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『ふきのとう』(国語小2上)にみられる動詞の巧みな使い方

ふきのとうと言えば私が真っ先に思い出すのは春の山菜の天ぷらとしてよく食べたことです。独特の香りと少し苦みがあるところがいいです。

ふきのとうPP①.jpgこのふきのとうを題材にした国語教材(『ふきのとう』,工藤直子作)が、小学校2年上の光村図書の教科書に載っていて、子どもたちは4月に学習するとになっています。本当は3月にやるのが「旬」なのですが、まあそれはやむを得ません。

この「ふきのとう」は、長い冬が終わり、待ちわびていた春を迎える喜びを、ふきのとう、竹の葉っぱ、雪、お日様、春風たちの会話をとおしてユーモラスに描いた作品で、リズム感もあり、とても素晴らしい作

ふきのとうPP2.jpg品です。全文を右のファイルにしてありますので、まずこの作品全体を味わってほしいと思います(作品についての解説を、作者の工藤直子さんが『日本児童文学』,2002に書いておられます。その一部をこの記事の最後に引用しておきます)。そして、読む時に、文法的な観点とくに動詞の活用という点からも作品の特徴に注意を向けていただければと思います。


〇動詞の過去形(タ形)と非過去形(ル形)の使い方

ふきのとうPP3.jpgさて、読んでみてお気づきになった方がいらっしゃるかもしれませんが、それぞれの段落(場面)の最初の文が過去形(タ形)になっており、そのあとに続く文は非過去形(ル形)になっていることです(日本語の時制は過去(「~ました・た」=タ形と、非過去形(現在・未来、「~ます・る」=ル形の二つ)。

第一場面  よが あけました。・・・

第二場面  どこかで、小さなこえが しまし

ふきのとうPP4.jpgた。・・・

第三場面  「ごめんね。と、雪が 言いました。・・・

第四場面  「すまない。」と、竹やぶが 言いました。・・・

第五場面  空の上で、お日さまが わらいました。・・・

ふきのとうPP5.jpg 

 これらの場面を読みながら頭の中に映像を浮かべると、撮影しているカメラが新しい場面ごとに切り替わるような印象を受けます。例えば、第一場面の「夜が明けました。」 朝日が差し込んでくる夜明けの竹やぶという導入場面でタ形が使われています。そして竹の葉同士がささやき合っている場面にカメラの焦点が向き、竹の葉同士の会話(情景描写)がル形で表現されています。

と、そこに突然、どこからか小さな声がして、カメラは今度はその声の主であるふきのとうの方に向きます。その場面の転換にタ形が使われています。そしてふきのとうの情景描写がル形で続きます。

次の第三場面は、雪が登場します。カメラはその雪のほうに視点を向け(タ形)、雪の情景描写(ル形)が続きます。このように、誰かが声を出すたびに、その声を探してカメラは新しい登場人物の方に視点を向け、その新しい登場人物の様子を描きますが、その場面の転換にタ形が使われ、それに続く情景描写でル形が使われるというのが特徴です。

このように、『ふきのとう』という作品は、①タ形動詞が場面の転換をあらわすという文法的性質と、②ル形動詞がその場面の中での情景を描写するのに適しているという、タ形とル形のもつ性質を巧みに使った作品ということができます。

 

〇変化のスピードアップを表現する巧みさ

 今、タ形動詞は場面転換を表し、ル形動詞は情景描写を表すと言いましたが、後半の第五場面と第六場面ではタ形動詞が2回使われています。つまり場面転換が速くなってきていることがわかります。場面転換が速くなるということはだんだんと場面が盛り上がってきたということです。そして、第七場面では、「竹やぶが、ゆれる ゆれる、おどる。雪が、とける とける、水になる。」と、動詞を繰り返すことでさらに勢いが増していることが強調されています。これは「竹やぶが、 ゆれる、おどる。雪が、とける、水になる。」と一度だけの場合と比べてみるとその違いがわかります。

 また、「ふきのとうが、ふんばる、せがのびる。ふかれて、ゆれて、とけて、ふんばって、ーーもっこり。」

前半の文は「ふんばる、せがのびる」ですから動作に切れ目があり、後半の文は動詞のテ形をつないでいくことで、一連のつながった動きが切れ目なく素早く変化していくことが伝わる文になっています。このあたりの動詞の活用の使い方も見事です。

 

〇場面の転換にタ形、情景描写にル形、動作の連続にテ形が使われているそのほかの作品

 

大きなかぶ.jpgこの『ふきのとう』のように、場面転換で「タ形」が使われ、情景描写に「ル形」が使われている作品を探してみると、小1国語の『おおきなかぶ』がそうであることがわかります。例えば第三場面と第四場面は以下のようになっています。

 

(第三場面) おじいさんは、おばあさんをよんできました。(タ形)

かぶをおじいさんがひっぱって、おじいさんをおばあさんがひっぱって、(テ形)

「うんとこしょ、どっこいしょ。」それでも、かぶはぬけません。(ル形)

(第四場面) おばあさんは、まごをよんできました。(タ形)

かぶをおじいさんがひっぱって、おじいさんをおばあさんがひっぱって、おばあさんをまごがひっぱって、(テ形)

「うんとこしょ、どっこいしょ。」やっぱり、かぶはぬけません。(ル形)

 

 

ワークて形.jpg場面転換でタ形を使い、情景描写でル形が使われています。また、テ形をつなぐことによって一連の動作が切れ目なくつながっていることがわかります。

このような作品を味わうには、低学年児童とくに文法的意味を自然習得の難しいきこえない子にとってははり動作化・劇化をすることで、その意味の違いを体感したり視覚化して指導することでしょう。また、動詞活用の違いを自立活動などの時間なども使って取り

ワーク過去・非過去.jpg出して指導することでしょう。そのための教材として『絵でわかる動詞の学習』などが使えると思います。

HPTOPページ>出版案内①斡旋図書>出版案内⑥日本語のワークを参照http://nanchosien.com/publish/cat58/


絵でわかる動詞の学習.jpg






【作者コメント】

「小学校二年生の教科書の最初に『ふきのとう』という話がのっている。かつて箱根の麓の山村にすんでいたころ、実際に見かけた小さなフキノトウのことを書いたものだ。当時私は、農家の空き地を借りて住んでいた。冬から春に移り変わろうかというある日、季節はずれのドカ雪が降った。かなり積もったが、春も間近なので消えるのも早い。しかし竹やぶの中は日陰なので、ところどころまだらに、雪が溶け残り、夜の冷気と日中に暖気で凍ったり、わずかに溶けたりを繰り返し、ザラメをまぶした煎餅のようになっていた。

  ある朝、家を出る用があって竹やぶの小道を通り過ぎた。通り過ぎながら、煎餅のようになった残雪のはしっこが持ち上がっているような気がしたので、なにげなくかがみ込んで雪の下をのぞきこんだ。(おや、こんなところにフキノトウが.........) 雪が、そりかえって持ち上がっているのは、この小さなフキノトウのせいではないのだが、(まるで外に出たくてヨイショ、ヨイショと雪を持ち上げているみたいな)と微笑ましかった。そんな記憶があったので、春の話を書こうとしたとき(そうだ、あのフキノトウをモデルにしよう)と思ったのだ。・・・(略)」(『日本児童文学』,2002


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