全国の難聴児のための早期支援、聴覚障害教育の情報提供、教材などの紹介を発信します。

助詞の指導

 ある聾学校の先生から質問をいただきました。以下に引用します。

 

 先日、「AはBより~」が理解できていない児童に、「~より」の表現の指導をしようと教員間で話し合い、算数や普段の生活の中で「~より~」の文章をできるだけ使って(手話と文字表現を一緒に使う)話すように心掛けました。そうすると、児童の手話表現の中に「~より~」の手話が出てくるようになってきました。

 しかし、まだ「AはBより~」という文章の時、AとBを逆にしてしまうことがあります。どちらを基本にして比べるのかというところで、躓いているように思います。

 今は、文型を覚えて、そこに当てはめて考えているように思われます。なので、少し応用させた文章になると間違ってしまいます。どうやって教えてあげようかと悩んでいます。比較の「~より」のよい指導方法があったら教えて下さい。

 

 「より」は、国文法では格助詞に分類され、一つは「正門より入る」といった起点「~から」と同じ意味がありますが、もう一つは、今、ここで問題となっているような比較の意味があります。難聴児の多くが混乱するのは、「AはBより大きい」などの文で、どちらが大きいのかがわからなくて、「より」の前(近く)にある「B」のほうが大きいと答える子どもたちが少なくありません。どう指導すればよいでしょうか? 比較表現の指導1.jpg

 

 右図の文はJcossという検査にある問題文の一例です。

「包丁は鉛筆より長い」は、述部が形容詞で終わる「形容詞文」です(『日本語チャレンジ!』51頁参照)。文の最後が形容詞で終わる「形容詞文」には、適用可能な基本文型は2つあり、「A大きい」「太郎正しい」「水冷たい」などのいわゆる「主語+述部(形容詞)」の第1文型と、もう一つは「太郎パソコン詳しい」「花子地理疎い」など「~に」を必要とする「主語+~に+述部」の第3文型の二つです(「太郎は詳しい」だけでは何に詳しいのかがわからないので「詳しい」という形容詞には、「~に」にあたる情報がもう一つ必要です)。

 

さて例文「包丁は鉛筆より長い」の「長い」は、「~に」にあたる情報を必要としないので(「包丁は~に長い」とは言わない)基本文型は第1文型の「主語+形容詞」で、「包丁は長い」がこの文の基本となる文型です。 自動詞.jpgつまり、この例文で最も言いたいことは「包丁は長い」ということであり、「鉛筆」は、あくまで「包丁が長い」ということを言いたいがために、その比較の対象として持ち出されたと考えればよいわけです。言い換えれば、助詞「が」(は)は、「が」(は)が指し示しているそのものについて言っているので、それを指し示す視覚教材(品詞カード・右の写真のようなカード)を作るとわかりやすいです。

  比較表現の指導2.jpg

因みに江副文法では、「より」を助詞として扱わず、『時数詞構成語』として扱っています。時数詞とは、期間や範囲をあらわす名詞で、「明日」「来年」「3時」「春」「夕方」などがあり、これらは「明日、行きます」「夕方、雨が降った」のように助詞を省略した使い方が可能です。

『時数詞構成語』も、時数詞と同様な性質をもったことばで「~より」(3時より開始)、「~だけ」(一つだけちょうだい)、「~から」「~まで」(朝から晩まで)、「~くらい」(3分くらいしたら開けて)、「~ずつ」(一つずつ配る)、「~ながら」(食べながら飲む)、「~ばかり」(5分ばかり行くと)、「~きり」(一つきりしかない)などがあり(ほかにもあるが省略)、これらの「時数詞構成語」は、「時数詞」と同様に期間・期限・数量・範囲などをあらわします。 比較表現の指導3.jpg

また、「時数詞構成語」のカードの空欄に入る語は、図の例文のように名詞だけでなく、「食べ終わるまで」など、動詞も可能です。

 

さらに、文が複雑になったり、比較の対象が増えるときには、右図のように構文図の右端に関係がわかるように線分図を書き込み、比較しあうモノの名前を線上に書き込んで、理解しやすくします。

 

このような方法をとることで、「比較3問題」(本ホームページ>発達と診断>「この問 比較表現の指導4.jpg 題できますか?」参照)の3つ目の問題(下の問題) も比較的に容易に解くことができます。

A町、B町、C町、D町、4つの町がある。A町はC町より大きく、C町はB町より小さい。B町はA町より大きく、D町はA町の次に大きい。大きい順番を書きなさい。」

 

最初の質問に戻りますが、比較を表す言い方を学習するときに、ただ文で言わせるだけでは子どもにはわかりにくいので、視覚的な教材を準備し、「見てわかる」方法を使うとよいと思います。 比較カード.jpg 比較学習教材.jpgのサムネール画像 上の写真は、ある幼児の保護者が作った教材です。このようなカードを使うことで、子どもは、ラクに楽しく興味を持って比較文について学ぶことができます。 比較文.jpg

また、右の写真は、都内のあるろう学校で比較表現を指導するときに使われていた「比較表現お助けカード」です。分からなくなった時に、このお助けカードを使って学習するわけです。このような工夫も大切だと思います。

前回、日記の中で行う文法指導として、動詞、形容詞、なにで名詞を取り上げましたが、今回は、きこえない子たちの苦手な助詞「に、で、を」について書いてみたいと思います。

手話を日常的に使用している子たちは、「場所・どこ」「あいだ」「使う」「原因・理由・なぜ」「行く」などの手話は自然獲得しており、その意味・概念も理解しています。その手話を、助詞を教えるときの記号(=「助詞手話記号」)として使います。あくまで助詞を学習するための文法記号なので、日常生活での会話の中でその記号を使うわけではありません。また、その記号で助詞の意味・用法が全て説明できるわけでもありません(日本語の全ての文法を矛盾なく説明できる理論は今のところありません。例えば格助詞の範囲をどこまでとするか等は研究者によってまちまちですし、私たちが学校で習った「形容動詞」には多くの矛盾が含まれています)。そのことを理解した上でもなお、きこえない子にこの助詞手話記号を使って助詞の用法を教える効果は十分にあります。

 

さて、子どもの書いてきた日記には、助詞の誤りが必ずと言ってよいほどあります。そこで、その都度、子どもに直してもらうわけですが、これまでの聾教育の中では指導の方法がなく、ただただ「『学校で行く』とは言いません。『学校に行く』です」と、子どもにその理由を説明しない(できない)ままに、「日本語はこういうもんだから」という指導をしてきました。もちろん、研究者含めて日本中のだれも説明できないことが、日本語の中にまだまだあります。理由がわからなくても私たちは繰り返し日々使う中で自然獲得してきたのですから、意味や理由がわからなくてもきこえない子も何度も繰り替えせばきっと使えるようになる、という信念があるわけです。では、正しく使えるようになったのでしょうか? もしこの方法で助詞が身につくのであれば、同じ助詞の使い方を小1から高3までの教科書の中で何百回、何千回と見て声も使って読んでいるのですから「自然に身につく」はずです。しかし実態はそうではありません。

 きこえない子に必要なことは、説明できることは子どもにもわかるように説明し、子ども自身が自分で理解し、納得して使うという経験であり、それを積み重ねることです。それが日本語の指導であり、文法指導です。

 

では、日記を通して具体的にどう指導したか。C子さんの日記をとりあげてみます。C子さんの日記には助詞「で」がほとんど出てきません。使い方がわからない、というのが第一義的な理由でしょうが、助詞「で」は、実は使わなければ使わなくても済む助詞なのです。 助詞の使用頻度.jpgどういうことでしょうか? これについてはまた改めて説明しますが、ここでは、「で」は、文を詳しく説明するときにしか使わない助詞と理解しておいてください。図に示した二つの日記・作文例(図の左は聾学校幼稚部年長児の絵日記、右は聾学校小6児童の作文)はそれぞれ400字ほどですが、左の文例の中で、「で」は年長児の絵日記に一度しか出てきません(「ので」は接続助詞なので格助詞「で」とは異なります)。

 

 以下に、Cちゃんの日記の中から、助詞「で・に・を」を取り上げたものを紹介します。

一つ目のファイルは、助詞「で」の学習です。

助詞「で」の使い方.docx

 

二つ目のファイルは、助詞「に」の学習です。

助詞「に」の使い方.docx

 

三つ目のファイルは、助詞「を」の学習です。

助詞「を」の使い方.docx

 

四つ目のファイルは、助詞「に、で、を」の使い方のまとめです。

助詞のプリント.docx

 

格助詞「の」は、頻繁に使われています。「この机かばんはだれの?」「ぼくかばんだよ」とか、「6年生○○です。よろしくね」とか、頻繁に使っているので、格助詞の中ではどちらかといえば間違うことの少ない助詞かもしれません。

 とはいっても、文の中に出てくる「の」をどの子も正しく読み取れているかというと、そうともかぎりません。そこで、名詞と名詞のあいだにある「の」について考えてみたいと思います。まず、小1の教科書に出てくる「の」をみてみます。

 

1.「はる花 さいた  あさひかり きらきら」(光村図書1頁)

2.「くまさんが、ともだちりすさんに、ききに いきました。」(同27頁,下左図)

3.「ながい ながい、花いっぽんみちが できました。」(同29頁,下右図) はなのみち2.jpg はなのみち1.jpg

 

 これらはいずれの「の」も名詞と名詞のあいだにある「の」です。このような「の」は、前の名詞がうしろの名詞を修飾しているのが特徴です。その意味では、名詞の前にくる形容詞のはたらきとよく似ています。例えば、上記1~3の「名詞+の+名詞」のところを、形容詞を入れた文にしてみると、よくわかります。

 

1.「はる花」→「赤い(形容詞)花」、

  「あさひかり」→「まぶしい(形容詞)ひかり」

2.「ともだちりすさん」→「かわいい(形容詞)りすさん」

3.「花いっぽんみち」→「ながい(形容詞)いっぽんみち」

 

「名詞++名詞」は、名詞を修飾する形容詞(「形容詞+名詞」)と同じような修飾用法になっています。意味としては「名詞+の」も名詞を修飾している「形容詞」も、「どんな~」という意味になっています。ですから、「名詞++名詞」も「形容詞+名詞」で大切なのはうしろの名詞で、前の名詞や形容詞はうしろの名詞をくわしく説明している名詞や形容詞ということになります。

そこで文に即して質問文をつくってみます。

 

1.「どんな花ですか?」→「はる花」(=はるに咲くところの花)

2.「どんなりすさん?」→「(くまさんの)ともだちりすさん」(=ともだちであるところのりすさん)

3.「どんないっぽんみち?」→「花いっぽんみち」(=花でできているところの道)

 

 このように、「名詞+の+名詞」が出てきたら、「どんな~」を使って質問することで、「の」の役割をはっきりとさせるとよいと思います。ただ、上の例文では「どんな~」でよいのですが、文によっては「だれの~」や「なんの?」「どこの~」「いつの~」などのほうが文に合っている場合があるので、文に合うかたちで質問するとよいと思います。例えば

上の「はるの花」の「はる」は季節・時間を表すことばなので「いつの花?」ときいたほうがよいでしょう。以下、例をいくつかあげてみます。

 

4.「これは、きつつきくちばしです。」(小1上・光村図書・44頁)

→「どんなくちばし?」よりも「なにくちばし?」

5.「はちどりは、ほそながい くちばしを、花中に いれます。」(同48頁)

  →「どんな中?」よりも「なに中?」

6、「そして、花みつを すいます。」(同48頁)

  →「どんなみつ?」よりも「なにみつ?」

 

では、次の文の違いを説明するとき、どう子どもに尋ねればよいでしょうか?

1.うしろ車に乗ってください。

2.車うしろに乗ってください。

 

1.「うしろ」は位置をあらわすことばなので、「どこにある車?」→「うしろにある車」

2.「車」はものの名前なので、「なにのうしろ?」→「車のうしろ」

年末のNHK・Eテレ「ろうを生きる難聴を生きる」で「日本語獲得の実践」をご覧になり、そこで紹介された『きこえない子の日本語チャレンジ』について問い合わせを沢山いただきました。そのなかで、きこえない子お子さんをお持ちの保護者数名の方から、「助詞がなかなか身につかないので困っている。どうすればよいか?」という質問をいただきました。

この掲示板では、すでに何回もお伝えしていますが、まず、きこえない子にとって難しい助詞とは、「が(は)、を、に、で、と、の」という一文字の格助詞です(「より」とか「から」「まで」といった助詞は比較的わかりやすく、「東京から大阪まで」といった使い方の中で身につきます)。

まず、そこで提案したいのは、日本語の基本的な文型にそって助詞と動詞の組み合わせて助詞の使い方を身につけるということです。

助詞が身についていない子というのは、助詞だけでなく語彙の数も少ない傾向がありますが、それでも「食べる」「飲む」「行く」「作る」といった基本的な動詞は30とか40は知っていると思います。その知っている動詞を使って助詞を身につけるわけです。

例えば「食べる」「飲む」といった動詞には、必ずその動詞とセットになって使う助詞があります。それはなんでしょうか? 「を」ですね。「食べる」「飲む」という動詞は、必ず「を」が必要なわけです。それを確かめるためには、誰かに「飲むよ!」とか「飲もう」とか言ってみればわかります。そのことばを言われた人は「なにを?」ときいてくるはずです。つまり「飲む」という動詞は「~を飲む」とセットで使う動詞なのです。 oroti2.jpg.jpg

では「行く」はどうでしょう? もしあなたが誰かに「行くよ」と言えば、相手は「どこに?」ときいてくるでしょう。「行く」は「~に行く」と「に」とセットで使う動詞なのです。

 では、「作る」はどうでしょうか? もうおわかりかと思いますがこれは「~を作る」ですから「を」とセットに使う動詞ですね。

 それでは「会う」はどうでしょうか? これは「だれに」か「だれと」ですから、「に」もしくは「と」とセットになる動詞です。

 このような動詞と助詞のセットの文型を基本文型と言います。その基本文型は添付したファイルのように5つあります。どのような日本語もだいたいこの基本文型で作られています(但し主語を省略したり、助詞を省略したりは、会話では常にあります)。

 ですから、まずはこの基本文型で動詞と助詞を組み合わせて文が作れるようになればよいわけです。 jyosikigou.JPG

 その次の段階として、私たちが開発した「助詞手話記号」を使って、助詞の使い方を学習します。こうした方法で基本的な格助詞は身につきます。あとは、実際に文を沢山作ることです。それは日記・作文指導のなかで行うわけです。

 

 

 

◎助詞の指導はどうすればよいか(2)

「聾学校の先生に助詞の指導をしてほしいとお願いしていますが、なかなか助詞の誤りがなおりません。聾学校の先生もいろいろな教材を紹介してくれるのですが、いまいちピンときません。なにかよい方法はないのでしょうか?」

 

 このようなメールを、ある保護者からいただきました。きこえない子に関わる多くの教師や親が抱えている悩みです。「そんなプリントなんかで助詞は身に付かない」という人もいます。「では、どんな方法がありますか?」と尋ねると、「日々、学校や家庭の中でのやりとりを通してわからせていくしかない」と。確かに正論です。助詞は子ども本人が自分で表出し、誤りに気づき、修正していくしかないのです。こうした方法は「自然法」と呼ばれ、この20年くらいはきこえない子の指導方法の主流となってきました。で、その結果はどうであったかと考えると、はなはだ心許ない。いや、その結果を客観的に検証してもいない、というのが正確でしょう。子どもの助詞の理解・運用力はいっこうにあがってはいないのが現実です。「生活の中で」というのは、正論ではあっても現実の生活の中では相当の覚悟をしないかぎり難しいのです。

 

 ではどうすればよいのでしょうか? 私は、使えるものはなんでも使えばよいと思っています。先にも書いたように、助詞は自分で「話す」か「書く」ことを通してしか身に付きません。教科書を何十編何百編読んでも「読む」「聞く」(入力)だけでは決して身に付かないのです(「読んで」助詞が使えるようになるのであれば、子どもは毎日、何百の助詞を、教科書の文の中で見たり読んだりしているのですから身に付くはずです)。

 ですから、日常のやりとりの中で助詞の間違いがあったら言い直しさせる(話す=出力)のも必要ですし、日記を書かせたり、短文を暗唱させる(書く=出力)のも必要でしょう。ただ、日記には、その前提となる基礎的な語彙力の問題や表現力の問題があり、語彙を知らないと、毎日毎日「○○をしました。○○をしました。・・・楽しかったです。」というワンパターンの文を書くことになり、なかなかそこから発展していきません。また、間違った助詞の使い方を直されても、なぜ、その助詞が間違っているのかわからないと、また同じ間違いを繰り返します。

しかし、小学生になれば、「『スーパー行きました』ではなくて、どこかに行くときは『に』を使うから、『スーパー行きました』だよ。じゃあ、『学校 行きました』『海 行きました』はどうなる?」と説明すれば、理解できるようになります(こうした方法は「自然法」に対して「構成法」と呼ばれます)。 IMG.jpg

絶対的な音声情報が不足する聞こえない子には、こうした分析的な方法も併せて使わないと、会話の中だけで助詞を習得するというのは、効率的でもないし、現実的でもありません。子どもに合わせていろいろな方法を組み合わせて使うことが、子どもの助詞攻略につながります。本研究会で出版した『日本語チャレンジ!』も、助詞の用法の説明・理解(入力)と練習・表現(出力)の手立てのひとつとして使えますし、ぜひ、使ってみていただきたいと思います。