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動詞形容詞等の指導

きこえない子に難しい文法項目の一つに「受動文(受身表現)」があります。実際、聾学校の小学部低学年の段階では、半分以上の子どもが受動文の問題を間違えます。その多くの子どもは受動文を、"能動文として"読んでしまう傾向がみられます。

 

1.直接受動文の指導

 

 では、受動文はどのように指導すればよいのでしょうか?

実は受動文には二つの種類があります。一つ目は「直接受動文」と言われるものですが、これは、

   「太郎 花子 叩いた」(能動文)に対応する

  「太郎 花子 叩かれた」(受動文)のような文です。

 

 ここで使われる動詞は、「~が~を ~する」の文型に用いられる動詞ですから、他動詞です。これは、主格と目的格とを逆にして、助詞を変えればできます。子どもたちへの受動文の最初の指導は、まず、この「直接受動文」が作れるようにすることです。

 

 国語の教科書の中では受動文はどのあたりで出てくるのでしょう?  狸の糸車.jpg

光村図書を調べてみたら、小1下の『たぬきの糸車』に「かわいそうに。わなになんてかかるんじゃないよ。たぬきじるに されてしまうで」という一文がありました。1年生ではまだそんなに多くありません。

どこでいちばん沢山出てくるのだろうと調べてみると、光村図書の小2下『スーホの白い馬』に8回受動文が出ていました。受動文は、主人公の立場に視点を据えて書かれるときによく用いられますが、下の2番目の添付ファイルにある赤線部分がちょうどそのような使い方がされているところです。(右下図)

 

 1「スーホは、おおぜいになぐられ、けとばされて、気を失ってしまいました」

 2「スーホは、友だちに 助けられて、やっとうちまで帰りました。」

 3「それでも、(スーホは)白馬をとられた悲しみは、どうしても消えません。」

 

文法指導_0001.jpg 受身表現1.jpgのサムネール画像のサムネール画像 このような使い方をすることによって、読む人はスーホの立場に自分が立ち、その理不尽さに強く共感できます(もし能動文で、1「スーホを おおぜいがなぐり、けとばしたので、スーホは気を失ってしまいました」、2「スーホを 友達が 助けて、やっと スーホは うちまで帰りました。」となると、視点がスーホから離れ、やや他人事のような感じになります)。

 

このように、日本語では受動文が頻繁に用いられます。その使い方・使われ方を理解しておかなければ、教科書の文章を深く読みとることができません。まして、受動文を能動文として理解してしまったのでは、全く文の意味がわからなくなってしまいます。ですから、どこかで受動文を集中的に取り上げて指導し、教科書の中で出てきた時に、また指導するという繰り返しが必要なわけです。

以上が直接受動文です。作り方としてそれほど難しくありません。ではもう一つの受動文=「間接受動文」はどうでしょうか? 

 

 

2.間接受動文の指導

 

直接受身は、「~(主格)が~(目的格)を・に~する」の文型の主格(主語)と目的格(目的語)が逆になるだけ(するーされるの関係)で、その言い方にさえ慣れれば、そう難しくはないと書きました。指導しさえすれば、きこえない子も確かに理解できるようになります。

では、もう一つの「間接受動文(間接受身文)」はどうでしょうか?

 

間接受身は、日本語特有の表現といわれ、例えば次のような文です。

 

1―()「オレオレ詐欺に お金を とられた」(間接受身文)

2―()「電車で 子どもに 大泣きされた」(同)

 

では、この文を能動文に直すとどうなるでしょうか?

   1―()「オレオレ詐欺が お金を とった」(能動文)

   2―()「子どもが 大泣きした」(同)

 

この二つの文は能動文です。では、直接受身文にかえることはできるでしょうか? 直接受身は主格と目的格が必要でした。しかし、2―()は、「~を」(目的格)にあたる語はありません(つまり動詞は自動詞)。ですから、直接受身文にはできません。

しかし、1-(2)は「(お金)~を」という目的格があります。ですから「お金」を主格にすれば、直接受身文ができます。

 

1―()「お金が オレオレ詐欺に とられた」(直接受身文)

 

ただ、日本語ではあまりこういう言い方はしません。この場合、やはり1-()の「オレオレ詐欺に お金を とられた」という言い方が普通です。では、この文の本来の主格(主語)にあたる人(お金をとられた人)はだれでしょうか? ここではオモテに出てきていませんが多分、「わたし」とか「母」などですね。その省略部分の主格を補って間接受身文にすると以下のようになります。

 

 1―()②「(母が) オレオレ詐欺に お金を とられた」 

 

間接受身文は、このように、迷惑を受けた人、被害を受けた人、困っている人などが存在し、その人の立場に立った言い方なのです。また、直接受身文と違い、2―()のような自動詞でも受身文を作ることができます。

 

 2―()②「(わたしは)電車で 子どもに 大泣きされた」

 

 さて、ここでまた、国語教科書「スーホの白い馬」の文をみてみましょう。前回、とり上げた三つの文のうち、三番目の文、これが実は間接受身文なのです。以下の文です。

 

3「それでも、白馬をとられた悲しみは、どうしても消えません。」

 

 この文の修飾節になっている「白馬をとられた」というところです、この部分を能動文にし、省略された部分を復元すると以下のようになります。

 

 3-()「(殿様が) 白馬を とった」(能動文)

 

 この能動文には表現されていませんが、ここには、白馬をとられて悲しんでいる人=スーホがいます。これが本来の主格です。その主格を補うと、以下のような間接受身文になります。

 

 3―()「(スーホが)(殿様に) 白馬を とられた」(間接受身文)

 

もう一度整理すると、以下のようになります。間接受身文を作るには、能動文の主格についた「~が」を「~に」に変え、能動文では隠れていた迷惑を受けた人( )を主格にすれば、間接受身文になります。

 

「(  )   オレオレ詐欺が お金を とった」(能動文)

「(母が)  オレオレ詐欺に お金を とられた」(間接受身文)

 

「(  )   (殿様が)   白馬を とった」(能動文)

「(スーホが) (殿様に)   白馬を とられた」(間接受身文)

 

 さて、これを小2の子に教えるとなるとちょっと難しいと思います。直接受身文のように能動文の中にあるパーツ(語)だけを使って作り替えることができないからです。ですから、教科書の中では、「白馬をとられた悲しみ」から、「白馬をとった」人はだれか、「白馬をとられ」悲しんでいる人はだれかを考えさせることから、こうした類の例を子どもたちの経験から出させるとよいのではないかと思います。例えば、「~に隣に座られて嫌だった」「~にジーッとみつめられて困った」「~にワイワイと騒がれてうるさかった」など「~に~されて、(迷惑)だった」という構文の練習です。

 

動詞の活用のグループを見分けるにはどうすればよいでしょう?という質問をいただきました。動詞の活用は確かに複雑です。しかしきこえる人はいちいち表にして規則を書きだして覚えたわけではなく、会話の中で自然に覚えたものです。ただ、きこえない子とくに聴力も厳しい子たちは「自然に」ということはなかなか難しく、効率的に学ぶには、活用表で学習し、例文を作りながら覚えていくという方法をとることになります。 動詞活用~国文法は複雑.jpg

では国文法でやったような活用表を作るのかというと、そうではありません。国文法の活用は非常に微に入り細にわたっているので、子どもの動詞活用の学習には使えません(右図参照)。

 そこで日本語教育では「~ない」という「ナイ形」で見分け方を教えます。

例えば「行く」は「行かない」、「要る」は「要らない」です。「ナイ形」の前が「か」や「ら」に変わる場合は1グループです。
 「教える」は「教えない」、「居る」は「居ない」です。このように「ナイ形」の前が変化しない場合は2グループです。 G日本語教育の動詞活用3.jpg

しかし、きこえない子は、この「ナイ形」を作ること自体が難しい子もいます。

そのような場合はどうすればよいでしょうか?

 

 そこで、次のようにします。

動詞のうち、基本形が「~る」以外の動詞は全て1Gです。
基本形が「~る」の動詞のうち「い段」と「え段」+「る」の動詞が2Gです。例えば「みる」「いる(居る)」「きる(着る)」「おきる(起きる)」「たべる」「かえる(変える)」・・・それ以外は1Gです。例えば「まわる」「くくる」「おこる(怒る)」

ところが「い段+る」「え段+る」で2Gかと思いきや、1Gという例外の動詞があります。
「きる(切る)」「いる(要る)」「はしる」「知る」「はいる(入る)」「かえる(帰る)」などです。(ほかにもあるかもしれません)
これは例外として扱い。活用表のどこかに書いておくとよいと思います。

 

 

◎動詞活用の指導法

動詞の活用は国文法では、5つに分けています。しかし、子どもに教える時にはこんなに細かくする必要はありません。日本語指導では3つに分けます。

  1グループ・・・国文法五段活用

  2グループ・・・国文法上一段活用、下一段活用

  3グループ・・・国文法か行変格活用、さ行変格活用

 

日本語指導では、動詞の活用部分は、右表の下のほうを見ていただければわか 1グループ活用(1).jpgるように、「ない形」とか「丁寧形」とか「仮定形」「命令形」・・・といったように実際に使われるときの使い方に即して分類しています。

さて、実際にこの活用の指導の仕方ですが、この3つのグループの中で、「食べる」「着る」といった2グループ動詞は活用は単純なのでここでは省略します。また、3グループ動詞の「来る」「する」は、特別な活用で、そのまま覚えるしかないのでここでは扱いません。

ここでは、1グループ動詞(以下1G)を例に指導方法について書いてみます。3Gは2つしかないので、残りの動詞は1Gか2Gのどちらかですね。

 

動詞が1Gか2Gかの見分け方は以下のようにします。

a.基本形が「~る」以外のウ段の動詞は全て1Gです(「洗う」「歩く」「飲む」)

 

b.基本形が「~る」の動詞のうち、「-iru」「-eru」になる動詞は2G、それ以外は1Gです(例えば「着る、起きる、食べる」は2Gです。「謝る」「作る」「掘る」などは1Gです。1Gは「-aru」「-uru」「-oru」になります。

 

 c.「-iru」「-eru」となる動詞のうちいくつか例外があり、それらは「切る、走る、知る、入る、帰る」などです。これらを見分けるには「~ない」の形にしたときに、「~らない」となります(「切らない」「走らない」・・)。1G動詞は全て「~らない」です。

 

 以上のことより「歩く」は、見分け方aで1Gであることがわかります。1G動詞は上表を使います。 1グループ(2).jpg

 

1.まず、この表の上のほうの欄に「あるく」と書きます。「く」はカ行なので、下の五十音表をみて、表の右の欄に縦に「か、き、く、け、こ」と書きます(右表)

 

2.表のそれぞれの欄に、それぞれの色の字と同じになるように、「あるか」「あるき」「あるく」・・と順に書いていきます。(左下表)

 

3.空欄(白色欄)のところは、右下の表を見ながら書きます。「あるく」の場合は、「~く」なので、「く」で終わる動詞は「~いて」になることから、「あるいて」に変わることがわかります。

 

1グループ活用(3).jpgのサムネール画像

  1グループ活用(4).jpg