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動詞の習得はなぜ難しいか?

 きこえない子が身につける語彙数は、きこえる子と較べると圧倒的に少ない。とりわけ動詞の獲得数が少ないということがよく言われます。

 JCOSS(ジェイコス)と言われる「日本語理解テスト」においても確かに名詞(事物の名前)、形容詞、動詞の中では、動詞の得点が低くなる傾向があります。 文の構造.jpg

しかし、動詞はいわば「文の要」で、全ての文節が文の最後にある動詞にかかる構造になっている(*文末には名詞や形容詞も来ますが動詞が来る場合がほとんどです)のが日本語ですから、動詞がわからないと文が理解できないと言っても過言ではありません。ですから、動詞を身につけることを最重点課題として意識する必要があります。

 

〇なぜ、動詞が身につかないか?

 では、なぜ、動詞を身につけるのは難しいのでしょうか? それは、ひとことで言えば、動詞は事物名詞のようにはっきりと見えて、区別することができることばとは違うということがあります。例えば、「スマホとって」と言えば、テーブルの上に置いてあるスマホをテーブルと一緒に持とうとする人はいないでしょう。誰でもテーブルとスマホはちゃんと区別がついているからです。

一つの動詞がこんなに変わる.jpgしかし、動詞の「歩く」と「走る」とでは、その区別は明確ではありません。連続した動きのどこからそう呼ぶのか、子どもにはわかりません。そのようなわかりにくさがあるために、子どもは何度もそうした場面を経験するなかで、だんだんと「このゆっくりした動きは『歩く』、この早い動きは『走る』と区別できるようになるわけです。

 もうひとつ難しいのは、動詞は活用することです。動詞には、いろいろな意味が加わってかたちが変わります。例えば、「昨日、太郎は、一日、勉強させられていたらしいね」という文があったとします。この文の「勉強させられていたらしいね」という動詞の基本のかたちは、「(勉強)する」ですが、この基本のかたちがいろいろな意味が加わることで変わっていくわけです。 動詞活用の複雑さ.jpg

 

①態(voice)   勉強「させられ」の部分です。

 これは使役「させる」と受身「られる」がくっついて、使役受身というかたちになって「させられ」となった部分です。使役によって「誰かがやらせている」という意味が加わり、受身によって「太郎がやらされている」という意味が加わります。この二つから、いやいややらされているということがわかります。

 

②相(aspect  勉強させられ「てい(る)」の部分です。

 これは、「~ている」で継続の意味が加わります。ただの「させられる」ではなく、「させられている」になることで、いやいやの勉強がある程度長い時間継続していることがわかります。文では「一日」となっていますから、朝から晩までやらされていたのだということがわかります。

 

③時制(tens) 勉強させられてい「た」の部分です。

 「る」ではなく「た」になることで、過去のことだという意味が加わります。文では、昨日のことですね。

 

④意志・意向(mood)  勉強させられていた「らしいね」の部分です。

 ここには話している人の気持、伝聞、推測などが入っています。太郎が勉強させられていたのが事実かどうかはわからないけど、そう私は聞いたよ、あなたは知っている?といった意味がここに入っていることがわかります。

 

このように動詞は複雑に変化するので、かなり使い慣れないとルールを身につけることが難しいということがあります。きこえる人は、生まれてこのかた何度も何度もこういう言い回しを耳にし、自分でも使う中で、ほとんど無意識にそのルールを習得していきますが、きこえない子には難しいことです。聴力が重くなればなるほど。

そこで、ある程度、きこえない子は、文法を意図的に学習することで対応する必要があります。その学習は聾学校では小学1年生から積み重ねていきます。「動詞の活用」の学習、「使役文」の学習、「受動文」の学習、「~ている(て形)」の学習、「現在形・過去形」の学習などの結果として、この文の動詞部分の正しい理解・表現ができるようになります。

 

〇動詞の理解度を調べてみよう!

そこでまず、子どもが、動詞の語彙や文法をどのくらい理解できているか調べてみるとよいと思います。もし、動詞が理解できていないのであれば、それなりの学習をする必要があります。

このホームページの「動詞のテスト」のところに、『動詞テスト』(PDF)があります。

動詞の反対語、常体と敬体、自動詞・他動詞、タ形・テ形、授受(やりもらい)文、受動文、使役文、可能表現、尊敬表現、複合動詞などについて調べることができるできますのでぜひやってみていただきたいと思います(ここからもダウンロードできますが、学年別平均点など知りたい方は、本HP>発達の診断と評価>動詞テストをご覧ください)。

動詞テスト(TK版2).pdf

 

〇動詞の学習をしよう!

絵でわかる語彙編.jpgそして、この『動詞テスト』で80点以下なら、意図的に動詞の指導をする必要があります。といってもどういう内容でどういう順序でやるのかというと、その指導内容も方法も自分で考えなければならないのが我が国の聴覚障害教育の現状です。そこで『絵でわかる動詞の学習』と『はじめての動詞の活用CD』を使っていただけるとよいかもしれません。このワークブックには解説書もついていますので、解説をみながらやる こともできます。内容も目次のように、語彙から文法 活用頁例.jpgまで一通り学習できるようになっています。(右上は「語彙編」、右下は「活用編、受動文」の例)

 

また、CDには、パワーポイント教材のほかに、ワークと同様の別問題が80数枚プリントアウトできるようになっています。さらにイラストを使って別のプリント問題を作成することができます。

(本ホームページ>出版案内(難聴支援)または、論文・資料・教材>絵でわかる動詞の学習を参照して下さい。)『絵でわかる動詞の学習』+『はじめての動詞の活用』セット2,200円

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『絵でわかる動詞の学習』についてはこちらから↓ 

 

http://nanchosien.com/papers/cat42/post_95.html