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国語教科書

『難解語句をどう指導するか?』を再度整理しなおしました。

 

〇手話を使って説明する方法

辞書をひいてそこに書かれていることが理解できるためには一定の思考力と日本語力が必要です。生徒たちはまだ抽象的な思考ができる段階に到達していない、つまり「9歳の壁」を超えることができていないので、自分で調べてもわからないわけです。

 では、どうすればよいのでしょうか? まず、日本語がわからなくても手話を日常的に使っている聾学校の生徒であれば、手話で説明すれば理解できることがかなりあります。

例えば、「配慮」ということばの意味の説明は、儀式のときに手話通訳や字幕等の情報保障があるときとないときのことを想定させ、そのうえで、「問題を解決するためにいろいろな方法をとったり、相手の人に心を配ること」などと手話で説明すれば理解できますし、「配慮」という手話は「思う+世話」で表しますから、その手話を使って説明できるでしょう。同様に「個性」は手話では「個人+性格」で表しますから、その手話を使って生徒一人ひとりの特徴的な性格を考えさせることから「個性」を理解させることができるように思います。

 

 このように日常生活の中での具体的な場面から手話を使ってさまざまな例を出して、語句の意味を説明することができます。これが手話というもう一つの言語をもっている子どもたちのメリットです。かつて聴覚口話法の時代、このような抽象語句も日本語を使って説明しなければならなかったため、生活言語レベルでの日本語もあやしい子どもたちに説明するのは本当に大変でした。これは英語の単語の意味がわからない子に英語で説明しなければならないジレンマと同じです。

私自身、手話を日常的に使っていた聾学校から口話法の聾学校に転勤した時、「これでは『理解』までに時間がかかりすぎる。勉強が遅れるのは当然だ」と、その時思ったのを覚えています。

 

〇ターゲットの語句について分析する方法

 もう一つは、その語句についていろいろな側面から分析して考えさせる方法です。

たとえば「新鮮」ということばに使われている漢字「新」「鮮」という漢字から、生徒が知っている語例えば「新しい」、「鮮やか」(=手話では、「はっきり」または「派手」)などから意味を予想させることができます。また、似たような言葉(類義語・同意語)を探したり、反対の意味の言葉(対義語・反意語)をさがしたりすることでターゲットとする語句の意味を想像することもできます。

 

 さらに、抽象語句を上位概念とする語句には、その下に下位概念として位置づけられるような具体的な例がいくつかあるはずで、それを探します。「新鮮」であれば、朝どり野菜、釣ったばかりの魚、新しく魅力的な服などです。また、「新鮮」の対義語である「陳腐」などの抽象語句にもその下に下位概念としての具体例があるはずです。こうした上位・下位概念からターゲットになっている語句の意味を考えさせ、同時に語彙を広げることも同時にできます。

 

 ついでに言うなら「新鮮」というのは一見名詞のようですが、実は「なにで名詞」(=形容動詞)です。

「なにで名詞」を学習した経験を思い出させることで、その使い方が理解できるでしょう「新鮮」の次には名詞が来るのがルールですから「新鮮野菜」と例文を作れます。「新鮮」には、「動詞」が次に来るのがルールですから、「新鮮感じる」と例文が作れます。「新鮮」には、形容詞やなにで名詞が来るのがルールですから「新鮮さわやかな空気」と例文が作れます。


〇必ず、例文づくり抽象語句の指導.jpg

 意味が理解できたら、上記のように例文を必ず作ります。例文を実際に作ることで、その語句の使い方(運用)を知ることができます。

 以上のことをまとめると右図のようになります。このような図式のノートを作って、そこに言葉を入れていく『ことばノート』を作ってみてはどうでしょうか? 

 

中学の先生から以下のような質問を受けましたので考えてみたいと思います。

 

授業中、国語の教科書に出てきた「新鮮」「個性的」「配慮」などの意味を生徒が分からなくて困った。辞書を引かせても辞書に書いてある意味が分からない。ただ写すだけならできるが、それに意味があるとも思えない。なにかよい方法はないだろうか? 

上のような名詞は事物の名称ではなく抽象名詞ですから、事物名詞と違って目に見ることができません。このような抽象名詞を辞書で調べても、その説明がたいてい抽象的なので調べてもわからないことが多いです。辞書を調べて書かれていることが理解できる認知・言語発達の段階の子どもは、いわゆる『9歳の壁』を超えており、それ以前の具体的な思考の段階の子どもには、具体的な使い方を示すことが必要です。例えば、以下のような例を手話や絵、動作などを使って示すことが必要になります。 

(例)「新鮮」・・・釣ったばかりの魚を刺身にして食べる場面をイメージして。              「この魚はとっても新鮮で、おいしいね。」  

「個性的」・・・昨日、美容院に行って髪形を変えてきた女性教師に対して。             「先生、その髪型、とっても個性的でいいですね。」

      「配慮」・・・以前、字幕のないアニメ映画を見た。全くわからなかった。             「字幕がないのは、聴覚障害者への配慮が足りないよね」


また、このような新しい語を学ぶときは、それに類することば(類義語)や反対語なども同時に調べることが、その語の意味や使い方などを知り、記憶しやすくすることに繋がります。(例)「新鮮」⇒類義語「フレッシュ」「とれたて」 

   「新」を使った語「新幹線」「新入生」などから意味を考える。

   「鮮」を使った語「鮮やか」などから、意味を考える。

   対義語「新」 ⇔「旧」「古」「故」を使った語を調べる。

難解語句の指導法.jpg       

そして、このようにして調べた語は、「ことばノート」を作って書いておくことです。

1ページに1語使うかもしれませんが、関連する情報を書き加えておくことが結果的に知識を増やし、新しい語を記憶しやすくことは確かです。手話がある語であれば手話の絵なども書いておくとよいと思います。

 

教科書が読めるためには、いろいろな力が必要とされます。語彙力は最も基本となることです。正しい語の意味・概念を知っており、その語が状況や文脈に応じて違和感なく使えることが必要です。そのためには、その語はどのような使い方をするのか、例文をいくつか生徒に作らせることがよいと思います。 

呼応(陳述)の副詞というのがあります。

ある副詞と呼応して、そのあとにくる動詞が話し手の態度や気持を表す決まった表現です。

例えば、「決して」とくるとあとの動詞は「~ない」となります。

 

  ヤマタノオロチ.jpg小2国語「ヤマタノオロチ」(学校図書)では、一つの段落の中に、続けて3つ出てきます。以下の下線の部分です。(  )は本文で省略されている所を補って入れてみた語です。

 

①「もし、みごと退治できたら、 ②(ぜひ)娘さんを 嫁にしたい

 

③「(もし)、助かるなら、 ④(きっと)娘も 喜んで あなたの嫁になることでしょう

          

①の用法は「仮定」、②は「願望」、③は「仮定」、④は「推量」の用法です。(*分類の仕方は研究者によって違います)

 

このような決まった言い方は、覚えておくと便利です。きこえる子は自然に耳から覚えていきますが、きこえない子は知らないことが多いので、出てきた機会に他の用法も含めて取り上げて整理しておくとよいと思います。例えば、以下のような言い方です。このような言い方を取り上げて、子どもと例文を作るとよいと思います。

 

1.「もしかすると、~かもしれない」(仮定)

(例)「もしかすると、遠足は 中止になるかもしれない。」

 

2.「まるで~みたい・よう」(仮定)

 (例)「宝くじがあたったなんて、まるでみたいだ」

 

3.「どうか、~て下さい」(願望)

 (例)「どうか、私の話を きいてください。」 呼応の副詞.jpg

 

4.「たぶん~だろう」(推量)

 (例)「たぶん、ほんとうだろう

 

5.「決して~ない」(否定)

 ()「この本は決して安くはないですが、中身は面白いです。」

 

*右の表は年長児の保護者が作った「呼応の副詞一覧表」。

  小学校6年生くらいになると、教科書に書かれている文が長くなり、文の構造も複雑になってきます。また、抽象語彙がいくつも出てきます。右の単元は、 イースター島にはなぜ森林がないのか.jpg東京書籍の6年生の国語「イースター島には、なぜ森林がないのか」に出てくる説明文ですが、文の読みの力だけでなく、社会科的な知識や理科的な知識もないと、内容を深く理解することができません。 以下、一部を引用してみます。(漢字使用、丸数字は筆者)

 

「①今から約千六百年前、ポリネシア人たちが、それまでだれも上陸したことのなかったイースター島に上陸した。②その時、島はヤシ類の森林におおわれていた。③いずれの大陸からも遠く離れたこの島には、哺乳動物は生息せず、空を自由に飛ぶことのできる鳥類が多くすみ着いていた。・・・」

 

〇幅広い常識や知識の必要性

1600年前?、ポリネシア人?、イースター島?、ヤシ類?、大陸?、哺乳動物?・・・歴 難解語句の指導2.jpg史、地理の知識がないと、いくら文章をテキストベースで正しく理解できても、その奥にある本当の意味はわかりません。読解には文法的な力だけでなく、常識的な知識や人間の心理など幅広い知識(スキーマ)が必要で、さまざまな情報や知識、他者との関わりを小さい時から広く経験し蓄えていく必要があります。そして、そこで大事なことは、日常的に、きこえない子に情報がどう届いているのかということで 難解語句の指導.jpgす。きこえない子は、音声だけではいくらも情報は入りません(あえてその子に話しかけないと)。きこえる子は、周りの会話やテレビの音声などからもそれなりに何かを「聞きかじ」って知らぬ間に覚えているといったことが沢山ありますが、きこえない子にはこれができません。会話も音声だけでは集団の中では限界があります。「話せているから手話は要らない」などという医師や親御さんもいますが、どれだけ多くの情報がその子の耳に届かず、知り得たはずの知識がぼろぼろとこぼれ落ちているかを想像できないのでしょう。

 

〇テキストベースで読める力~文法力

 二つ目の問題は、教科書の文を文法的に正しく読めることです。といっても、きこえない子どもの中には、語彙力が十分でなかったり、複雑な文の主述関係や係り受けの関係がわからない子たちもいます。それでも教科書を学習しなければならないとき、内容理解のためのなんらかの手立てを考える必要があります。

まず、立ちはだかるのは「難解語句」。初見で教科書の単元の文を読んだとき、子どもにわからなかった言葉です。この難解語句を取り出して「ことばノート」を子どもと一緒に作るという方法がありますが、右上の例は、そうした方法の一つです。

 

 また、複雑な文章を品詞分類して、文の構造を視覚化する方法もあります。文が長くなる 難解語句の指導3.jpgのサムネール画像のサムネール画像と、どこがどこに繋がっているのかさっぱりわからないということがあります。そこで、子どもと一緒に品詞分類をしながら、文の視覚的構造化をすることで、主語―述語の関係(文型)や名詞修飾関係がわかりやすくすることができます。とくに、複文を構成する長い名詞修飾句・節は、文意が読みとれないと、どこがどこに繋がっているのかよくわかりません。日本語には英語の関係代名詞のような文法マーカーがないからです。右の図は、上に上げた教科書の一文を品詞分類したものです。このように視覚化することで文の基本構造がわかります。基本文型だけを示すと、以下のようになります。この基本文型という骨格に、説明のための長い修飾語句がくっついて複雑になっているわけです。

 

①「ポリネシア人たちが イースター島に 上陸した。」(基本文型3)

②「島は、(ヤシ類の)森林に おおわれていた。」(基本文型3)

③「哺乳動物は 生息せず」(基本文型1)「鳥類が すみついていた」(基本文型1)

 

 基本文型がわかると、言いたいことがどういうことかという、文の概要もわかります。

 

 以上のような手立てをとることで、教科書は格段にわかりやすくなります。品詞カードを使った日本語文法指導のよさが理解できるのではないでしょうか?

因みに、基本文型の学習については「きこえない子のための日本語チャレンジ」(本会発行)に載っていますのでぜひ参考にしてください。

(*この記事で引用している写真の教材は、江副文法を活用した指導を行っている香川聾学校の教材。児童は授業が「わかる」ので、楽しんで授業を受けていたのが印象的だった)

 

 小1のどの国語の教科書にも出てくる単元に「大きなかぶ」というのがあります。有名なロシア民話で、園や学校でよく劇化したりしますからほとんどの方はご存じと思います。右頁は、おじいさんとおばあさんと孫の3人で、かぶを引っぱっている場面です。では、この単元の読みにどう文法は関わっているのでしょうか?

 

変化を表す「~た」(完了・過去形)

 この単元は、登場人物が増えていくごとに8つの段落に別れるのですが、その第3段落が右頁、第4段落が右頁終わりから左頁にかけてです。スペースの関係で単元の全文を書けないのですが、読んでいて気づくことは、各段落の最初の文が必ず「~をよんできました」という、いわゆる「過去形」になっていて、そのあとの文は「ひっぱって」という動詞「~て形」がいくつか繋がった、いわゆる「現在形」の文になっていることです。これは文法的にはどういう意味を持つのでしょうか? 大きなかぶ.jpg

 各段落最初の文()の「~た」という動詞は、過去を表しているのではありません。動作や状態の変化や完了を表わすときに使う「~た」です。ですから、第4段落で言えば、「おばあさんは、まごを よんできました」という文によって、おじいさんとおばあさんだけではかぶを抜くことができなかった前の場面から変わって、新たな場面になったのだということ強く印象づける文になっています。私たちは理屈ではなく文法を自然習得しているので、無意識のうちにこうしたことを理解し頭の中で映像化していますが、文法的に説明するなら「過去形」はこのような場面転換に使われることがあります。(このような使われ方は、2年上国語「ふきのとう」にもみられます)。

 

 躍動感が出る「~て」(継続・進行形)

 その次の文はどうでしょう?第4段落②では「かぶをおじいさんがひっぱって、おじいさんをおばあさんがひっぱって、おばあさんをまごがひっぱって、「うんとこしょ、どっこいしょ。」となっています。

 「~て、~て」という「動詞+接続助詞て」を使って文をどんどんつなぐことによって、一連の動きが、一つのつながりになっていることを示す文になっています。

もし、この文が「かぶを おじいさんが ひっぱりました。おじいさんを おばあさんが ひっぱりました。おばあさんを まごがひっぱりました。」となっていたら、動作が一つ一つそこで終わって切れてしまい、一つ一つの行動をやり終えていく感じになり、全体としてつながってまとまって動いているという全体での躍動感が失われてしまいます。ですから、ここは「~て~て」とつなげて一気に読むところなのです。このように、動詞の「~て」形は、動作・行動の連続や継続の意味を表します。ですから、私たちの頭の中には、三人がひとつながりになって一緒にかぶを引っ張っている、それをまさに今そこに見ているといういきいきとした映像が浮かぶわけです。

 

余韻を残す「~ません」(現在形)

そして、文の最後の「うんとこしょ、どっこいしょ。」 これも意図的に省略がされています。例えば、「『うんとこしょ、どっこいしょ』と言いました。」とでも言いたいところですが、それでは客観的描写すぎて間が抜けた文になってしまいます。「うんとこしょ、どっこいしょ」で切って、間をおいて「やっぱり、かぶは 抜けません」と、「~ません」という現在形につなげることで、抜けないという状態が変化なく持続しているということを表現しているわけです。ですから、最後のところは少しゆっくり読んで、こんなにがんばったのに「やっぱり抜けなかった」という登場人物の心情に寄り添い、余韻を楽しむ部分です。また「やはり」ではなく「やっぱり」という語を使っているのも、その状態を強調しており、一つ一つの文が工夫の施された訳文になっています。

このように、文法は、作品を深く味わうために欠かせないものなのですが、日本語のさらに基本的な文法や語彙が未習得なきこえない子どもたちに、ここまで作品を深く読み取らせることは極めて困難なことです。「準ずる教育」だからといって徒に作品の鑑賞を言う前に、知っておかなければならない基本的な文法事項があるのです。それは、この単元でいえば、助詞「が」と「を」の用法といった、きこえる子であれば当たり前に知っている文法が理解できていないということです。それについて考えてみます。

 

基礎的・基本的な文法の指導が必要

この単元では、「かぶを おじいさんが ひっぱって、おじいさんを おばあさんが ひっぱって、・・・」の助詞「が」と「を」の使い方を学ぶことです。もし、この文で、「が」と「を」が逆になったら、全く意味がおかしな文になってしまいます。 大きなかぶ2.jpg「かぶが おじいさんを ひっぱって、おじいさんが おばあさんを ひっぱって、・・」。ところが多くの子が、おそらく半分くらいあるいはそれ以上の子たちは、「が」と「を」が逆になっていたとしても気づきません。助詞の意味・用法がわからないからです。わからなくてもそのまま「わかったかのように」進んでしまうのは、教師自身が、「子どもが助詞『が』『を』を理解していない」ことを知らないからです。子どもは挿絵を手掛かりに場面を理解できますし、作品を劇化したりして楽しむこともできるので、ここで助詞の指導をすることはまずありません。

しかし、たとえここで助詞の指導をしなかったとしても、子どもたちが助詞の使い方を理解していないことに対しては、どこかで助詞を指導することが必要です。意図的にとりあげて指導をしないかぎり、決して、子どもは助詞を「自然に」わかるようにはなりません。そして、助詞がわからないかぎり、どのような文も正しく読んだり書いたりはできません。「おじいさんを おばあさんが ひっぱって」なのか、「おじいさんが おばあさんを ひっぱって」なのか、その違いは、天地の差ほどあるのです。それをどのように指導するのか、それが日本語文法指導です。 (⇒本HP「日本語チャレンジ」「助詞の指導」「助詞テスト」等参照)