構文・接続詞の指導
接続詞をどのように指導すればよいか、という質問を聾学校小学部の先生からいただきました。接続詞は国語の教科書には必ず出てくるものですが、どちらかというと中・高学年で取り上げて指導することが多いので、基本的な文法指導事項からは漏れてしまうことも多かったかもしれません。
〇因果関係をあらわす接続詞
接続詞は、文と文の関係をあらわし、その機能としては「順接」「逆接」「言い換え」「並列」「対比」「転換」などいろいろあります。その中でまず取り上げたいのは、論理的な思考に欠かせない「原因・理由―結果」を表す接続詞です。
具体的な語としては、「だから」が代表的なもので、ほかにも「それで」「で」「そのため(に)」「そこで」「その結果」「したがって」などがあります。
また、結果から原因を述べるために使われる語としては、「なぜなら」「なぜかというと」「というのは」「だって」などがあります。
最初の指導としては、代表的な接続詞である「だから」と「なぜなら」をとりあげ、添付ファイルのような視覚教材を作り、因果関係をあらわすさまざまな場面を準備し、原因・理由と結果との関係をつなげる表現の仕方を学ぶとよいのではと思います。
① 「友だちを叩いた」だから「母に叱られた」。
② 「母に叱られた」なぜなら「友だちを叩いた」から。
(別の場面)
③ 「おやつを食べすぎた」だから「夕ご飯が食べられなかった。」
④ 「 」なぜなら「 」から。
文をわかりやすくするために品詞分類してそれを文の構造図に書き込む方法について、ある方から質問を受けました。 慣れるまでが難しいので、再度とりあげてみます。
絵本の中での一文から、例を挙げてみます。以下の文です。
「空き缶のはいった袋を持ったみきちゃんは言いました。」
主語となる名詞の前に修飾句があるので、子どもはついつい、「空き缶のはいった。袋を持った。みきちゃんは言いました。」と分けて読んでしまいます。どうすればよいでしょうか?
①まず、この文の述部(文の最後にある動詞など)を探します。これは「言いました。」ですね。右図①
②次に、述部に対する主部(語)を探します。「言いました」は、「(誰)が」+「言いました」となる自動詞ですから、基本文型Ⅰです。「だれが」にあたるのは、「みきちゃん」ですね。
「みきちゃんが(は) 言いました。」これが文の根幹すなわち必須成分にあたります。これを、構造図に書きます。右図②です。
③「空き缶の入った袋」は「袋」にかかる大きな名詞ですから、大きな四角で囲みます。右図③
この大きな名詞である「空き缶の入った袋を」は、「持った」に繋がりますが、「持った」は、文の最後にくる述部ではこれません(述部にはすでに「言いました」があります。「持って」なら、動詞テ形なので助詞の位置に持ってこれます)。
④「空き缶の入った袋を持った」は「みきちゃん」につながる修飾句なので、この部分をさらに大きな名詞として囲みます。上図④
次の文をやってみましょう。
「お母さんは、お気に入りのかわいい靴二足を てきぱきと 急いで片づけた。」
①まず、文の述部を探して構造図に書き込みます。⇒「片づけた。」
②動詞「片づける」は、「(なに)を」(目的語)が必要な他動詞。すなわち、「誰が 何を 片づける」となる基本文型2です。これを構造図に書きます。
「お母さんは 靴(二足)を 片づけました。」
これが文の骨格となる部分です。(基本文型2)
③あとの残りの成分は文を詳しくする部分。まず、「お気に入りの可愛い」は「靴」を修飾する句ですね。靴二足の前にもってきて、大きな名詞として括ります。
また、「てきぱきと」は、副詞+助詞「と」ですから、上図の下から2段目に書き、述部「片づけた」にちゃんとつながるかどうか確認します。「てきぱきと」→「片づけた」ですからOKですね。
「すばやく」(形容詞ク形)は、動詞テ形と同じように、助詞のところに少し突き出た感じで書きます。述部「片づけた」には、「すばやく」→「片づけた」とつながりますね。
最後にもう一つやってみましょう。これはぜひ自分でやってみてください。
「太郎は、お父さんにも見てもらえて、楽しそうに、早く 走った。」
基本の文型は、「太郎は 走った。」ですね。これをまず書き込みます。
「て形動詞」や「く形」や「くて形」の形容詞は、「~て」や「~く」「~くて」が助詞の位置に来て、最後の述部に繋がっていれば正しいです。
また、「~そう」は、「なにで名詞構成語」と言い、「~な・に・で」が助詞の位置に来て、最後の述部に繋がっていればOKです。
☆基本構文を詳しくする
文はどのような構造をもっているのでしょうか? 基本の成り立ちと、基本のかたちがどのように長くなっていくのかについて書いてみたいと思います。
まず、言いたいことは文末の動詞(食べたい、飲んだ、行こう、来て!)など)で表現されます。最もシンプルな表現から考えてみます。例えば、以下のような文があるとします。
1.行った。
話題を共有する二人の間で「行ったの?」「行ったよ」と会話するときは、単語だけのやりとりでもよいわけですが、話題を共有していない人にはなんのことか意味がわかりません。ですので、文は、誰が読んでもわかるように説明の語句が必要です。ここで使われている動詞「行く」は、通常、「(どこ)に+行く」という形で使われます。そこで、「(どこ)に」という要素を加えてみます。
2.運動会に 行った。
これで、少し伝えたいことがわかりました。しかし、この文を読んだ人は、「だれが運動会に行ったのだろう?」と尋ねたくなります。それで、この文に「だれが」(主語)という要素を付け加えます。
3.私は 運動会に 行った。(基本文型Ⅲ)
*基本文型については、このカテゴリーの「日本語に文型はあるの?」参照
これで、「だれが、どこに 行った」のかがわかりました。この「~(だれ)が ~(どこ)に+動詞」のかたちを基本文型Ⅲと言います。最低限必要な文の基本の要素がこの文型の中に含まれています。このときの「~」をに当たる部分を、文の「必須成分」と言います。相手に伝えるために必須の情報が入った文という意味です。これで、「だれが どこに 行った」のかがわかりました。しかし、話し手としてはもっと伝えたいことがあるはずです。「いつ」行ったのか?「だれの」「どこ(何)」の運動会なのか?・・・などです。人に何かを伝えるために必要ないわゆる5W1Hの要素が必要です。これを加えてみます。
4.昨日、私は、A聾学校の運動会に行った。
これで、「いつ」「だれが」「どんな」運動会に行ったのかがわかりました。しかし、聾学校の運動会といっても、聾学校は全国あちこちにあります。そこでさらに文を詳しくしてみます。
5.昨日、私は、きこえない孫の通うA聾学校の運動会に行った。
運動会が、どのような運動会なのかよくわからないので、「運動会」を説明する語句を加えたわけです。この文のように、文を詳しくするときには、名詞の前に説明する文をもってくるというのが日本語のルール(文法)です。このルール(詳しく説明する語句はその名詞の前にもってくる)を使って上の文をさらに長くしてみます。
6.昨日、私は、きこえない孫の通う東京の〇〇区のA聾学校の運動会に行った。」
聾学校のある場所が加わりましたが、「東京の〇〇区のA聾学校」とは、「〇〇区立のA聾学校」なのか、「○○区という場所にある聾学校」かわからないので、言い方を変えてみます。
8.昨日、私は、きこえない孫の通う東京の○○区にあるA聾学校の運動会に行った。
これをもっと詳しく説明する文にはどうすればよいか。日本語の特徴の一つは、修飾語句
が名詞の前に(横書きでは左へ)展開していくことです。この点は、関係代名詞をつけて後ろへ(横書きなら右へ)展開する英語とは逆です。ちょっとやってみます。
9.とても暑かった昨日、久しぶりに上京するのを楽しみにしていた私は、きこえない孫の通う東京の〇〇区にあるA聾学校の運動会に 妻と一緒に行った。
(下線部が基本文型の必須成分の名詞で、その前に修飾語句が長々と展開しているのがわかります。) *上図が品詞分類した文の構造
日本語はこのように、説明する語句がそれぞれの名詞の前にくっついて長くなっていくので、文意がわかりにくくなりがちです。しかし、このような長い文は、国語の教科書(右は教育出版・小1上「なにがかくれているのでしょう?」)の中にもけっこう早く出てきます。こうした名詞を修飾する構文に慣れるためには、まず、このような構文の仕組みを、小さい頃から身につけておくことが大切です。このような名詞修飾構文を「大きな名詞」づくりと言っています。
以下は、ある年長のお子さんとそのお母さんがやっている、長い文づくりのゲームです。
1.まず、テーマを決めます。今回のテーマは「カメラ」。カメラについて思いつくことを順番に出し合います。
母「カメラは黒い」 子「カメラは重い」 母「カメラはお母さんの宝物」 子「カメラは大事」 母「カメラがある」。
2.いくつか出たら、最後の述部を決めます。今回は「カメラがある」にしました。
3.次に、共通テーマである「カメラ」について、それぞれ出し合った文から「名詞句」を作ります。
母「カメラは黒い」⇒「黒いカメラ」、子「カメラは重い」⇒「重いカメラ」
4.次に、3で作った名詞句を、述部の「カメラがある。」につなげていきます。
「黒いカメラ」を「カメラがある」につなげると⇒「黒いカメラがある」
「重いカメラ」を上の文につなげると⇒「重い黒いカメラがある」→「重くて黒いカメラがある。」
「お母さんの宝物のカメラ」を上の文につなげると⇒「お母さんの宝物の重くて黒いカメラがある。」
「大事なカメラ」を上の文につなげると、⇒「大事なお母さんの宝物の重くて黒いカメラがある。」
これで完成ですが、「大事なお母さん」なのか「大事なカメラ」なのかが、この文ではわかりにくい。このような場合、修飾語句のうち長い句を前にもってくるというルールを使います。「大事な、お母さんの宝物の、重くて、黒い+カメラ」のうち、最も長いのは「お母さんの宝物の」ですから、これを前に出します。
「お母さんの宝物の重くて黒くて大事なカメラがある。」これで完成です。
このようなゲームの中で、これまでに学習した形容詞の活用(かわいい→かわいくて)やなにで名詞(大好きな+名詞)や名詞のつながり方(2つある→2つの)なども変えられるようになったそうです。
また、絵日記の中でも、品詞分類をしたり(右図)、「ぼうしをかぶってかばんをもったAちゃん、これ見て」とか「青い服を着た小さいBちゃんにこのチョコレートのお菓子を渡して」などと、わざと文を長~くして言ったりして楽しんでいるそうです。
「・・・『から』(助詞)と『だから』(接続詞)の使い方が少しずつわかってきましたが、ここで新たに課題になってきたのが「けれど」と「から」の使い分けです。とくに「けれど」が分かっていないようです。ルールが分かってないから、目で見てわかる表が必要だと思い作ってみたのですが今一つ説明が難しいです。よい方法はあるでしょうか?
こんなことまで教えないといけないのが難聴児なのか・・・という気持ちと、また新しい課題が見つかった。でも、親が意識して教えたら必ずできるようになるから、次はこれをクリアできるんだ、という気持ちと両方あります。・・・」
これは接続詞の順接と逆接の指導ですが、聴児でも小学校中学年以降の指導内容なので年長児でわからなくてもちっとも悲観する必要はありません。きこえない子にとって難しいのは、これまでも何度が描いてきましたが、複数のものがあってそのものとものとの関係を、ことばで考えることです。能動・受動文、授受文、使役文、比較表現、位置表現などは全てそうです。
接続詞の順接と逆接の表現も、原因となることがらがあって(前文)、その結果として起こったことがら(後文)のつながり方を説明する表現です。
順接の場合は、「だから」「それで」「そこで」などが使われます。
例えば、
「ころんだ」 ⇒ 「だから」 ⇒ 「泣いた」
「風邪をひいた」 ⇒ 「それで」 ⇒ 「薬を飲んだ」
*3歳を過ぎると、子どもの中には、手話を使った「~から・だから」の表現ができる子も出てきます。以下は育児記録からの例です。
事例①
遊んでいる息子に「お風呂入ろう!」と言うと、「あし(指文字)が痛いから(手話)入れない」と答える。「どうして足が痛いの?」と聞くと、「蚊がブーンて刺したから(手話)痛い」と答えた。(3歳2ヵ月)
逆接は、「けれど、でも、しかし」などが使われます。
例えば、
「ころんだ」 ⇒ 「でも」 ⇒ 「泣かなかった」
「風邪をひいた」 ⇒ 「しかし」 ⇒ 「薬は飲まなかった」
ただ、このような説明を文だけでやるのは難しいので、絵を準備するとよいでしょう。
右上図のように、原因の絵に対して、結果の異なる絵をふたつ用意し、どのことばが「?」のところに入るのかを考えさせます。このような絵をいくつか用意して、空欄を埋めてポスターにして壁にはるのもよいでしょう。
〇原因と結果、仮定と予想なども
さらに、発展させるなら、「ころんだ」理由の文を考えさせることもできます。「どうしてころんだの?
」「ころんだわけは?」⇒「石につまずいて転んだ」とか「慌てて走ったから転んだ」などの理由を説明する言い方を学習することもできます。
また、「もし、走らなかったら?」⇒「きっと・たぶん、ころばなかったと思う・だろう」などの仮定の質問に対する予想・推量などの言い方も学習できます。
接続詞はこのような論理的な思考・表現の学習にも関連する大切なことばなので、日常生活
の中でも、手話と一緒に、意識的に使っていくようにするとよいでしょう。考えさせるやりとりは、子どものことばで論理的に考える力を育てます。
右上図は、ある保護者のメモ帳です。いつも持ち歩いて、リアルタイムに子どもにことばを意識させ教えています。右下図は、ある日の絵日記の中で、意図的に「ので」とか「けど」を多用しています。あとでこの接続詞の部分に紙を貼って、何が入るかワーク形式にすることもできます。
以下の文は日常生活の中で、ぜひ、このようなことばを使って子どもに問いかけてみましょうという例です。
「どうして、そうなったと思う?」⇒「~だから、・・・と思う」
「もし~なら、どう思う?」⇒「たぶん・きっと・・・だろうと思う」
私達が日々、話したり、読んだりしている文は、決まった文の形でできているのでしょうか? もしそうだとしたら、その文型はどのようなものでしょうか?
きこえる人は幼い頃からの自然な会話の中で、その基本の文型を自然に身につけていきます。しかし、きこえないというハンディをもっていると、なかなか自然に身につけるということが難しくなります。では、その文型とはどのようなものでしょうか?
日本語の基本文型は、だいたい下の5つと言われています(右図は動詞文のみ)。そして名詞で終わる文型は1のみ、形容詞で終わる文型は1と3、動詞で終わる文型は5つで、文の文末は動詞になることが圧倒的に多いことがわかります。そしてこの基本の文型に様々な修飾語句が加わって長い文ができあがっています。
1.「~が+動詞・形容詞・名詞」例「雨が降る」「空が 青い」「これがレモンです」
2.「~が~を+動詞」 例「私が 窓を あけました」
3.「~が~に+動詞・形容詞」例「弟が 幼稚園に 行った」「姉は 妹に 優しい」
4.「~が~と+動詞」 例「兄が 同級生と 結婚した」
5.「~が~に~を+動詞」 例「父が 母に おみやげを 渡した」
では、実際に使われている文がどの文型なのか、調べてみましょう。以下は、国語教科書4年上(光村図書、学校図書)に出てくる「白いぼうし」(あまんきみこ作)の最初の部分です。実際には、修飾語句が沢山使われているので一見複雑ですが、骨格は、上の5つに収まります。(漢字使用、数字は筆者がつけたもの)
(1)「これは、レモンのにおいですか?」
(2)堀ばたで乗せたお客の紳士が、話しかけました。
(3)「いいえ、夏みかんですよ。」
(4)「信号が赤なので、ブレーキをかけてから、運転手の松井さんは、にこにこして答えました。
(5)今日は、6月の始め。
(6)夏がいきなり始まったような暑い日です。
(7)松井さんもお客も、白いワイシャツのそでを、腕までたくし上げていました。・・・
以上の文は、どの文型に当てはまるでしょうか。
まず(1)ですが、「これは、レモンのにおいですか?」
「~は+名詞(+です)」の文型にあてはまりますから、文型1ですね。
(2)(堀ばたで 乗せた) お客の紳士が、話しかけました。=文型1
(3)「(いいえ)、(「これは」が省略)夏みかんですよ。」=文型1(文末は名詞)
(4) 信号が赤なので)、(ブレーキをかけてから)、運転手の松井さんは、(にこにこして)答えました。=文型1(「松井さんは答えました」が、文の土台です)
(5)今日は、6月の始め。=文型1(文末は名詞)
(6)(「今日は」が省略)(夏がいきなり始まったような)暑い日です。=文型1(文末は名詞)
(7)松井さんもお客も、(白い)ワイシャツのそでを、(腕まで)たくし上げていました。 =文型2(~が~を+動詞)
この物語の冒頭の部分はほとんど文型1で、文型2が一つだけです。そして、これらの文
型は「主語」(だれ・なにが)、「目的語」(なにを)、「述語」(どうした・どうだ)、という文の主要なパーツ(必須成分)で成り立っていて、これらのパーツに「修飾語句」が掛かって、文が詳しく、そのぶん長くなっているわけです。しかし、私たちは文を読むときに、自然にそのパーツを頭のなかでほとんど無意識に読みとり、文の構造を読みとって解釈しています。例えば、「食べたよ~」ということばを聞いた時、自動的に「なにを?」とききたくなります。つまり、「食べた」という動詞には、「~を」ということばがセットになっていて、「~が~を+動詞」のかたちで使うのが普通なのです。ですから「食べた」という動詞をきくと、「なにを」という部分を補いたくなるのです。また、「ごはんを」ときくと、次にどんな動詞がくるかを私たちは予想しています。普通は「食べた」が多いですよね。もちろん、「ごはんを」の次に来る動詞は、「食べる」だけではなく、「とぐ」かもしれないし「捨てた」かもしれません。それはこの「ごはんを」が使われた時の文脈があるので、それらを手がかりにどんな動詞が来るのかが予想できるわけです。
しかし、きこえない子は、動詞の数も少なければ、このような文型に慣れてもいません。日本語には省略も多いです(上の「白いぼうし」でも省略がありますね)。ですから自然に身につけるのはけっこう難しい。そこで、基本の文型を意識的・意図的に指導する必要があるわけです。教科書の文を指導するときも、このような文型分けをしながら指導するとよいと思います。右図は国語教科書単元「ごんぎつね」を文型分けして模造紙に書いたものです。どの文型にあてはまるか考えてみてください。いずれもちゃんと、上の5つの文型のどれかになるはずです。
私達が日々、目にしている文は、決まった文の形でできているのでしょうか?
もしそうだとしたら、その文型はどのようなものでしょうか? きこえる人は幼い頃からの自然な会話の中で、また、本などを読む中で、その基本の文型を自然に身につけ、自分で作文するときも自然にこのかたちを使っていますが、きこえないハンディをもっていると、なかなかこの基本文型を自然に身につけるということが難しくなります。
では、その文型はどのようなものでしょうか? それは、以下のほぼ5つになります(i右図参照)。ここでは、最も使用頻度の多い、最後に動詞がくる文(文の最後にくる品詞は名詞、形容詞もあります)について説明します。
日本語の基本の文型は以下の5つです。
文型1.「~が+動詞・名詞・形容詞」
文型2.「~が~を+動詞」
文型3.「~が~に+動詞」
文型4.「~が~と+動詞」
文型5.「~が~に~を+動詞」
では、実際に使われている文はどのようになっているでしょうか?
以下は、国語教科書4年上(学校図書)に出てくる「白いぼうし」(あまんきみこ作)の最初の部分です。実際には、修飾語句が沢山使われているので一見複雑ですが、骨格は、上の5つに収まります。
1.「これは、レモンのにおいですか?」
2.堀ばたで乗せたお客の紳士が、話しかけました。
3.「いいえ、夏みかんですよ。」
4.「信号が赤なので、ブレーキをかけてから、運転手の松井さんは、にこにこして答えました。
5.今日は、6月の始め。
6.夏がいきなり始まったような暑い日です。(以下略)
7.松井さんもお客も、白いワイシャツのそでを、腕までたくし上げていました。
1は、「これは、(レモンの)においです。」= 文型1(文末は名詞(+です))
2は、(堀ばたで 乗せた) (お客の)紳士が、話しかけました。=文型1
3は、「(いいえ)、夏みかんですよ。」=文型1(文末は名詞)
4は、(信号が赤なので)、(ブレーキをかけてから)、(運転手の)松井さんは、(にこにこして)答えました。=文型1(「松井さんは答えました」が、文の土台です)
5.今日は、6月の始め。=文型1(文末は名詞)
6.(夏がいきなり始まったような)暑い日です。=文型1(文末は名詞)
7.松井さんもお客も、(白いワイシャツの)そでを、(腕まで)たくし上げていました。
=文型2
全て上の5つの文型のうちにおさまっています。そして、この文型はちゃんと「主語」(だれ・なにが)、「目的語」(なにを・に・と)、「述語」(どうした・どうだ)、という文の主要なパーツ(「必須成分」)から成り立っています。そして、これらのパーツに「修飾語句」が沢山掛かっていて、文が詳しく、複雑になっています。しかし、私たちは文を読むときに、自然にそのパーツを頭のなかでほとんど無意識に読みとり、文の構造を読みとって解釈しています。しかし、きこえない子は、それは自然には難しい。
ですから、基本の文型を意識的・意図的に指導する必要があるわけです。そしてまた、これらの必須成分の語にかかっている修飾語句(=上の例文で( )で示した部分)のかかり方も学習する必要があるわけです(「名詞修飾句・節の作り方」参照)。
右図は、「ヤマタノオロチ」(学校図書2上)の冒頭の部分を、5つの基本文型を使って、表示したものです。このように品詞カードを使って文の構造を視覚化すると、文がわかりやすくなります。
日本語の特徴の一つは、修飾語句が文の前に前に(横書きでは左へ)と展開していくことです。この点は、関係代名詞をつけて後ろへ(横書きなら右へ)展開する英語とは逆です。
例えば、以下のような文があるとします。
1.私は 運動会に 行った。
運動会に行った人はわかりますが、どこの運動会なのかよくわからないので、「運動会」(名詞)を説明する語句を次に付け加えてみます。
2.私は 東京の ろう学校の 運動会に 行った。
運動会という名詞を修飾する文「ろう学校の」を加えます。「名詞+の+名詞」です。ここに、さらに詳しくするために「東京の」を加えてみます。そうすると「東京のろう学校の運動会」になり、上のような文になります。
3.私は、きこえない友だちが通う 東京のろう学校の運動会に 行った。
さらに詳しくするために、「きこえない友だち」を加えてみます。そうすると「きこえない友だちが通う 東京のろう学校の運動会」となり、上のような文になります。だいぶ詳しくなりました。もう少しだけ詳しくしてみましょう。
4.私は、都内に住んでいるきこえない友だちが通う東京のろう学校の運動会に行った。
ずいぶん長くなりました。まだまだいくらでも長くすることは可能ですが、この辺までにしておきましょう。「都内に・・・・東京のろう学校の」までは、すべて「運動会」を説明するための「修飾節」であることがわかります。
このように日本語は修飾する部分が前に前にと出て、理論的にはいくらでも長くすることができます。このような名詞を修飾する複文は、国語の教科書の中でもけっこう早く出てきます。例えば、教育出版の国語小1上の最初の説明文「なにがかくれているのでしょう?」には、最後の頁に「上手に かくれることのできる 虫は、ほかにも いろいろいます。」という文があります。この部分は、子どもたちがしばしば「上手にかくれことのできる」「虫は・・・」と切って、別々の文として読んでしまうところです。もし、「上手にかくれることができる虫は・・」と「の」が「が」になっていたら、「上手にかくれることができる」「虫は・・」切って読む可能性がさらに高くなります(*複文従属節中に出てくる「の」は「が」に変換可能というのが日本語のきまりです)。
こうした名詞修飾構文を教えるには、名詞を修飾する形容詞を使った文で教えるのが最もわかりやすいです。あるろう学校では、先日、小1の自立活動でその指導が行われていました。(右図参照)
1.まず「カレーを 食べる」という元の文を提示します。
2.この文の「カレー」(名詞)を詳しくするために、「カレー」について説明した形容詞文を作ります。
3.「からい」(形容詞)を名詞の前に出して「名詞修飾句」を作ります。
4
.「からいカレー」を元の文に入れると、最初より詳しい文ができあがります。
「からいカレーを食べる」
5.次に、さらに詳しい文を作る練習をします。(右図参照)「ラーメンを食べる」の文を「あつい」と「おいしい」の2つの形容詞を使って詳しい文にします。
6. ①「ラーメンはあつい」→「あついラーメン」、②「ラーメンはおいしい」→「おいしいラーメン」にします。
7.上記①②で作った文を、元の文に付け加えます。
「ラーメンを食べる」→「あつくて、おいしい ラーメンを たべる」になります。
*形容詞が二つ並ぶときは、はじめの形容詞を「~くて」にします。