずの知識がぼろぼろとこぼれ落ちているかを想像できないのでしょう。

 

〇テキストベースで読める力~文法力

 二つ目の問題は、教科書の文を文法的に正しく読めることです。といっても、きこえない子どもの中には、語彙力が十分でなかったり、複雑な文の主述関係や係り受けの関係がわからない子たちもいます。それでも教科書を学習しなければならないとき、内容理解のためのなんらかの手立てを考える必要があります。

まず、立ちはだかるのは「難解語句」。初見で教科書の単元の文を読んだとき、子どもにわからなかった言葉です。この難解語句を取り出して「ことばノート」を子どもと一緒に作るという方法がありますが、右上の例は、そうした方法の一つです。

 

 また、複雑な文章を品詞分類して、文の構造を視覚化する方法もあります。文が長くなる 難解語句の指導3.jpgのサムネール画像のサムネール画像と、どこがどこに繋がっているのかさっぱりわからないということがあります。そこで、子どもと一緒に品詞分類をしながら、文の視覚的構造化をすることで、主語―述語の関係(文型)や名詞修飾関係がわかりやすくすることができます。とくに、複文を構成する長い名詞修飾句・節は、文意が読みとれないと、どこがどこに繋がっているのかよくわかりません。日本語には英語の関係代名詞のような文法マーカーがないからです。右の図は、上に上げた教科書の一文を品詞分類したものです。このように視覚化することで文の基本構造がわかります。基本文型だけを示すと、以下のようになります。この基本文型という骨格に、説明のための長い修飾語句がくっついて複雑になっているわけです。

 

①「ポリネシア人たちが イースター島に 上陸した。」(基本文型3)

②「島は、(ヤシ類の)森林に おおわれていた。」(基本文型3)

③「哺乳動物は 生息せず」(基本文型1)「鳥類が すみついていた」(基本文型1)

 

 基本文型がわかると、言いたいことがどういうことかという、文の概要もわかります。

 

 以上のような手立てをとることで、教科書は格段にわかりやすくなります。品詞カードを使った日本語文法指導のよさが理解できるのではないでしょうか?

因みに、基本文型の学習については「きこえない子のための日本語チャレンジ」(本会発行)に載っていますのでぜひ参考にしてください。

(*この記事で引用している写真の教材は、江副文法を活用した指導を行っている香川聾学校の教材。児童は授業が「わかる」ので、楽しんで授業を受けていたのが印象的だった)