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文を詳しくする方法(大きな名詞の作り方)

☆基本構文を詳しくする

文はどのような構造をもっているのでしょうか? 基本の成り立ちと、基本のかたちがどのように長くなっていくのかについて書いてみたいと思います。

まず、言いたいことは文末の動詞(食べたい、飲んだ、行こう、来て!)など)で表現されます。最もシンプルな表現から考えてみます。例えば、以下のような文があるとします。

 

1.行った。

話題を共有する二人の間で「行ったの?」「行ったよ」と会話するときは、単語だけのやりとりでもよいわけですが、話題を共有していない人にはなんのことか意味がわかりません。ですので、文は、誰が読んでもわかるように説明の語句が必要です。ここで使われている動詞「行く」は、通常、「(どこ)に+行く」という形で使われます。そこで、「(どこ)に」という要素を加えてみます。

 

2.運動会に 行った。

これで、少し伝えたいことがわかりました。しかし、この文を読んだ人は、「だれが運動会に行ったのだろう?」と尋ねたくなります。それで、この文に「だれが」(主語)という要素を付け加えます。

 

3.私は 運動会に 行った。(基本文型Ⅲ)

*基本文型については、このカテゴリーの「日本語に文型はあるの?」参照

これで、「だれが、どこに 行った」のかがわかりました。この「~(だれ)が ~(どこ)に+動詞」のかたちを基本文型Ⅲと言います。最低限必要な文の基本の要素がこの文型の中に含まれています。このときの「~」をに当たる部分を、文の「必須成分」と言います。相手に伝えるために必須の情報が入った文という意味です。これで、「だれが どこに 行った」のかがわかりました。しかし、話し手としてはもっと伝えたいことがあるはずです。「いつ」行ったのか?「だれの」「どこ()」の運動会なのか?・・・などです。人に何かを伝えるために必要ないわゆる5W1Hの要素が必要です。これを加えてみます。

 

4.昨日、私は、A聾学校の運動会に行った。

 これで、「いつ」「だれが」「どんな」運動会に行ったのかがわかりました。しかし、聾学校の運動会といっても、聾学校は全国あちこちにあります。そこでさらに文を詳しくしてみます。

 

5.昨日、私は、きこえない孫の通うA聾学校の運動会に行った。

運動会が、どのような運動会なのかよくわからないので、「運動会」を説明する語句を加えたわけです。この文のように、文を詳しくするときには、名詞の前に説明する文をもってくるというのが日本語のルール(文法)です。このルール(詳しく説明する語句はその名詞の前にもってくる)を使って上の文をさらに長くしてみます。

 

6.昨日、私は、きこえない孫の通う東京の〇〇区のA聾学校の運動会に行った。」

 聾学校のある場所が加わりましたが、「東京の〇〇区のA聾学校」とは、「〇〇区立のA聾学校」なのか、「○○区という場所にある聾学校」かわからないので、言い方を変えてみます。

 

 8.昨日、私は、きこえない孫の通う東京の○○区にあるA聾学校の運動会に行った。

これをもっと詳しく説明する文にはどうすればよいか。日本語の特徴の一つは、修飾語句 品詞カードにすると.jpgのサムネール画像が名詞の前に(横書きでは左へ)展開していくことです。この点は、関係代名詞をつけて後ろへ(横書きなら右へ)展開する英語とは逆です。ちょっとやってみます。

 

 9.とても暑かった昨日、久しぶりに上京するのを楽しみにしていた私は、きこえない孫の通う東京の〇〇区にあるA聾学校の運動会に 妻と一緒に行った

(下線部が基本文型の必須成分の名詞で、その前に修飾語句が長々と展開しているのがわかります。)   *上図が品詞分類した文の構造

 

☆「大きな名詞」(修飾句・節)を作るゲーム

  名詞修飾構文.jpg日本語はこのように、説明する語句がそれぞれの名詞の前にくっついて長くなっていくので、文意がわかりにくくなりがちです。しかし、このような長い文は、国語の教科書(右は教育出版・小1上「なにがかくれているのでしょう?」)の中にもけっこう早く出てきます。こうした名詞を修飾する構文に慣れるためには、まず、このような構文の仕組みを、小さい頃から身につけておくことが大切です。このような名詞修飾構文を「大きな名詞」づくりと言っています。

以下は、ある年長のお子さんとそのお母さんがやっている、長い文づくりのゲームです。

 

1.まず、テーマを決めます。今回のテーマは「カメラ」。カメラについて思いつくことを順番に出し合います。

母「カメラは黒い」 子「カメラは重い」 母「カメラはお母さんの宝物」 子「カメラは大事」 母「カメラがある」。

 

2.いくつか出たら、最後の述部を決めます。今回は「カメラがある」にしました。 長文づくり5.jpg

 

3.次に、共通テーマである「カメラ」について、それぞれ出し合った文から「名詞句」を作ります。

母「カメラは黒い」⇒「黒いカメラ」、子「カメラは重い」⇒「重いカメラ」

以下、母「お母さんの宝物のカメラ」 子「大事なカメラ」 

 

4.次に、3で作った名詞句を、述部の「カメラがある。」につなげていきます。

「黒いカメラ」を「カメラがある」につなげると⇒「黒いカメラがある」 長文づくり6.jpg

「重いカメラ」を上の文につなげると⇒「重い黒いカメラがある」→「重くて黒いカメラがある。」

「お母さんの宝物のカメラ」を上の文につなげると⇒「お母さんの宝物の重くて黒いカメラがある。」

「大事なカメラ」を上の文につなげると、⇒「大事なお母さんの宝物の重くて黒いカメラがある。」

 

これで完成ですが、「大事なお母さん」なのか「大事なカメラ」なのかが、この文ではわかりにくい。このような場合、修飾語句のうち長い句を前にもってくるというルールを使います。「大事な、お母さんの宝物の、重くて、黒い+カメラ」のうち、最も長いのは「お母さんの宝物の」ですから、これを前に出します。 2018-05-01-1-P9160871 (1).jpgのサムネール画像

 「お母さんの宝物の重くて黒くて大事なカメラがある。」これで完成です。

 

このようなゲームの中で、これまでに学習した形容詞の活用(かわいい→かわいくて)やなにで名詞(大好きな+名詞)や名詞のつながり方(2つある→2つの)なども変えられるようになったそうです。

また、絵日記の中でも、品詞分類をしたり(右図)、「ぼうしをかぶってかばんをもったAちゃん、これ見て」とか「青い服を着た小さいBちゃんにこのチョコレートのお菓子を渡して」などと、わざと文を長~くして言ったりして楽しんでいるそうです。

 

┃難聴児支援教材研究会
 代表 木島照夫

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