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助詞がわかるということは?ー「助詞手話記号」は効果があるか?ー

〇助詞記号・助詞手話記号の開発

 このHPでは、助詞の指導方法について何度か書いてきました。そしてその中で、きこえない子が苦手な助詞「が、を、に、で、と」を、それらの助詞の「意味・用法」を手話であらわす方法があることについて書いてきました。

 この指導方法を最初に考案したのは、私がある聾学校に勤務していた平成21(2009)頃で、最初は、格助詞の意味を「記号」(「助詞記号」)を使ってあらわす方法を思いつきました(図に用いられている抽象図形の記号で、手の形のほうではなく、手の上に小さく映っている□とか→とか?を使った記号のほうです)。例えば、「で」の「原因・理由」をあらわす「で」(例「風邪で学校を休む」「風で桜が散った」)では、「原因・理由」をあらわす手話表現(体の前で左手を水平におき、その下を、指さしする時などに使う右人差し指をまっすぐ前に向けた右手をくぐらせ、左右に振る)から思いついた、水平の直線の下に「?」マークを書いた記号を使います。しかし、この記号だけでは、記号そのものが抽象的であったため、低学年の子たちにはなかなか理解できませんでした。そこで、手話そのものを、はじめから使えばよいことに気づき、「助詞手話記号」を思いついたわけです。これは、日常的に手話を使っている子たちにとってはとてもわかりやすいもので、この記号を使って助詞の意味・用法を学んだ子どもたちの反応は、「ああ、『で』はそういう時に使うんだ!」でした。それまでの指導は、子どもの書いた日記の文中の助詞のまちがいを「ここの助詞の使い方は『を』ではなく、『に』だよ」と先生に言われて意味も分からずに直すだけか、助詞のドリルと称して問題文中の(  )に、自分が思いついた助詞を書き込む練習問題を沢山やるという方法でした。 助詞手話記号「で」.jpgしかし、なぜ、この助詞を使うのかという意味・用法が明確ではないために同じ間違いを繰り返すのが常でした。このような指導法とは言えない指導法しかなかったのでした。

 ところが手話が日常的に使われるようになり、子どもたちはその手話を自然言語として獲得するようになりました。その結果として、例えば「原因・理由」を示すときに使う助詞「で」は、原因・理由を表わす「なぜ・理由」という手話を使って説明できることに気づいたわけです。そうして開発されたのが「助詞手話記号」です。

 

〇助詞記号・助詞手話記号を用いた学習の成果

 では、こうした記号を使って指導して、実際、効果はあるのか? きっと初めてこの記号に出会った方たちはそういう疑問を持たれると思います。そこで、記号を開発した当時(20102012)、その記号を使って児童に指導を試みた結果、どれだけの成果があったのか、当時の検査結果からみてみたいと思います。

教科書の中での文法指導(オロチ).jpgこの聾学校では、毎年、年度末に、語彙力・文法力を把握するために「J.coss(日本語理解テスト)」、総合的な読みの力を把握するために「Reading Test(読書力検査)」、助詞の理解を把握するために「助詞テスト」などを行っています。そこでまず、助詞の指導を行う学年2クラス(2012、2013の2年生2クラス)を選び、その中から知的障害がなく(WISC動作性IQ80以上)、前年度の助詞テストが80点以下で助詞の指導を必要とする児童10名を選びました。 教科書の中での文法指導(「スイミー」).jpg

 

 そして、この助詞手話記号を使って「自立活動」や「国語」の指導を行い、さらに助詞問題プリントを使って2年生の10月~1月の4カ月間、集中的に指導してみました。幸い、多くの児童は、助詞の授業を楽しみ、積極的に助詞の問題プリントにも取り組みました(4カ月間で取り組んだプリント枚数は100枚を越えます)。その結果、その年度の2月にあった「助詞テスト」の結果は大きく伸びたのです(下右図「指導群」結果)。

  集中的助詞指導の効果.jpg

 しかし、これだけでは助詞の指導の効果は本当かどうかわかりません。もしかしたら、助詞の指導をいちいちしなくても伸びるのかもしれません。そこで、指導をしなかった児童(知的障害なし、助詞テスト80点未満)10名を選んで「対照群」として、その伸びを比較してみました。指導前(前年度)の助詞テスト平均得点は「指導群(10)」と「対照群(10)」とに差はありません。しかし、「対照群」(特別に助詞を指導しなかったグループ)がプラス3点とほぼ横ばいだったのに対して、助詞を指導を行った「指導群」はプラス17点弱と大きく伸びていたのです(危険率5%で有意差あり)。

  各群読書偏差値.jpgこうした比較した結果から、集中的に助詞の指導を行う効果が確認できました。そしてどの児童に対しても、低学年児童については、この方法を用いて指導されるようになりました(但し、高学年では文法指導は基本的に行われませんでした)。

 

〇その後、どうなったのか?

 しかし、どのように優れた指導方法でも、学校の中でその指導方法が根付き、継続されていかないのが学校の難しさです。公立学校は人事異動がつきもので、管理職の采配によってあっという間に人が代わるということがあるからです。この学校でも残念ながら、どんどん教員が代わってしまい、この指導方法を引き継いでいく人が減っていきました。そして指導法はこの学校ではだんだんと廃れていきました(但し、今は、全国いくつもの聾学校でこの指導法は引き継がれています。例えば香川聾学校や久留米聴覚特別支援学校、松江ろう学校、佐賀ろう学校などはそうです)。

  助詞テスト結果一覧.jpg

 継続して指導できなかったとしても、子どもたちが身につけた助詞を理解する力が廃れるわけではありません。この「指導群」の児童10名に集中的に助詞の指導したのは小学2年生の時でしたが、その4年後の小学6年生での「助詞テスト」の結果は、10人中8人は80点~1001人は67点、あとの1人は76点でした(この2人も継続指導されていればおそらくもっと向上したでしょう)。そして、80点以上8名のうち2名(2割)が「Reading Test」で読書偏差値56以上(中1以上)の「上学年対応」、3名(3割)が読書偏差値46以上の「該当学年(小6)対応」、残り3名は読書偏差値39~45の「下学年対応」であることがわかりました。また助詞テスト80点以下の児童2名も「下学年対応」でした。

 

 一方、意図的・集中的な助詞指導を行わなかった「対照群」(10)の「Reading Test」の結果は、「該当学年対応(小6レベル)」が2名(2割)で、あとの8名(8割)はいずれも読書偏差値45以下の「下学年対応」にとどまりました。助詞の指導が行われていたら「該当学年対応」以上の児童の割合は、もっと多くいたのでは?と思います。

もちろん、読書偏差値は、語彙・文法・読解力を含む総合的な力ですから、一概に「助詞」だけの問題ではありませんが、少なからず「助詞」の力も反映していることは間違いありません。これらのことから、助詞の指導に関して、いくつかのことを考えました。

 

①助詞の指導は、「自立活動」などの時間に、意図的・集中的に指導する時間があるとよい。とくに助詞がまだ十分獲得できていない児童に対して。ここで引用した「指導群」児童は「助詞に・で・を」の指導を10時間程度受けている。これによって児童の助詞理解は大きく進む。

②また、やや厳しい児童たちの学級では「国語」の時間内にも必要に応じて助詞の指導があるとよい。そのほうが効果があがる(添付写真「ヤマタノオロチ」の授業場面例)

③さらに、日記を通しての指導、助詞プリントによる学習もあるとよい。(助詞の意味・用法が分かったうえでの習熟の段階)

④このような、授業や日常生活などのあらゆる場を通して助詞を学ぶことによって、助詞の理解が促され、その結果として、「読み」の力も向上する。何もしなければ、助詞がわからない⇒文章を正確に読みとれない⇒読書偏差値は低いままにとどまる⇒教科書が読めない・理解できない(添付図「小6年次『Reading Test』読書偏差値」。

 

〇助詞を家庭で学べるか?~視覚と動作で効果的に学ぶ方法

 学校で教えてもらえなければどうすればよいのでしょうか? 助詞指導の方法を開発した聾学校でさえ10年後には指導法が継続されない、というのが日本の教育の現状ですから、手話を用いない聾学校や普通小学校では、助詞の効果的な指導方法に与れないかもしれません。しかし、とりあえず手話をおいておいても助詞の指導は可能です。

 幼児期における指導方法は、このHPに掲載した年長幼児の実践を参考にして下さい。

HP>日本語文法指導>助詞の指導>助詞は会話の中で身につくか?

http://nanchosien.com/09/09-3/post_101.html

 HP>論文・資料・教材>幼児の日本語指導教材と実践

 http://nanchosien.com/papers/04-4/

 

その保護者は以下のように語っておられます。(詳細は上記URLの記事を参照)

「助詞がまったく分からない年中の2月に、助詞の学習に走り出しました。途中、手話助詞記号は、かなり効果があることに気付きました。やっていたのは、絵日記と言葉あそびを少し。ほとんどが文法の学習。私は一定期間、集中的にひとつのことのみを繰り返し教えていました。まずは、助詞のみ。一回30分を1セットとし、1日の中に組み込んで、できるようになるまでは、全て助詞のみ。自作の「助詞クイズカード」、「叩く・叩かれるゲーム」。電車に乗ってでもやっていました。...その結果、短期間に助詞がわかるようになり、先生たちも驚いていました。その頃の変化が以下のようなことです。

・発語が以前より上手になったこと(年中夏から訓練に通い始めた)。
・文法がわかるようになり、「ふつうの日本語」を話せるようになったこと。
・語彙の量が爆発的に増えた。(=「ことば絵じてん作り」の効果)

・擬音で話していたところに、動詞を使うようになったなど。」  (以上メールより)

とくに、「が」「を」「に」などの助詞カード(文字カード)を準備し、そのカードを使いながら実際の場面で「おなかが痛い」などと「が」のカードでおなかを指しながら文を作るなどは、子どもも楽しめるし効果が大きいようです。また、「~が~を叩く」などの文カードを使った「叩く・叩かれる」ゲーム。これは"助詞を30分で理解する方法"です。それほど面白いゲームです。ぜひ上記記事を参考にやってみて下さい。

 

 〇小学生のための助詞学習テキスト

新日本語チャレンジ.jpg小学生でもうちょっと系統的に学習したいという場合は、助詞や文の指導の順序・方法を示した『きこえない子のための新・日本語チャレンジ』(改訂版1,600円)をお使い下さい。『動詞・形容詞活用練習ノートCD」(1,000)とセットで購入すると両方で2,200円になります。CDには沢山の練習問題やテスト問題などが入っています。  活用CD.jpg

                                   

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